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第98話 エッケンハルトさんはマナーを気にしない人でした
第98話 エッケンハルトさんはマナーを気にしない人でした
食堂に着くと、既にそこにはエッケンハルトさん、クレアさん、ティルラちゃんが揃って座っていた。
一緒に食堂に来たライラさんに促されて、いつも座ってる場所に行き、テーブルにつく。
クレアさんは気にしないと言っていたから良いけど、エッケンハルトさんがいる時に自由に座って良いのだろうか……テーブルにつく順序とかよく知らないからなぁ……。
「タクミ殿、楽にしてくれ。私はマナーとかそういう細かい事を気にするのは嫌いだからな」
「……はい」
俺がテーブルについても落ち着かずにいると、エッケンハルトさんにマナーを気にしてると見抜かれた。
クレアさんもそうだが、エッケンハルトさんも気にしないというのなら良いか。
もしかすると、マナーをろくに知らない俺にも嫌な顔をせずクレアさんが接してくれるのは、父親のこういう姿を見て育ったからかもしれないな。
皆が集まってすぐ、テーブルに料理が並んだ。
料理長であるヘレーナさん自らが配膳をし、エッケンハルトさんに料理の説明をしていた。
今日の料理は肉メインで、分厚いステーキが美味しそうなソースを掛けられて皆の前に置かれている。
もちろんレオの前にはいつものようにソーセージはかかせない。
エッケンハルトさんが来た事による歓迎の料理なのかもしれない。
付け合わせとして、ヨークプディンもある。
多分、デザートには甘いバタークリームを乗せたヨークプディンが出るかもしれないな。
……もしかしたらクレアさんからのリクエストかもしれない。
「では、食べようか」
「頂きます」
エッケンハルトさんの言葉で皆が料理を食べ始める。
まずはと目の前の分厚いステーキに取り掛かる。
ナイフとフォークを使って食べたステーキは、今まで食べた事のあるどの肉料理よりも美味しかった。
こんな柔らかい肉食べた事無い……ソースも美味しいし……。
肉が上等なのか、料理人の腕が凄いのか……どちらにせよヘレーナさんが頑張ったのは間違いないだろう。
「……お父様……もう少し行儀良く食べませんか?」
「んお? ……ん、ゴク。……はっはっは、肉は豪快に食べた方が美味いからな!」
クレアさんが注意するように言ったので、エッケンハルトさんの方を見てみると、そちらではナイフを使わずフォークを分厚い肉に突き刺し、そのまま齧り付いてるエッケンハルトさんの姿があった。
エッケンハルトさんはクレアさんからの注意を笑い飛ばす。
……前もって聞いていたが、本当にエッケンハルトさんは豪快な人のようだ。
レオもエッケンハルトさんと同じように豪快に顔を皿に突っ込んで肉やソーセージを食べてるが、それと同じような勢いだな。
ちなみにシェリーはティルラちゃんの隣の椅子に小さい台のような物が置かれ、その上にお座りしてテーブルの上の物を食べられるようにしている。
その前には皆と同じようにステーキが置かれており、それをちまちまと端から少しづつ食べている。
……レオもこれを見習ったら口の周りがあまり汚れなくなるんだけどな……。
「はぁ……いつもの事ですけど、お父様と一緒に食事をしていると、行儀を気にして食べているのがおかしい気がしてしまいます」
「はっはっは。美味い料理は一気に食べるに限るからな! これでも、さすがに公の場だとちゃんとしているんだぞ?」
「だと良いのですけど……」
クレアさんから溜め息を吐きながらのお小言をもらっても、笑い飛ばしてまた肉に齧り付くエッケンハルトさん。
まぁ、公爵家の当主様なんだからちゃんとした場ではちゃんとしてるんだろうと思う。
ヘレーナさんはエッケンハルトさんが言った美味い料理というのに反応して、「恐縮です」と頭を下げていた。
力を入れて作った物が褒められると嬉しいんだろうな。
エッケンハルトさんが豪快に食べるのを見ながら、美味しい料理をたらふく食べた。
もちろん、予想通りに出て来た甘いヨークプディンも美味しく頂いた。
……ここでお世話になり続けてると、料理が美味し過ぎて太ってしまいそうだ……。
「タクミ様、先程渡した用紙の内容には目を通して頂けたでしょうか?」
「あーはい。全部読んで確認しました」
食後、ライラさんの淹れてくれたお茶を飲みながら休憩してる時、セバスチャンさんに声を掛けられた。
エッケンハルトさんの食べ方や、美味しい料理に意識を取られて忘れてたが、契約という大事な事があったんだった。
「タクミ殿、セバスチャンの渡した契約内容で大丈夫か?」
「それなんですが、少し質問をしてもよろしいでしょうか」
「はい、何なりと。わからない事や変更して欲しい事があれば仰ってください」
「えーとですね……」
その後しばらく、セバスチャンさんをメインに、エッケンハルトさんも交えて契約内容の確認をした。
どうしてもわからない事の質問もついでに。
変更して欲しい事は特に無かったが、一つだけ気になる事があった。
「その……最後に一つだけ良いですか?」
「はい、どう致しましたか?」
「その……この契約内容ですけど、俺に対して有利な内容が多い気がするんです」
「その事ですか……ふむ。旦那様」
「あぁ。ちゃんと内容を読んでいるのがわかるな、さすがだ」
エッケンハルトさんにさすがと褒められてるようだが、契約内容というのはちゃんと読まないとな。
後で思わぬトラブルがあった時に困る事になる可能性もあるから。
「タクミさん、その契約内容は私とお父様、そしてセバスチャンで協議をして決めました」
「そうです。この契約に関して、タクミ様に有利な条件というのはそれだけ公爵家に利点があると見込んでの事なのです」
「タクミ殿、薬草販売という分野は今まで公爵家では行って来なかった分野なのだ。そして、『雑草栽培』というギフトがある以上、その品質や量は約束されたようなもの。つまりは、それだけタクミ殿に有利な条件を出してでも公爵家で契約を結びたいと思っているのだよ」
「そうなんですか……」
俺としては、ここまで有利になるような条件でなくても、お世話になっている人達のためになるなら契約を結んで良いと思ってるんだけど……まあ、そう言ってくれるならこのままで良いか。
あーでも、一つだけ追加して欲しい事があるな。
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