第174話 疫病の関係とガラス球の関係を推測しました



 例の店がラクトスに出来たのも、1カ月と少し前。

 正確な日付はわからないが、このガラス球がランジ村に来た頃と同じ頃だ。

 そこから、例の店は街にある店から薬を買い占めて準備、緩やかに広がり始めた病気に対して、薬を求める街の人達相手に商売を始める。

 後は、人から人へうつっていく病気が広まれば、簡単に儲ける事が出来るというわけだ。

 予防の概念も無いんだ、マスクも当然無いわけで……風邪と同じようなものと考えると、簡単に感染する事だろう。


 ランジ村は少し街から離れてるから、薬を買いに行くのが遅れたのだろう。

 ……俺の勝手な推測だが、隣の伯爵家が仕組んで、このガラス球を原因と考えるのであれば、全てが繋がる気がした。


「ガラス球が原因……か……だとすると、病が広がった原因は……だけど待てよ……ガラス球一つで病気を発生させられるのか……? そもそもこの村で病が流行ったにしては、ラクトスの街での広がりが早すぎる……ハンネスさん達は最近村を出たばかりだし……」


 周りの目も気にせず、一人で思考に没頭する。

 ガラス球がどういう作用をして、病を広がらせたのかがわからない。

 仕組みなんかは、魔法のある世界だから解明しようとしても俺には出来ないのかもしれないな……。


「仕組みはともかく、どうしてランジ村にとどまっているはずの病がラクトスに広がっているのか……」


 ランジ村の人達は病に苦しんでいた。

 とてもじゃないが、村を出て移動する事は出来なかっただろう。

 その状態で、ラクトスまで病が広がるのか……?


「ハンネスさん、その球が置かれてから今までの間に、ラクトスの街へ行った事はありますか? 薬を買い付けに行ったハンネスさんとロザリーちゃんは除いて、です」


 一人でぶつぶつ言っていた俺を、訝し気に見ていたハンネスさんに話しかける。


「ラクトスへですか? ラクトスはこの村から近い一番の街ですから、ワインを卸す得意先です。なので、5日に1度はワインを届けに村の者が行っています」

「成る程……そうですか……」


 その時に、病にかかっていた村人から街の人達にうつった……?

 んー、ワインを卸すだけで街全体に広がる程流行るものだろうか……?

 まてよ……そもそもガラス球は何でワイン蔵なんだ?

 ガラス球から人に作用して病を引き起こすのであれば、ワイン蔵よりももっと人の集まる場所の方が良い。

 それこそ、ラクトスで流行らせたいのであれば、ラクトスの広場にでも置いておけばいいはずだ。


「んー……わからないな……」

「……どうかされたのですか?」

「いえ、ランジ村で流行った病の原因がわかりそうで、わからないんですよ……」

「病の原因……ですか?」

「はい。そのガラス球と、ハンネスさんが買わされそうになった粗悪な薬を売る店……ラクトスとランジ村での疫病の流行……全部同じ時期の事なんです。何かしら繋がりがあると思うのですが……」

「繋がり……そんな事が……」


 何やら推理物のように、思考を巡らせているが……これがわかれば例の店に対して何かが出来る気がするからな。

 証拠、とまで言えるのかはわからないが、それでも何かしらの手段としたいところだ。

 孤児院の子供達やライの両親等、病で苦しんでる人達を見たから尚更……。


「タクミ様……迷惑を掛けました……」

「あぁ、フィリップさん。具合はどうですか?」

「ラモギのおかげで、悪くはありませんね。……少々頭痛がしますが……」

「二日酔いでしょうねぇ。昨日あれだけワインを飲んだんですから」


 ハンネスさんと話しながら色々考えてるうちに、家の中からフィリップさんが出て来た。

 二日酔いで顔色が悪い以外は、特に問題は無さそうだ。


「……しかしフィリップさん……その手に持っているのは?」

「あぁ、迎え酒ってやつですよ。二日酔いの時はこれが効くんです」


 よりにもよってフィリップさんの手には、ワインが並々と注がれたカップがあった。

 二日酔いをどうにかするために、またお酒を飲んでどうにか症状を緩和するというのは聞いた事があるが……確か、あれってアルコールで感覚が鈍って頭痛を感じにくくなるだけで、実際の効果は無いはずなんだがなぁ……。


「いやぁ、ハンネスさん。ありがとうございます。奥さんのスープも体に染み渡るようでしたけど、このワインも美味しくて」

「この村自慢のワインですからな。美味しく飲んでいただけるのを見るのが喜びですよ」


 フィリップさんはスープを飲んだうえで、さらにワインを飲もうとしているのか……。

 確かに昨日飲んだワインは美味しかったが……。

 村で作ってる物が褒められて悪い気はしないのか、さっきまでの会話を忘れて嬉しそうにするハンネスさん。


「ワウ! ガウ!」

「なんですか!?」

「ひぃ!」


 笑いながら手にしたワインを飲もうとしたフィリップさん。

 その時、レオがいきなりフィリップさんに向けて吠えた。

 突然の事に、フィリップさんもハンネスさんも、俺も驚いている。


「どうしたレオ、何があったんだ?」

「ワフワフ、ワウ。ワーウワウ」


 レオをなだめるように、体を撫でながら何故いきなり吠えたのか聞く。

 本来おとなしいレオは、何もないのに突然吠えたりはしないはずだからな。

 吠えられて驚き、手が止まっているフィリップさんの持つワインから目を離さないまま、レオが俺にどうして吠えたのかを伝えようとしている。

 えっと……あのワインからガラス球と同じ嫌な気配が微かにする……病のにおいと一緒……と。

 ワインから病の気配だって?


「あのワインから……レオ、本当なのか?」

「ワウ」


 俺の確認に肯定するように頷いたレオ。


「……フィリップさん、そのワインは飲まない方が良いですね」

「タクミ様?」

「レオから、そのワインから嫌な気配がする……と。ハンネスさん」

「は、はい?」


 フィリップさんがワインを飲まないように注意をしながら、ハンネスさんに声を掛ける。

 レオが吠えた事に驚いたままのハンネスさんが、ようやく我に返ったような返事をした。

 ……レオは注意をしてくれてるだけだから、怖くはないですからね、ハンネスさん。


「手間をかけてすみませんが、いくつかワインの樽を蔵から持って来てもらえませんか? 確認したい事があるので」

「確認したい事、ですか?」

「はい。この村のワインが危ないかもしれないんです。その確認のためですね」



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