第108話 剣の使い方を習い始めました



 笑い方がクレアさんと似てるなぁと思いながらレオとティルラちゃんの様子を眺める。

 姉妹だから似ていて当然か。

 挨拶が済んで、レオは体を起こして前足を突っ張る伸びをする。

 完全に目が覚めたようだな。


「レオ様は起きるとそんな事をするんですね」

「ワフー」


 レオが伸びをする姿を珍しそうに見ているティルラちゃん。

 レオを見て完全に緊張も無くなったようだ。

 やっぱりティルラちゃんはレオやシェリーと戯れてる姿が自然で微笑ましいな。

 レオも起きた事だしと、ティルラちゃんと一緒に撫でたりしながら和やかな時間を過ごした。

 しばらくして、朝食の準備が出来たと呼びに来たライラさんと一緒に食堂に移動する。


「おはようございます、クレアさん。……エッケンハルトさんは今日も?」

「タクミさん、おはようございます。そうなんです、今日も起きて来ていません」

「おはようございます、姉様、シェリー」

「ワフワフー」

「キュゥー」


 先に食堂にいたクレアさんに挨拶をしながら、エッケンハルトさんがいない事を聞く。

 今日も昨日と一緒でまだ寝ているみたいだ。

 ティルラちゃんとレオはクレアさんと、その腕に抱かれてまだ眠そうにしているシェリーに向かって挨拶だ。

 シェリーの方は、眠いながらもちゃんと挨拶に返事をするように鳴いている。

 俺達がいつものようにテーブルにつくと、ゲルダさんが朝食を運んで来て皆で食べ始める。

 簡素にパンとサラダ、スープだ。

 今日はヘレーナさんがお休みの日らしい。

 いつも色々美味しい料理を作って頑張ってるヘレーナさんだ、たまの休みならしっかり休んで欲しい。

 簡素と言ってもしっかり美味しい朝食だったから満足だ。

 ティルラちゃんの方は、これから剣の鍛錬があるのに備えるためか、いつもより少しだけ多めに朝食を食べていたように思う。

 昨日と同じように食後のティータイムを過ごしていると、勢いよく食堂の扉が開かれエッケンハルトさんが入って来た。

 昨日ので慣れてしまったのか、皆驚いたりはしていないがクレアさんだけは父親の勢いに溜め息を吐いている。


「おはよう、皆。タクミ殿もティルラも揃っているな」

「おはようございます、エッケンハルトさん」

「お父様……おはようございます」


 ティルラちゃんはエッケンハルトさんと会って、さっきまで忘れてた緊張を思い出してしまったようで、少しだけ顔が強張った。

 んー、せっかく良い感じにリラックスしてシェリーと遊んでたんだけどな……まぁ鍛錬には緊張感も必要かな……多分。


「朝食は済ませたな?」

「はい」

「たくさん食べました!」

「旦那様、いつもの事ですが……朝食は?」

「いや、私は今日もいらない」


 エッケンハルトさんは俺達が朝食を食べた事を確認していると、横からセバスチャンさんが質問をした。

 これも昨日と同じように朝食を断ったエッケンハルトさん。

 そのまま俺とティルラちゃんを見て一つ頷いた。


「よし、二人共準備は良さそうだな。それでは早速鍛錬を始めるとするか。場所はどうするか……」

「裏庭がよろしいのでは?」

「そうだな。では裏庭で鍛錬を始めるぞ」

「はい!」

「わかりました!」


 セバスチャンさんの言うように、裏庭なら剣を振り回しても邪魔にならない広さがある。

 エッケンハルトさんは裏庭で鍛錬する事に決める。

 俺とティルラちゃんは、エッケンハルトさんの言葉に気を引き締めながら返事をする。

 いよいよ始まる鍛錬に、ティルラちゃんのように俺も緊張して来た……。

 剣の鍛錬だから剣を使うんだろうが、エッケンハルトさんの鍛錬はどういった事をするんだろうか……?

 まずは素振りかな? それとも剣の握り方かな?

 鍛錬の予想をしながら、一旦部屋に戻ってセバスチャンさんから受け取った剣を持ち、先に裏庭に向かったエッケンハルトさんと合流する。


「よし、揃ったな。準備は良いか、タクミ殿、ティルラ?」

「はい!」

「大丈夫です!」


 俺とティルラちゃんが並んで、その前にエッケンハルトさん。

 俺達が揃った事を確認して、頷いている。

 クレアさんとセバスチャンさん、ライラさんやゲルダさんも一緒に裏庭に来ているが、見学するためらしい。

 レオやシェリーも、クレアさんの近くでおとなしくしてこちらを見ている。

 シェリーはレオの背中に乗れて楽しそうだな。


「ではまず、剣を握るところからだな。二人共右利きだな?」

「そうですね」

「はい」


 エッケンハルトさんは腰に下げていた自分の剣を抜き、握り方を俺達に見せる。

 エッケンハルトさんの剣は刀身が長く、ロングソードという分類になるような剣だ。

 柄の部分に装飾が施されていて、刃も陽射しを反射して輝いている。

 ……高そうな剣だなぁ。

 ティルラちゃんの方は俺と同じ小さめのショートソードだ。

ちょっと重くて持ちづらそうだが、体の大きさに合う物が無かったんだろう。

 教えられる剣がどんなものかはわからないが、ティルラちゃんの体の大きさに合わせた剣だと実戦で役に立たないかもしれないからな。

 エッケンハルトさんが剣を握る手元を見ながら、二人で握り方の真似をする。


「そうだ。その握った手のまま剣を振る。この時しっかりと剣の刃が向いている方を意識するんだ。そして、刃筋を通して振る!」


 見本とばかりに剣を振るうエッケンハルトさん。

 その速度と迫力は、小さな子供なら泣いて逃げそうな程だと思える。

 これ程までとは言わなくても、近いくらいしっかりと剣を振らないといけないのか……鍛錬は厳しいものになりそうだな。


「こうですか? ん! ……痛いです」


 ティルラちゃんがエッケンハルトさんの振り方を見て真似をするように剣を振る。

 まだまだ剣の重さに慣れておらず、地面に剣を打ち付けてしまう。

 手が痺れたようで涙目になっている……。


「それじゃ駄目だぞティルラ。刃筋が通っていない。刃筋が通らなければ、どんな名剣でも何かを斬る事は出来ないからな」


 エッケンハルトさんの指導の下、何度か剣を振るっていく。

 剣を振るのがなんとか形になったかな? というところで、一旦剣をしまうよう言われた。


「……剣の振り方は教えた。しかし……二人共剣に振られてる状態だな。慣れないうちは当然だがな」

「すみません……」

「はい……」


 やっぱりまだ剣の重さ、刃の向きや刃筋を通す事に慣れていない。

 俺が剣を振るのでは無く、剣に俺が振られてると言われてもおかしくは無いだろうな。



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