第79話 客間でまったりしました
「私はこの子を寝かせて来るわ」
「畏まりました。タクミさんはどうされますか?」
「そうですね、まずは部屋に荷物を置いて来ようと思います。それから客間に行くのでお茶を貰っても良いですか? この屋敷で出るお茶がおいしくて落ち着くので」
「わかりました、用意させますね」
クレアさんは部屋にフェンリルを連れて行って寝かせるようだ。
馬車に乗る前は俺かレオがいないとフェンリルと一緒に居る事を不安がってる事もあったのに、もう慣れたみたいだな。
これまでフェンリルから敵意のようなものは無く、無邪気に走り回るくらいだったから、クレアさんも安心したんだろうと思う。
ティルラちゃんも、フェンリルを見るためにクレアさんについて行った。
「レオ、行くぞー」
「ワフー……」
ティルラちゃんがフェンリルについて行ったのを寂しそうに見ていたレオを呼んで、部屋へと向かう。
さっさと荷物を置いて客間に行かないとな、セバスチャンさんにお茶をお願いしたからすぐに用意されるだろう。
以前ライラさんもそうだったのだが、この屋敷の使用人はワープでもしてるのかと思うくらい屋敷内の移動が早い事があるからな。
もしかしたら、俺が部屋に戻るくらいの時間で客間にお茶が用意されてるかもしれない。
俺はまだティルラちゃんの向かった方をチラチラ気にしてるレオを連れて部屋に戻った。
客間でお茶でも飲みながら、ちゃんと構ってやるからそんなに拗ねるなよ、レオ。
部屋に戻り、荷物を置いて着替える。
この部屋に残しておいた服だが、今まで着てたのはさすがに汚れてるからな。
一応野営中はライラさんとヨハンナさんの二人で、俺達が森を探索している間に川の水を使って洗濯してくれてはいた。
でも洗剤の無い森の中だと、完全に汚れを落とすなんて出来ないだろうし、ここに帰って来るまでにも汚れてたから。
着替え終わって、レオを連れて客間へ向かう。
客間へ向かう道すがら、レオの毛を見ていると銀色がくすんでるように見えた。
また風呂に入って洗ってやるか、今はまだレオには言わないけど。
ティルラちゃんの興味が別の所に行って、寂しそうに拗ねてるレオに言ったら、余計しょんぼりしそうだからなぁ。
俺達が客間に入ると、中でゲルダさんがいつでもお茶を淹れられるようにポットとカップをテーブルに置いて待機していた。
「タクミ様、お帰りなさいませ。お茶の用意が出来ております」
「ありがとうございます。それと、ただいま帰りました」
「ワフワフワフ」
ゲルダさんにお礼と挨拶をしつつ、テーブルにつく。
レオもゲルダさんに近付いて挨拶だ。
俺がテーブルについてすぐ、ゲルダさんがカップにお茶を淹れてくれた。
「レオ様もお帰りなさいませ。牛乳の方はご入用ですか?」
「ワフ!」
ゲルダさんの言葉に頷くレオ。
ゲルダさんも随分レオに慣れたなぁ。
以前はもっと恐る恐るレオと接してたのに、今では普通に接してるように見える。
ライラさんと一緒に裏庭でレオに乗せて走ったのが効いたかな?
まぁ、少しだけ肩肘が張り過ぎてるように気もするが、これはレオ相手だけじゃなくていつもの事だ。
「あぁ、やっぱりこのお茶はおいしいですね」
「ありがとうございます」
ゲルダさんがレオ用の牛乳を用意してるのを見ながら、お茶を一口飲む。
このお茶を飲んで初めて、この屋敷に帰って来たんだと実感した。
安心できる味だなぁ。
「レオ様、どうぞ」
「ワフワフ」
レオ用の牛乳もあらかじめ準備していたのか、大きなバケツくらいある器をレオの前に持って来るゲルダさん。
レオはゲルダさんに一度顔を向けて礼を言うように鳴くと、勢いよく牛乳に顔を突っ込んで飲み始めた。
森に行ってる間、牛乳は飲めなかったからな。
しかしレオ、顔に牛乳を付けたまま誰かにくっ付いたりしないように気を付けてくれよ?
ゲルダさんはレオの牛乳を用意した後、入り口の扉横で待機。
俺とレオはゲルダさんの用意してくれたお茶と牛乳を楽しみながら、のんびりする事にした。
しばらく客間でお茶を嗜んでいると、入り口がノックされ、足元にフェンリルを連れたクレアさんとティルラちゃんが入って来る。
「タクミさん、森の探索、お疲れ様でした。それと、ご協力ありがとうございました」
「いえいえ、クレアさんもお疲れ様でした」
客間に入って来るなりクレアさんは俺にお礼と労いの言葉を掛けて来た。
そのままクレアさんはテーブルにつき、ゲルダさんがお茶を淹れる。
ティルラちゃんはフェンリルと一緒にレオの所へ。
フェンリルもティルラちゃんに懐いたようだな。
多少懐くのが早い気がしないでもないが、お互い子供だからなぁ。
子供って、何故か一瞬で仲良くなる事があるから、それかもしれないな。
「フェンリル、起きたんですね」
「ええ。私が部屋に戻った時に目を覚ましました。ふふ」
クレアさんは話しながら何かを思い出したように微笑んだけど、どうしたんだろう?
「どうかしましたか?」
「あぁいえ、フェンリルが起きた時なんですが。寝ていた時は馬車に乗っていたでしょう? それが起きた時には屋敷の中にいた事に驚いたのか、キョロキョロと部屋を見たり、あちこち動いたりしてたのが可愛かったもので」
なるほどね。
フェンリルからしてみれば、気付けば知らない場所にいたわけだから、そうなるのも仕方ない。
屋敷にはこれから慣れて行くだろうしな。
クレアさんはその様子を思い出して、レオやティルラちゃんとじゃれ合ってるフェンリルを見ながら微笑んでいる。
確かに、その姿を想像したら可愛いかもしれないな。
フェンリルは見た目がまるっきり犬だからなぁ……。
成長したら、体も大きくなって、狼のような精悍な顔付きになるかもしれないけどな。
「そういえばタクミさん、森の中で使った『雑草栽培』の事なのですが」
「ん? 『雑草栽培』がどうかしましたか?」
「いえ、以前裏庭で色々試していたようなので、そろそろ教えて頂いてもいいかと」
「あぁ、そういえばまだ説明していませんでしたね」
何だかんだと今までクレアさんに説明する事を忘れていた。
今はまったりしてる時間だし、特にこれから何かあるわけじゃない、いい機会だから話しておこうかな。
そう思ってクレアさんに説明をするため、どう話そうか考えてる時、急に頭の中が真っ白になった。
いや、頭の中だけじゃない、視界すら白い。
あれ? これは一体なんだ?
「どうしました、タクミさん?」
全てが白くなり、何も見えなくなった中、クレアさんの心配そうな声が聞こえる。
「ワフ? ワフワフ!」
「どうしたんですかタクミさん?」
「キャゥ?」
周りから声や音だけが聞こえる。
レオが心配そうな声から、何か緊急事態を知らせるような声色になった。
ティルラちゃんとフェンリルからも声が聞こえる。
しかし、白い視界はそのままで何も見えない。
それどころか、視界は端の方から段々と黒くなって行き、周りの音や声も遠く感じるようになって来た。
何だこれ、俺はどうなったんだ?
いや、これは体験した事がある………そうだ……確か……仕事仕事で休めなかった時、こんな感じで気絶した事が一度……。
最後まで考える事も出来ずに、全てが真っ暗になって俺は意識を失った……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます