第59話 見張り当番を申し出ました



 フィリップさんとニコラさんは、それぞれ息を吐きつつ焚き火の傍に座る。

 森の中を重い荷物を持って歩き、途中からオークまで運んで、さらにテント設営だ、『雑草栽培』で栽培した薬草があったとはいえ、さすがに疲れたんだろう。

 セバスチャンさんも疲れてそうだが、そんな素振りは一切見せない。

 ……色々アレな所を垣間見たが、この人は本当に謎だ……。


「もう少しで夕食が出来ますので、休憩してお待ち下さい」


 皆が集まって来たのに気付いたライラさんが、鍋の様子を見ながら全員に声を掛けた。

 以前は、オークの肉をレオに切ってもらって、串代わりの枝に刺してただ焼いただけだった。

 今回はちゃんとライラさんが料理をしてくれる。

 ヘレーナさんのようなプロの料理人ではないが、昼に食べた料理も家庭的な味で美味しかったからな、今回も期待しよう。


「それでは、食事が出来る前に今夜の見張り当番を決めてしまいましょう」

「見張り当番ですか?」

「はい。ここは魔物の出る森の中ですからね。それに野生の獣もいます。そんな中で野営をするのですから、夜を徹して見張りを立てる必要がございます。皆が寝静まってしまっては、襲ってくれと言ってるようなものですからね」

「言われてみればそうですね。俺の住んでた場所だとそんな必要は無かったもので……」

「タクミさんの住んでた場所では、見張りはいらなかったのですか?」

「はい。あちらには魔物がいませんでしたからね。野生の獣はいましたが、人を襲うような獣は多くありませんでした。それに、こうやって野営をする場所では、安全が確保された場所ばかりでしたから」

「そうなのですか」


 クレアさんを含め、セバスチャンさん達も俺が言うような安全な野営というのは興味があるようだ。

 だけど、あれは人を襲う獣が少ない日本だから出来た事だ。

 それに、キャンプなんかをする場所は、安全確認を前もってされた場所だからな。

 この世界には野生の獣だけでなく、魔物もいる。

 人を襲う魔物や獣がいて、人が踏み入れない場所で野営をするんだ、見張りを立てるのは当たり前だろう。

 俺は改めて、ここが自分の居た場所とは違うのだと再実感した。


「タクミ様の仰る安全な野営というのも興味がありますが、まずは今回の見張りです」

「はい」

「見張りは交代しながらこなす事にしましょう。一人が朝まで見張りをしてしまうと、明日動けなくなりますので」

「最初の見張りは私がやりましょう」

「わかりました。では、最初の見張りはフィリップに任せます。次は……そうですね、ヨハンナとライラ、良いですか?」

「はい」

「大丈夫です」

「最後に……ニコラと私が見張りをします」


 おや? クレアさんはともかく、俺は見張りをしなくて良いのかな?


「セバスチャンさん、俺は見張りをしないんですか?」

「タクミ様は……先程の話しから、こういった事には慣れていないでしょうからな」

「……確かに、慣れてはいませんが……」


 キャンプの経験すらほとんど無い。

 夜中に起きて見張りをするなんて、当然した事が無い。

 けど、皆に見張りをさせておいて、俺はテントで朝までぐっすりってのは気が引けるな。


「セバスチャンさん、俺にも見張りをさせて下さい。慣れてないのは確かですが、皆に見張りをさせるだけというのはどうにも……」

「……そうですか……んー、どうしましょうか……」

「ワフワフ」

「ん? レオ、どうした?」


 俺がセバスチャンさんにお願いをして、どうするか悩んでるのを見て、レオが騒ぎ出した。

 もしかして、一緒に見張りをしてくれるのかな?


「レオも見張り、するのか?」

「ワウ!」


 俺の言葉に頷くレオ。

 レオがいてくれるなら、慣れない見張りでも安心だな。

 セバスチャンさんもそう思ったのか、頷いて認めてくれる。


「良いでしょう。それでは、最初の見張りはタクミ様とレオ様に任せる事にします。フィリップ、良いですか?」

「わかりました」

「ありがとうございます」

「慣れない見張りですからね、何か異常を感じたらすぐに誰かを起こして下さい。……レオ様がいるなら大丈夫だと思いますが」

「レオが? 確かに心強いとは思いますが、そんなにですか?」

「はい。レオ様は先程森の中で、我々の誰一人気付いていなかったオークの接近に気付きました。それなら、見張りを任せている時に魔物が近付いて来た場合、誰よりも早く察知出来るでしょう」

「ワフ!」


 レオも任せろとばかりに頷く。

 そういえば、最初にこの森に来た時もさっきも、確かにレオはいち早くオークに気付いた。

 気配? それともにおいとかで察知出来るのかな?

 レオがいれば、俺の見張りは必要ないかもしれないが……俺も何かしら役に立たないといけないからな、頑張ろう。


「それでは、見張り当番は、タクミ様とレオ様、フィリップ、ヨハンナとライラ、私とニコラ。これで良いですね。見張りは夜の10時から開始とします。交代はそれぞれ3時間が経ったら次の見張りと代わって下さい」

「「「「「はい」」」」」

「ワフ」


 セバスチャンさんが懐中時計を取り出して、それを見ながら計画を立てる。

 10時開始で、3時間だから……俺が13時までか。

 まだなれないこの世界の時間設定。

 多分、前の世界では11時~2時くらいだろうと思う。

 時間の事を考えてると、レオを挟んで隣に座ってたクレアさんが声をあげた。

 見張りの話になって考え込んでたけど、どうしたんだろう?


「……セバスチャン、私も見張りをするわ」

「クレアお嬢様が、ですか? ……それはお断りさせて頂きます」


 クレアさんも見張りをしたいようだ……俺と同じように、他の人が見張りをしていて、自分が何もせずに寝てるだけなのは嫌なのかもしれない。

 だが、セバスチャンさんはクレアさんの申し出をきっぱりと断った。

 他の皆も、セバスチャンさんの言葉に頷いている。


「どうして? タクミさんも慣れないながら見張りをするのでしょう? 私がしてはいけない事にはならないと思うわ」

「クレアお嬢様、タクミ様にはレオ様が付いていらっしゃいます。それに、クレアお嬢様はここに来るまでに随分とお疲れのご様子でした。見張りは私共に任せてしっかりと休んで下さい」

「でも……」

「もし明日の朝になっても疲れが残り、森の中を探索する体力が無い場合は、屋敷へ戻る事になりますよ?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る