第76話 森から無事に出られました


 ライラさんが作った朝食を皆で焚き火を囲みながら食べた。

 フェンリルは今日も勢いよく焼いたオークの肉を食べていたが、昨日程の量を食べることなくお腹いっぱいになったようだ。

 やっぱり、昨日の食欲は体力を回復させるためだったんだろうな。

 今はすっかり元気にクレアさんの周りを走り回ってる。

 大分クレアさんに懐いてるようで、それを見てる他の皆も朗らかにその様子を眺めていた。

 朝食が終われば次はテントなどの撤収作業。

 テントを崩し、道具類を纏めて袋へ。

 焚き火も川の水を持って来て消火する。

 木の皿や鍋も含めて、洗えるものは川で洗っておいて、袋の中にしまう。

 結構長くここで野営をしていたけど、終わるとなると少しだけ寂しい気分だな……。

 いつまでもいられるわけじゃないから、仕方ない事だけど。

 1時間程度で、撤収作業は終了。

 森に入って来た時と同じく、皆で荷物を分担して持ち、帰途に就く。

 先頭はいつものようにセバスチャンさん。

 そこからフィリップさんが続き、その後ろにクレアさんとライラさん、フェンリルがいる。

 さらにヨハンナさんを挟んで俺とレオ。

 最後尾はニコラさんだ。

 来た時より皆疲れてるはずだが、ここ1週間近くで森を歩くのに慣れたのか、クレアさんも含めて歩く速度は速かった。

 フェンリルは帰り道の間中、クレアさんの周りを走り回ったり、横を歩いたりしていた。

 クレアさんとライラさんはそんなフェンリルを優し気な目で見て微笑んでいた。

 レオは、たまに皆から離れるような動きをしたフェンリルを怒るように吠え、しっかり皆について来るよう見張っていた。

 レオが保護者みたいになったなぁ。

 日も高くなり、お昼を少し過ぎたくらいで、森の入口へと戻って来れた。

 クレアさんは、最初に息切れして歩くのも辛そうだったのは何だったのかと思う程、疲れてる様子は無い。

 森を歩くのに慣れたもんだなぁ。

 フェンリルを見る事に夢中だったのもあるかもしれない。

 そんな事を考えてる俺も、大分森の中を歩くのに慣れた。

 俺達が森の入り口に辿り着くと、そこには5人程の人が集まっていた。


「皆さん、ご苦労様です」

「セバスチャンさん、ご無事でしたか。クレアお嬢様も無事のご帰還、何よりでございます」

「ええ」


 よく見れば、そこに集まっている人達は皆、屋敷で見た事のある人達だ。

 そのうちの一人は、馬の番のために残った護衛さんだな。

 鎧を着て兵士の恰好をしてる人が他に3人、執事の人が1人。

 どうやらここで帰りを待っていたらしい。


「予定よりも帰りが遅かったようでしたが、何かありましたか?」


 執事の人が、クレアさんの連れているフェンリルを見ながらセバスチャンさんに聞く。


「逆ですね。思ったよりも何も無かったもので、それでもと探索をしていたら時間がかかってしまいました」

「そうですか……それで」

「ああ、あのフェンリルは大丈夫ですよ。詳しくは後で話しますね」

「……わかりました」


 セバスチャンさんがそう言って話を切り、執事の人は下がった。

 俺達は、荷物を待っていた人達に渡し、置いていた馬車へと積んでもらう。

 その間、ライラさんが昼食の準備を進めていた。

 ちなみに食料は、執事さん達が持って来てくれていた。

 俺達が森から出てくるのがもう少し遅ければ、様子見と補給のために森の中へ入ろうとしていたとの事で、そのためだとか。

 そんな用意がされてたんなら、もう少し森の中に居ても……とは考えたが、実際それは難しいだろう。

 クレアさんやセバスチャンさんがこれ以上屋敷を離れてるのは、皆に心配を掛けてしまうし、いくら『雑草栽培』で疲労回復の薬草を栽培出来ると言っても、精神的な疲れは溜まっていくものだ。

 テントがあっても外での生活になってしまうからな、屋敷で休むのとは違うと思う。

 その後、ライラさんの作ってくれた料理を皆で食べ終わり、その片付けを済ませていざ屋敷へ。

 屋敷へ帰るため、馬車に乗ろうとしたところで思い出した。

 ……この馬車狭いから、ライラさんかクレアさんと密着するんだよなぁ……。


「どうしました? タクミさん?」

「あーいや……えっと……」


 俺が馬車に乗るのを躊躇っていたら、後ろからクレアさんに声を掛けられた。

 どうしよう、素直に密着するのが恥ずかしいからとは言えないし……。

 来た時と同じようにレオに乗る事にするか。


「あー…俺はレオに乗って帰りますから、クレアさんとライラさんは馬車にどうぞ」

「タクミさんはレオ様に乗るのですか? でも……」


 クレアさんは抱いているフェンリルを見ながら躊躇うように話す。

 フェンリルがいる事が何かあるのだろうか?


「タクミ様、クレアお嬢様とライラ、それにフェンリルだと少々不安でしてな。一緒に乗ってもらえませんか?」

「セバスチャンさん……」


 クレアさんが言い淀んでいると、既に御者台に乗っていたセバスチャンさんから話しかけられた。

 何でフェンリルがいると不安なんだろう……。


「クレアさんとライラさんが居れば安心じゃないですか? フェンリルもこんなにクレアさんに懐いてるのに」

「キュゥ?」


 俺がクレアさんの腕でおとなしくしているフェンリルの頭を撫でると、首を傾げるように鳴いた。

 お前もレオと同じように首を傾げたりするんだな……。

 そう思っていたら、フェンリルがクレアさんの腕から飛び出し、俺に向かって来た。


「おわっ!」

「キュゥー」

 

 俺の胸部分に体ごとぶつかって来たフェンリルはそのまま地面に落ちそうになったので、思わず抱き抱える。

 見た目よりは軽いが、それでもその大きさで飛び掛かって来るとさすがに痛いぞ……。


「ほら、フェンリルもタクミさんと一緒が良いみたいですよ?」

「……そうなのか?」

「キャゥ」

「ワフ」


 俺が問いかけると、肯定するように鳴くフェンリル。

 レオからは諦めろと言わんばかりの溜め息交じりの声まで聞こえて来た。

 むぅ……ライラさんやクレアさんと密着するのは嫌では無いんだけど……俺も男だから……でもなぁ……色々勘付かれると恥ずかしい……。


「……ワフー」


 なおも俺が躊躇っていると、レオが仕方ないなーとでも言いたいような声を出しながら、ライラさんに近付いた。


「ワフ、ワフワフ」

「え? 私を乗せてくれるんですか?」

「ワウー」


 ライラさんは近くで背中を向け、声を出したレオに戸惑いながら訪ねる。

 レオはそれに頷いて答えた。



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