第75話 フェンリルは元気になったようでした



「レオ……もしかして、お前もまたお腹が減ったのか?」

「ワゥ……」


 野営地に帰って来て、いつものソーセージとライラさんの料理を食べておいて、またお腹が空いて来たようだ。

 レオは涎を垂らしそうな所を見られて恥ずかしそうにしながら小さく鳴いた。


「……ライラさん……すみませんが……」

「はい、レオ様の分もですね。オークの肉はまだまだありますからっ大丈夫ですよ」

「ワフ! ワフ!」


 俺がライラさんにお願いしてるのを聞いたレオが喜びを表すような声を出して、尻尾を振ってる。

 レオ、肉が食べられるのが嬉しいのはわかるが、尻尾はもう少し控えめにな。

 フェンリルの体に当たって食べにくそうだぞ。

 しばらく後、ライラさんが手早く焼いてくれた肉をレオとフェンリルが並んで食べる。

 体の大きさは随分違うが、違い過ぎて兄妹というより、親子のようにも見えた。

 というかやっぱりフェンリルにはあれだけじゃ足りなかったんだな。

 体はそんなに大きくないのによく食べるようだ……体力を取り戻そうとしてるのかもしれないな。


「ふふふ、よく食べますね」

「そうですね」


 クレアさんは一生懸命食べているフェンリルを見ながら微笑んでる。

 そうして、フェンリルとレオの夜食はほどなく終わり、使ったお皿等を川で洗う。


「おや、フェンリルはまた眠ったようですな」

「ええ。お腹がいっぱいになって眠くなったんでしょうね。ふふ、可愛いわ」


 セバスチャンさんと一緒に川で皿を洗って戻って来て見ると、フェンリルはクレアさんの腕の中で起きる前と同じように気持ち良さそうに寝ていた。

 多分、まだ体力が万全じゃないからだろう。

 クレアさんは腕の中で安らかに寝ているフェンリルを見ながら微笑む。

 クレアさんは随分このフェンリルが気に入ったようだ。

 その後、今日最初の見張り番であるフィリップさんとニコラさんを残して、皆テントへと入り、就寝した。

 フェンリルは、クレアさんが離したがらなかったため一緒に寝る事に。

 何かあった時に備えて、レオは見張りの時以外はクレアさん達が寝る女性用テントの前で寝る事になった。

 さて、俺も寝ないといけないな、次の見張りは俺とレオだ。

 男性用テントに入り、セバスチャンさんに挨拶をして寝た。

 


 朝、見張りの時も寝ている時も何事も無く夜明けを迎えた。

 シュラフからゴソゴソと体を出して朝の支度を始めようと思った時、外からキャンキャンと犬のような鳴き声が聞こえる。

 昨日のフェンリルかな。


「おはようございます、クレアさん」

「おはようございます、タクミさん」

「キュゥ、キュゥ」


 テントから出て、外にいたクレアさんに挨拶。

 昨日連れて帰ったフェンリルはクレアさんの足元を回るように走ってる。

 ……目が回ったりしないだろうか……。

 レオは近くでお座りの姿勢のままフェンリルを見守るように見ていた。


「レオもおはよう。フェンリルも」

「ワフワフ」

「キャゥ!」


 レオからも挨拶が帰って来て、一緒にフェンリルも一鳴きした。

 挨拶してるようだな……もしかしてフェンリルも人の言葉がわかるんだろうか?


「タクミ様、おはようございます」

「おはようございます、セバスチャンさん」


 フェンリルやレオを見ていたら、川の方からセバスチャンさんが歩いて来た。


「朝食の後、この場を引き払って屋敷へと向かいますので、よろしくお願いします」

「はい、わかりました」


 セバスチャンさんはそう伝えた後に男性用テントに入って行った。

 多分、まだ寝てるフィリップさんを起こすんだろう。

 ……フィリップさん、朝は弱いみたいだからな。


「それじゃあクレアさん、俺は川で身支度を整えて来ます」

「はい、行ってらっしゃいませ」

「キャゥキャゥ!」

「ワフ?」


 俺がクレアさんに川へ行くと伝えたら、フェンリルが俺の足元に来て吠え始めた。

 レオはそんなフェンリルを見て首を傾げてる。


「んー? どうしたんだ?」


 俺は屈むようにしてフェンリルを見る。


「キャゥ……キュゥ……」

「ワフワフ、ワウ……」


 フェンリルが何かを伝えたいようだが、よくわからない。

 そんな時、レオがフェンリルの体に鼻を近づけてにおいを嗅いだ後、嫌そうな顔をした。

 ……臭いのかな……。


「もしかして、お前は川に入りたいのか?」

「キャゥ! キャゥ!」


 俺の言葉を肯定するように吠えるフェンリル。

 そういえば、フェンリルは昨日土と血で大分汚れてたな。

 当然だが、今日もそのままで、明るい陽射しの中で見ると全身が汚れているのがわかる。

 体を洗いたいんだろうな……それにしても、やっぱりこのフェンリルは言葉を理解する事が出来るようだ。

 まだフェンリルと接し始めたばかりだから、あちらが何を言ってるのかわからないが、レオが通訳してくれるし、こちらからの言葉が通じるなら色々やりやすい。


「わかった、じゃあお前も一緒に行こう」

「キャゥー」

「ワフ」


 フェンリルは俺について来る事にしたようだ。

 レオはそんなフェンリルを見張るために後ろで待機してる。


「私も一緒に行って良いでしょうか?」

「……身支度するところを見られるのは少し恥ずかしいですが……良いですよ」

「ありがとうございます。出来るだけ、タクミさんの方は見ないようにしますね」


 クレアさんも一緒に来るようだ。

 まぁ、男の朝の支度なんて髭を剃って顔を洗うだけだ(俺はな)、少し恥ずかしいのを我慢するだけだ。

 俺とクレアさんは、フェンリルとレオを連れて、すぐ近くの川へ。


「キャゥー!」

「ワフ!」


 川に着いてすぐ、フェンリルが飛び込む。

 それを追ってレオもすぐさま川へ飛び込んだ。

 川で遊ぶのは良いが、ちゃんと綺麗になるんだぞ。

 クレアさんはそんなレオとフェンリルを朗らかに見ている。

 ……さっさと髭を剃ろう。

 ここ数日で大分慣れたおかげで、傷が出来る事も無く髭を剃ることが出来た。

 俺の身支度も終わり、クレアさんと一緒にフェンリルとレオが川で戯れるのをしばらく見ていたら、ヨハンナさんが朝食の準備が出来たと呼びに来た。


「おーい、ご飯が出来たぞー」

「キャゥ!?」

「ワフ!」


 俺がレオとフェンリルに呼びかけると、両方凄い反応で急いで川から出て来る。

 ……そんなに急がなくてもいいんだがな。

 レオが先に川から上がり、体を振るって水気を飛ばす。

 それを見たフェンリルも、レオを真似するように体を震わせて水気を飛ばした。

 ……本当、親子みたいだなぁ。



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