第58話 オークはレオが捌いてくれました



「ワフワフ」

「ん? レオ、また火を付けたいのか?」

「ワフ」


 枝を並べ終えた俺にレオが嬉しそうに寄って来る。


「ライラさん、良いですか?」

「レオ様に火を付けて頂けると助かります。こちらからお願いしたいくらいですよ」

「そうですか。じゃあレオ、火を付けても良いぞ」

「ガウ!」


 俺の言葉を聞いたレオが一声吠えて、前の時のように口から火を吐く。

 強過ぎず弱過ぎない火は並べた枝の真ん中を燃やし、少しして燃え広がった。


「これで、焚き火の完成ですね」

「はい。ありがとうございます。レオ様もありがとうございました」

「ワフー。ワフワフ」


 ライラさんにお礼を言われたレオ、褒めて欲しいだろうなと思って見たら既にクレアさんが撫でていた。

 クレアさんに撫でられながら、嬉しそうに鳴いている。

 仲が良さそうでで何よりだ。


「では私はオークの調理を始めます。まだ日が高いですが、今のうちに処理しておいた方が良いでしょう」

「わかりました。手伝いましょうか?」

「……そうですね……オーク3体はさすがに一人では手に負えませんので、お願いします」

「わかりました」

「ワフ」

「レオ様も行くんですか?」


 俺とライラさんが、オークの置かれている所へ行こうとすると、今までクレアさんに撫でられていたレオが俺の隣に並んだ。

 クレアさんは、撫でていたレオが手から離れて少し寂しそうだ。


「レオ、ここでクレアさんと留守番してても良いんだぞ?」

「ワフー」


 レオは俺の言葉を否定するように、右前足を軽く上げ、爪を出して見せた。

 ……そう言えば、初めてオークを食べた時も、レオが爪で捌いてたっけな……。

 仕方ない、クレアさん一人残して行く事になるが、歩いて1分もしない場所だから大丈夫だろう。


「クレアお嬢様は、ここで焚き火に当たってもう少し休んでいて下さい。川辺なので体が冷えてはいけません。焚き火に当たって温まった方が疲れも取れやすいですよ」

「私もオークをどう捌くのか近くで見てみたかったのだけど……わかったわ。ここから見ている事にするわ」


 ライラさんがクレアさんに声を掛け、その場に一人残して俺達はオークの置いてある場所へ。

 途中、テントを張っていたヨハンナさんに話しかけ、クレアさんが一人でいると伝えた。

 それを聞いたヨハンナさんは、他にテントを張っていたフィリップさん達に声を掛けてクレアさんの所へ行くようだ。

 テントは大分形になっていて、オークを捌き終わった頃には終わってそうだな。


「ライラさんはオークを捌いた事はあるんですか?」

「……いいえ、ありません。他の動物ならあるのですが……」

「……そうですか……」


 不安要素が出て来てしまった……。

 何とは無しに聞いた事だったが、まさか経験が無いとは……。

 さてどうするかと考えようとしたところで、レオが横で自己主張。


「ワフ、ワフ」


 前足の爪を伸ばして、これ見よがしに見せて来る。


「レオ、3体分あるけど、出来るか?」

「ワフ!」

「……だそうですので、レオに任せましょう」

「……わかりました。申し訳ありません、レオ様に任せる事になってしまって」

「良いんですよ。色々お世話になってるんですから、これくらいは。それに、レオもやりたがってますからね」

「ワウ!」


 レオはやる気満々だ。

 ライラさんは申し訳なさそうにしてるが、こういうのは慣れた人(犬?)がやった方が良いだろう。

 生き物を捌くって、結構難しいらしいからな。

 オーク置き場に着いて、後はレオにお任せ。


「レオ、頼んだぞ」

「すみませんが、お願いします。レオ様」

「ワフー。…………ガウワウ!」


 俺とライラさんに頼まれたレオは、颯爽と置いてあるオークに歩み寄り、前足を振るった。

 血が抜いてあるから、血飛沫が飛ぶようなスプラッタな事にはならなかったが、それでもオークの肉が切り刻まれて飛び交ってるのは、ちょっとショックな映像だった。

 1分かそこらで爪を振り終えたレオは、満足気な表情で俺達の所へ戻って来た。

 ……早過ぎるよレオ……。


「ライラさん、オークの肉はどうですか?」


 レオの動きで呆気に取られていたライラさんに声を掛け、一緒に見る。


「これは……ここまで綺麗に捌けるのは料理人くらいですよ。凄いですね、レオ様!」

「ワフワフ」


 オークの肉は、そのまま精肉店で出せそうなくらい綺麗に捌かれていた。

 置いてある場所が土の上だから、さすがに洗わないといけないだろうけどな。


「レオ様……選別も出来るんですね……」

「そうみたい、ですね。これ、人間が捌くより上手いのでは……?」


 レオによって切り刻まれたオークは、それぞれの部位ごとに分かれて置かれていた。

 しかも、内臓は肉とは別にしてある。

 オーク肉を豚肉として考えても、爪で肉を捌き、部位ごとに分け、内臓も分けるって一体……。


「シルバーフェンリルって凄いんだなぁ……」

「ワフワフ」


 俺は深く考えるのを放棄して、誇らし気にしてるレオを撫でて褒める事にする。

 その後、さすがに全部は一度に食べ切れないので、今回の調理用と、保存用を分ける。

 調理用を持って、クレアさんの待つ焚き火の所へ戻ったライラさんは、早速とばかりに鍋と野菜を取り出して調理を始める。

 ……ライラさんも森の中を移動して来て疲れてるだろうに、ありがたい事だ。

 クレアさんは先程のレオの活躍を遠目に見ていたのだろう、またレオの頭を撫でて褒めている。

 ヨハンナさんはそんなクレアさんとレオを朗らかに見ていたが、時折レオに手を伸ばそうとして戻したりを繰り返していた。

 ……撫でたいなら撫でても良いんだけどな。

 俺はそんな様子を眺めつつ、飲み水用と調理用に川の水を汲んだ。


「テントの方は準備出来ました」

「お疲れ様です」


 日が傾き、薄暗くなって来た頃、テント設営の指揮をしていたセバスチャンさんと、テント設営を終えたフィリップさん、ニコラさんがこちらに来た。

声を掛けて来たセバスチャンさんを労いながら、俺は焚き火用の枝を、料理してるライラさんの邪魔をしないようにしながら追加でくべた。



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