第90話 仕立て屋で服を受け取りました



 ラクトスの街へは馬車で約1時間、レオだと30分もかからずに到着だ。

 多分、レオが全速力で走ればもっと早く行けるんだろうが、その場合俺や後ろに乗ってるライラさんが振り落とされてしまうかもしれないからな。

 ちなみにライラさんは、何回か乗るうちに慣れて来たのか、後ろから俺に抱き着いて来る事も無く、涼しい顔でレオの毛を掴んでバランスを取っていた。

 ……別に……期待してたとかはないからな……ほんとだぞ?

 街の近くでレオに止まってもらい、そこから歩いてラクトスの門へ。

 門番をしている衛兵に止められかかったが、ライラさんが衛兵に公爵家のレリーフを見せるとすんなり通された。

 そういえば、レオというデカイシルバーフェンリルを連れてる身分のよくわからない人間なんだよな俺。

 そりゃ衛兵さん達も止めようとするだろうなぁ。

 身分証とかそういうのって作れないのかな? 落ち着いたらクレアさん達に相談しよう。

 門を抜けた後、街を行き交う人達の視線を感じながら、以前来た時セバスチャンさんと通った道を歩いて仕立て屋に着いた。


「いらっしゃいませ……これはタクミ様。ようこそお越しくださいました。注文されていた服の方は出来ておりますよ」


 店に入ると、以前も対応してくれた……確かハルトンさんだったかな……が奥から出て来た。

 俺の事を覚えていてくれたようだ。

 俺はハルトンさんから仕立ててもらった服を受け取り、試着。

 サイズや着心地等で不満があればこの場ですぐに手直ししてくれるそうだ。

 俺が色々確かめている間に、ライラさんが料金の支払い。

 すみません、薬草を売ってお金が手に入ったら返します……。

 ズボンの裾部分だけ少し長かったので、そこをサッと手直ししてもらい、仕立ててもらった服を着たまま店を出る。

 今までの服は手に持って帰る事にする、帰っていちいち着替えるのも面倒だからな。

 クレアさんがあの時、一着は仕立ててもらった方が良いと言っていたのに従って良かったと今更ながらに思いながら帰路に就く。

 あとは、屋敷に帰って当主様を出迎えるだけだ。


「タクミ様、良く似合っておいでですよ」

「ありがとうございます」


 お世辞だろうライラさんの言葉に感謝しつつ、俺達はラクトスの街を後にする。

 帰る頃には昼前かな。

 余裕を持って行動出来て良かった……気付くのがもう少し遅ければ、いくらレオに乗っても服を取りに来る時間は無かっただろう。

 まぁ、当主様はそんな細かい事は気にする性格じゃ無いみたいだが、俺が気になるからな。

 スーツを着ないで行動する事には慣れて来たが、こういう時にはやっぱ正装でいた方が安心するんだ。

 帰りもレオに頑張ってもらって、余裕を持って屋敷に到着。

 ありがとな、レオ。


「ワフー」


 俺はレオに感謝の証としてしっかり撫でてやる。

 レオは満足気な表情で撫でられている。

 横ではライラさんも一緒にレオを撫でていた。

 撫でながら歩き、気持ち良さそうなレオを連れて屋敷の中に入った。

 今度、シェリーやティルラちゃんも一緒に混ぜてしっかり遊んでやろうな。

 屋敷に入ってすぐの玄関ホールでは、大分出迎えの準備が整ったのか、綺麗に光ってさえ見える床や階段をメイドさん達が満足そうに点検している。

 多分、掃除が終わった事の確認なんだろう。

 朝のような慌ただしさは無くなってる。

 メイドさん達の様子を見てから部屋に戻り、手に持っていた服を置く。

 ちょうどその時、部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」

「失礼します」

 

 俺が声を掛けると、ゲルダさんが入って来た。


「あぁ、ゲルダさん。只今帰りました」

「お帰りなさいませ、タクミ様。クレアお嬢様達への伝言は伝えてあります」

「ありがとうございました」


 ゲルダさんにお礼を言う。

 ちゃんと伝わってたようで何よりだ。


「ここまで早く帰って来られるとは思っていませんでしたが……」

「まぁ、レオに頑張ってもらいましたからね」

「ワフ!」


 俺が早く帰って来た事に驚いてる様子のゲルダさんは、レオを見て納得したようだ。

 そう言えば、ゲルダさんにはレオに乗って行くって言ってなかったっけ。

 まぁ、急いでたからな、クレアさん達に伝言をという事しか考えて無かった。


「レオ様に乗って行かれたのでしたら納得です。……それとタクミ様、そろそろ昼食の準備が終わる頃なので、食堂にお越し下さい」

「わかりました」


 ゲルダさんはその事を伝えに来たんだろう。

 俺に食堂に来るよう伝えた後、ライラさんと一緒に部屋から退室。

 俺とレオだけになった。


「レオ、今日はありがとな」

「ワフーワフワフ」


 レオは少し照れたような仕草をしている。

 さっきも感謝を伝えるためにレオを撫でたが、ここでもしっかりお礼を言っておく。

 相棒だからと、乗せてもらう事や一緒に居る事が当たり前でお礼も言えないようになったらいけないからな。

 その後、一度レオの頭をガシガシ撫でてから、部屋を出て食堂に向かった。

 そろそろクレアさん達の方は、相談が終わったかな?

 俺がレオを連れて食堂に向かう途中、相談が終わったと思われるクレアさん、ティルラちゃん、セバスチャンさんが揃って廊下を歩いて来た。

 俺とは別の方向からだが、どうやら三人も食堂に向かう途中だったようだ。


「タクミ様、ラクトスの街に行っていたようですな」

「その服、とてもお似合いですよ」

「似合ってます!」

「ありがとうございます。セバスチャンさん、ライラさんと一緒に仕立て屋に行って受け取って来ました」

「はい、ゲルダから聞いております。仕立ての方は、問題ございませんでしたか?」

「少しだけ手直ししてもらいましたが、着心地も良くて問題ありませんよ」


 クレアさんとティルラちゃんに、俺の正装っぽいしっかり仕立ててもらった服を褒められながら、セバスチャンさんに報告をしておく。


「これなら、旦那様も何も言われないでしょう。……もっとも、人の服装に何か言われるような方ではございませんが……」

「お父様、自分の服ですら無頓着なのよね……」

「お父様……たまににおいます……」


 ライラさんも言っていたように、何の服を着ていても問題じゃ無さそうだ。

 まぁ、新しく仕立ててもらった服にしたのは俺が落ち着かないからという理由が大きいからな、このままでいかせてもらおうと思う。



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