第61話 クレアさんと一緒に焚き火を囲みました



「他は詳しくわからないのか?」

「ワフーワウワウー」


 どうやら、何となく色々な魔法が使えるのはわかってるんだけど、どういった魔法なのかまではわからないらしい。

 使ってみるまで効果がわからないって事かもな。

 レオも俺と一緒にこの世界に来てまだ数日だ、わからない事があって当たり前だろう。

 最初は誇らし気な表情で使える魔法を教えてくれてたレオだが、段々すまなさそうな表情になって行った。

説明出来ない事を気にしてたようなので、隣に座るレオをガシガシと撫でた。


「わからないなら仕方ないさ。気にすんな。俺も、自分のギフト……『雑草栽培』の事をまだ全部わかってるわけじゃないからな」

「ワフワフ」


 俺がレオの体を撫でてると、顔を近づけて来たのでその頭を撫でてやった。

 モサモサしてる銀色の毛が手に気持ち良い。

 撫でてやってるのと俺の言葉で、レオは気を取り直したらしい。

 今は焚き火に当たりながら、俺に撫でられてる嬉しさから尻尾をブンブン振ってる。

 ……尻尾を振るのは良いが、焚き火に近過ぎて毛がチリチリになったりしないか少しだけ心配だ。

 そんな風にレオとまったり過ごして2時間くらいが経った頃、テントの方から何やらガサゴソと音がしてるのが聞こえた。


「フィリップさんかな?」


 次の見張り交代の時間までまだ結構あるけど、起きるの早くないか?

 テントの方に視線を向けると、音がしてるのは男性用のテントじゃなくて、女性用……クレアさんとライラさんが寝ているテントの方から聞こえていた。

 ……どうしたんだろう? トイレとか?

 しばらくそちらのテントを見ていたら、中からクレアさんが出て来た。


「タクミさん、見張りお疲れ様です」

「はい。どうしたんですか? 眠れなかったとか?」

「いえ……そういうわけではありませんが……隣、良いですか?」

「どうぞ」


 クレアさんは、レオがいる方とは反対に座った。

 どうしたんだろう……眠れないというわけじゃないなら、しっかり寝てた方が疲れも取れて良いと思うんだが……。


「少し……タクミさんと話がしたくて……」

「俺と……ですか?」

「はい……」


 隣に座ったクレアさんの顔を盗み見てみると、頬が赤く見える。

 それは焚き火の光なのか何なのか……。

 とにかく、クレアさんが俺と話したいとの事だ、何を話すのかはわからないがしっかり聞こう。

 レオは邪魔しないよう、静かに俺の隣で伏せの体勢をしてる。

 ただ興味は有るのか、顔は俺とクレアさんの方を向いてる。


「あの……タクミさん」

「はい?」

「今回、この森に連れて来てくれた事……ありがとうございます」

「あぁ……えっと……気にしなくて良いですよ。俺もこの森には興味がありましたからね」


 最初に起きた時、この森にいた。

 どうやってここに移動させられたのかはわからないけど、最初にいたという事は、何か理由があるのかもしれない。

 クレアさん達の話によると、ここはフェンリルの森と呼ばれているらしい。

 一緒にいたレオがシルバーフェンリルになっている事も含めて、この森には何かあるのかもしれない……という興味も有ったからな。


「それでも、お礼を言わせて下さい。タクミさんが来てくれなければ、ここに来ることは出来なかったでしょうから」

「……はい」

「それと、お礼もそうなのですが……」

「他に何かあるんですか?」

「いえ、その……私がこの森に一緒に来て欲しいと誘った時の事ですが……」

「あぁ……あの時の」


 あの時のクレアさんの表情は忘れられないな。

 前の世界の仕事でミスをした時、怒る上司には恐怖したものだが、それ以上だった……。


「その……あの後、セバスチャンに怒られました」

「セバスチャンさんに?」


 セバスチャンさんがクレアさんを心配するあまり、説教のような事を言う事はあるかもしれないが、クレアさんの事を怒るとは……。


「セバスチャンから怒られるのはよく有る事なんですが……」

「よく有るんですか……」


 そう言えば、俺と初めて会った時一人で屋敷を抜け出してこの森に来ていた。

 屋敷へと一緒に行った後、セバスチャンさんがクレアさんに苦言のように言ってた事もあったっけ。

 まぁ、無茶な事をするお嬢様を叱るのは執事の役目……なのかな?

 やっぱりクレアさんはお転婆な所があるようだ。

 何となくだが、セバスチャンさんに怒られるクレアさんの図が想像出来るようになって来たぞ。


「それで……その……私がタクミさんを誘った事で……私が誘うとタクミさんは断れないだろう、と言われまして……」

「あー」

「タクミさんは、私達の屋敷にお世話になってると遠慮してる部分がありますよね? まだ出会ってからの時間は短いですが、タクミさんの性格を考えると、確かに断れるような誘い方じゃなかったなと、反省しました」


 確かに俺はお願いされたら断れない性格だ。

 直そうとは思ってるんだが、何でだろう……気が付くといつも色々な頼まれ事をしてる。

 仕事でも同僚から色々頼まれ、仕事が増えて処理しきれなくなる事もあった。


「タクミさんの事も考えず、私は強引に誘ってしまったのです。……本当に申し訳ありません」

「……いえ……良いんですよ。確かに俺は、あの時だけに限らず頼まれたら断れない性格です。ですが、俺もこの森に来たかったので、クレアさんの誘いはちょうど良かったんです」

「それでも、タクミさんを無理に誘った事は事実です。それは公爵家として、やってはいけない事なのです」

「公爵家?」


 なんだか話が大きくなって来たような……?


「公爵家は貴族の中でも上位です。なので、公爵家が何かを言うとそれを断れない人というのは絶対にいます。権力を使う事が全て悪い事では無いとは思いますが……我が公爵家では、権力で人を無理に動かす事を固く禁じています。それなのに私は、タクミさんを無理矢理誘ったのです」

「……成る程」


 クレアさんが反省する理由はわかったけど、俺は本当に気にしてないんだけどなぁ……。

 とにかくまずは、クレアさんの話を最後まで聞こう。



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