第140話 ニックを調べてもらいました



「タクミさん、お疲れ様です。ミリナちゃんの迎え、ありがとうございました」

「いえ、荷物も重い物は無かったので楽な物でしたよ。それと、カレスさんの所にも寄りました。薬草を届けなくてはいけなかったので」

「成る程、それで今日はニックが来なかったのですな?」

「はい。ライラさんが、薬草を馬車に積み込んでいてくれて助かりました」


 ミリナちゃん達が去った後、俺達は食堂へと移動しながら話す。

 ちょっと遅い昼食のためだ。

 クレアさんはセバスチャンさんと話し込んでいたため、こんな時間になってしまったらしい。

 ティルラちゃんは先に昼食を済ませ、鍛錬をしているようだ……俺も、昼食の後にでも合流しよう……あ、でも、そろそろ『雑草栽培』の研究もしておかないとな……1日の限界を調べてみないといけないしな。


「タクミ様、お願いされていた件ですが」

「はい、どうでしたか?」


 食事中、セバスチャンさんが俺に話しかけて来る。

 悪質な店への対応策等、忙しいセバスチャンさんには悪いと思ったが、お願いしてニックの事を調べてもらっていた。

 カレスさんにも聞いて、一応今の所は真面目に働いているようだが、余罪の数や内容如何によっては考えなければいけない事もある。

 観衆の面前で暴れた事もあるし、更生の余地があるかどうかに関わらず、俺が匿ってるなんて噂が流れでもしたら、クレアさん達にも迷惑が掛かる事もあるかもしれないしな。

 もしいるのなら、被害者にも何かしらの対応をしないといけないだろうし……謝れば許してくれると考えるのは、さすがに甘えだろう。


「ニックですが……意外にも余罪は少ないですね。手慣れた感じのする恫喝でしたが、どうやら他の仲間の見様見真似だったようです」

「そうなんですか?」

「ええ。ですが、以前クレアお嬢様に絡んで来た事、その後の脱走も含めて何も罪はないわけではありません」

「ええと、どれだけの罪を犯してるのか、詳細はわかりますか?」

「ええとですね。まず、商人への恐喝が4件です。これは例の店とカレスの店での事も含みます。クレアお嬢様への件を含めると5件になります。それと、脱走罪ですね……これは、捕まった直後に逃げ出した事からです」

「ふむ……例の店はまだしも、他の店へは?」

「その時は単独犯だったようで、店側が追い払ったので被害はありません」

「被害が無かったんですか?」


 鍛錬を始めたばかりの俺が、軽くあしらえる程度だったとはいえ、あの人相だ……今はモヒカンを止めてるが、あの見た目だったら怖がってお金を出したりした所があってもおかしく無いと思うんだが……。


「被害はなかったようですね。その……以前はあのような人相ですら無かったらしいのです。恐らくですが、相手を怖がらせる方法の一つとして、あのような恰好をしていたのだと思われます」


 威圧のためにイメチェンしたって事か。

 まぁ、見た目で怖がる人もいるだろうから、効果的なのかもしれないな。


「クレアお嬢様に絡む直前に、あの姿になり、その時偶然他の仲間と出会ったようです」

「そうですか……他の仲間の方は?」

「そちらは色々と叩けば出て来たようですな。ニックはその仲間たちに引き入れられ、悪事の片棒を担がされそうになっていたという事になります」


 悪ぶってるけど、本当に悪い事が成功せずなんとかしようと恰好を変えたら、本当の悪党に目を付けられて仲間に引き入れられたってわけか……。

 何と言うか……日本でもありがちな不良にはまり込むパターンだな……。


「偶然とは言え、我々に例の店の件で情報をもたらしてくれました。被害が出ていないとは言え、一応各店に謝る事と、衛兵への説明をすれば良いかと思います」

「そうですか……ありがとうございます」

「いえ、これくらい大したことはありませんよ」

「調べてくれた事もそうですが……もしかしたら公爵家という、貴族のイメージに傷が付くかもしれなかったのに、俺が雇う事を認めてくれて……本当にありがとうございました」

「それは……そうですね……」

「ですがタクミさん、私はあの時のタクミさんの考えが正しかったのだと思います。ニックに罪は無いとは言いませんが、過ちを犯した者全てを罰するだけではいけないのだと私は思います」


 セバスチャンさんには調べてくれただけでなく、認めてくれた事にも感謝した。

 貴族の名に傷が付く可能性も有った事だからな。

 クレアさんの方は、俺と近い考え方のようだな。

 全ての人が更生出来ないわけじゃないと俺は考えてる……もちろん、取り返しのつかない、許されない罪と言うのもあるだろうけどな。

 今回ニックは、人としてやってはいけない事をした。

 だけど今は真面目に働いているようで、更生の余地はまだあるように見えるし、調べてもらった内容通りなら、罪も軽い。

 謝るところには謝らないといけないと思うけどな。


「まぁ、今回は……ニックの場合は、食べる事に困ってという側面もあったようですから、情状酌量の余地はあった、という事にしましょう。ですが、今後は気を付けて下さいね?」

「はい、わかりました」


 さっきは話されなかったが、ニックは食うに困ってという事情もあったのか。

 だからと言って恐喝をして良いと言う事にはならないが、それなら仕方ないと思える部分もある。

 セバスチャンさんには、最後にチクりと注意されてしまった……これからは気を付けようと思う……一応。

 ニックの話をしながらの昼食を終え、そろそろティルラちゃんと合流して鍛錬をしようかと考えた頃、食堂にミリナちゃんが来た。


「失礼します」

「ミリナ。どう、この屋敷は?」

「知っている人もいるので安心です。案内された部屋も良い所でしたし……ありがとうございます、クレアお嬢様」


 入って来たミリナちゃんに屋敷の感想を聞いて、それに答えるミリナちゃん。

 孤児院を離れてすぐは寂しそうにしていたが、ここの屋敷に知り合いがいるとわかって、元気になったようだ。


「師匠はこれからどうするんですか?」

「俺? 俺はこれから剣の鍛錬をしようかと考えてるよ」

「剣ですか……薬の勉強はいつされるのでしょうか?」


 あーそうか、ミリナちゃんが来たと言う事は、薬の事を教える……というより、一緒に勉強しないといけないか。

 ミリナちゃんはそれを目的にここに来たんだからな。


「それじゃぁ……そうだね、ちょっとだけ鍛錬をやってから勉強しようか。えーと、大体1時間後くらいかな?」

「わかりました、頑張ります!」


 気合の入ってるミリナちゃんを食堂に置いて、俺はティルラちゃんと合流するため裏庭へ出た。

 そこでは、鍛錬を黙々としているティルラちゃんがいた。

 ……これだけ真剣に頑張ってる子がいるんだ、俺も頑張らないとな。

 『雑草栽培』の研究、剣の鍛錬、薬の知識等々、やる事が色々あって大変だが、ティルラちゃんを見て頑張ろうと思えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る