第173話 レオがおかしな気配を察知しました



「ワフ?」

「レオ、子供達と遊んでたのか」

「……ワフ……ウゥゥゥゥ」


 奥さんにスープを頼んで家を出ると、数人の子供達が集まってレオと戯れていた。

 俺が出て来た事に気付いたレオは、子供達がらいったん離れ、こちらへと近づいて来る。

 しかし、その途中で一度首を傾げたレオは、不審気に鳴いてうなり始めた。


「どうしたんだ、レオ? 何かあったのか?」

「ワフワフ……ウゥゥゥゥゥゥ」


 近づいて来る途中で止まって、俺に向かってうなるレオ。

 一体どうしたんだろうと声を掛けてみると、鳴きながら首を振ってまたうなる。

 ……もしかして、俺というより、俺が持っている物……か?


「これか?」

「ウゥゥゥゥゥ! ガウワウ!」


 俺が手に持っていたガラス球をレオの前に持って行くと、さっきまでより強くうなった後、吠えた。

 その声を聞いて、横にいたハンネスさんは体を硬直させている。

 子供達は、レオの後ろから様子を窺っているが、急に様子が変わったレオに怯えている様子だ。


「……すみませんハンネスさん、ちょっとこれを持っていてもらえますか?」

「は、はい。……大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですよ。レオは誰かを襲うために吠えてるわけじゃありませんから」


 レオの様子を恐る恐る窺っているハンネスさんに、ガラス球を渡しながら、安心させるように笑顔で話す。


「ワフ……」


 俺がガラス球をハンネスさんに渡した事で、レオは安心した表情を浮かべた。

 やっぱり、あのガラス球に何か感じる物があったんだろう。


「よしよし、皆が怯えるから、あまり強く吠えたりしたら駄目だぞ?」

「ワフゥ」


 レオに近付いて、体を撫でながら落ち着かせるように話しかける。

 俺の言葉で、子供達も怯えてる事に気付いたレオは、申し訳なさそうな声を出して頭を垂れた。


「しかし、どうしたんだ? 魔物が出たわけじゃないのに、急にうなり始めるなんて。あのガラス球に何かあるのか?」

「ワフ。ワフワフ……ワウー」


 俺の問いかけに、一度頷いて肯定した後、説明するように鳴き始める。

 ふむ……ガラス球から嫌なものを感じる……か。


「それはどんな感じなんだ? 魔物のような気配とかか?」

「ワフワフ。 ワーウワウワウ」


 魔物のような気配というのに対し、レオは首を振って否定する。

 えっと……この村に来てすぐに、かすかに感じていた感じと似ている……か。

 魔物じゃなく、この村に来た時に感じた気配って一体なんだろうか。


「この村だけか? 今でもここでその気配はあるか?」

「ワフワフ。 ワフワフン、ワフワフワーフワフ」


 ふむふむ……今はこの村のその嫌な感じは無くなった、と。

 同じような気配は、ラクトスの街で感じたのか……えっと、孤児院?

 孤児院でも同じ嫌な気配を感じた……この村と孤児院との共通点って……。


「もしかして……病気……か?」

「ワフ!」


 レオが肯定するように、大きく頷く。

 この村と、ラクトスの孤児院であった共通する事は、病気が蔓延していた事だろう。

 子供がいる事も共通している事だが、それだと今その気配を感じないのはおかしい。

 子供好きなレオが、子供に対して嫌な気配を感じるなんて事も無いだろうしな。


「つまり、孤児院とこの村で病気が蔓延してた気配と同じものを、あのガラス球から感じるんだな?」

「ワフワフ。ワーワフワフ」


 またも頷くレオ。

 レオが言うには、孤児院や村の人達が病気だった時に感じていた嫌な感じ……気配が、ガラス球からはより濃く感じるという事らしい。


「どういう事だ……ガラス球から似たような気配……それも濃く感じる……というのは……」

「……どうされたのですか?」


 どういう事か考えている俺に、ガラス球を持って様子を窺っていたハンネスさんが話しかけて来る。

 俺が深刻な表情をしていたためか、ハンネスさんの顔は心配顔だ……多分、まだレオの様子がおかしいんだと思っているんだろうな。


「あぁ、すみません。レオの方はもう大丈夫ですよ」

「……そうなのですか? ですが、何やら深刻そうな顔をされていましたが……?」

「レオとは別の事ですから。な、レオ」

「ワフ」


 ハンネスさんを安心させるため、硬くなった表情を崩しながら声を出す。

 レオの方も、怯えさせないよう俺の言葉に頷いて安心させてくれた。

 しかし、そのレオの目線はハンネスさんの持つガラス球から離れない……嫌な感じがするから、どうしても気になってしまうんだろう。


「……本当に大丈夫、なのですね?」

「はい」

「ワフ」


 再度確認をして来るハンネスさん。

 まだレオにそこまで慣れてないというのがあるんだろう。

 子供と違って、村長という立場もあるため、こういう事に対しては少し警戒してしまうのかもしれないな。

 俺とレオがもう一度しかり頷いて返事をすると、ようやくハンネスさんは安心したように息を吐いた。


「それで、レオ様が大丈夫なら何故難しい顔をされていたのですか?」


 安心はしたが、俺が深刻そうな顔をしていたのは気になるようだ。


「その事なんですが……ハンネスさん。この球は危険な物かもしれません」

「これがですか? ですが、これはワインを美味しくさせるための物なはずですが……?」


 ハンネスさんは、ガラス球を持って来た商人の事を信用しているようだ。

 まぁ、ブドウを仕入れる先の商人なのだから、信用してないと取引なんて出来ないだろうから、当然の事か。


「レオがさっきから様子がおかしかったのは、この球が原因なんです。この球からは、村の人達が掛かった病と同じ気配がする……と」

「ワフワフ」

「この球が……そんな……」


 レオが病と球に同じ嫌な気配を感じ取った事をハンネスさんに説明する。

 俺の横で、レオも同意するように頷く。

 ハンネスさんの方は、信じられないというようにガラス球を見た。


「確認しますが……このガラス球を商人が持って来たのは1カ月と少し前。そして、この村に病が蔓延したのはいつ頃ですか?」

「この球を持って来た商人は、先程言いましたように、1カ月と少し前で間違いありません。……この村の物が始めに疫病に罹ったのは……確か、1カ月程前になります。最初は蔵で働く者が一人だったのですが、少しづつ広がり始めて……」

「そうですか……」



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