第52話 フェンリルの森入り口に到着しました



 休憩場所から先はレオに乗って行く事をセバスチャンさんに伝え、クレアさんとライラさんにも伝えた。

 二人には、レオが人を乗せたがってるからと言い訳しておく。


「すまんレオ、お前のせいにして……」

「ワフゥ」


 レオが仕方ない奴だと言うように頷いた。。

 30分くらいの休憩後、俺達は再び森へ向かって出発する。

 レオは俺を乗せて嬉しいのか、はしゃぐように走って馬車を置いて行かないように止める事が何度かあった。


「レオ、もう少し落ち着いて走ろうな」

「ワウ……」


 反省はしてるようだが、まだ走り足りなさそうだ。

 ……森に入ったらあまり走れないだろうから……そうだな……こうするか。


「レオ、俺の指示した通りに走ってみろ。もっといっぱい走り回れるぞ」

「ワフ!? ワフワフ!」


 俺はレオに指示を出し、馬車の周り、護衛さん達の周りを回るようにレオを走らせた。

 指示をしたのは確かに俺だが、移動してる馬や馬車の周りをこんなに早く走り回れるとは……。

 何度か馬車に近づいたり離れたりを繰り返してるうちに、ライラさんから羨ましそうな目で見られるようになってしまった。

 ……今度しっかりレオに乗せますから、そんな目で見ないで下さい。

 馬車の横で、ライラさんと目線があった時に、謝るように目礼しておいた。

 これで大丈夫かと思っていたら、今度はクレアさんが羨ましそうな目をしてる……。

 次は貴女か!?

 クレアさんにも一度目礼をしておいた……。

 さらにその後、セバスチャンさんにも同じような目で……。


「タクミ様、さすがに冗談でございますよ。ほっほっほ」


 ……セバスチャンさん、慣れて来るとこんな人だったのか。

 真面目できっちりした執事さんだと思ってたのに……。

 俺達一行は、遊んでるような和やかな雰囲気のまま移動し、森へと辿り着いた。

 森の入り口で馬車を停め、クレアさんとライラさんが降りて来る。

 俺も馬車の近くでレオから降りた。


「レオ、疲れて無いか?」

「ワフ? ワフワフ!」


 全然大丈夫と言うように、右前足を上げるレオ。

 さらに人間臭い仕草をするようになってる気がする。

 というかレオ、あんなに走り回ったのに全然疲れて無いんだな……。

 馬車や護衛さん達の周りをぐるぐる回ってたから、馬の倍くらいは走ってる計算になるはずなのになぁ。


「馬車での移動はここまでですな」


 セバスチャンさんがそう言って御者台を降り、近くの木と馬車をロープで繋げる。

 馬車を曳いて来た馬、護衛さん達の乗って来た馬も一つの場所へ集め、水を飲ませつつ木に繋ぐ。


「森の中に入る時、馬はどうするんですか?」

「私達が戻って来るまでここに繋いでおきますよ」

「私が見張っておきます!」


 セバスチャンさんに質問をしたら、護衛の人も一緒に答えてくれた。

 確かクレアさんと初めて会った時、馬がオーク驚いて逃げたと言ってたな。

 中に入ったらオークとか魔物と遭遇するかもしれないから、馬を驚かさないようにここに待機させるのかな?


「魔物に驚いて馬が逃げないようにですか?」

「それもあるのですが、馬だと森の中を移動しにくいですからね」

「……確かに、言われてみれば。あ、でも初めてクレアさんに会った時は馬に乗って森の中に入ったと言ってましたよ? オークを見て逃げたみたいですが」

「私が居た場所は川辺でしたでしょう? 森の外へ続いてる川のほとりを沿って、馬に乗って移動していたのです。ラモギは川辺に生える薬草ですからね」

「あぁ、成る程」


 川辺は森の中でも、他の場所より木々が開けていた。

 クレアさんの言ったように、川辺を沿って移動するなら木々が密集してないため、馬でも移動しやすいんだろう。

 セバスチャンさんとの会話に入り込んで、答えを教えてくれたクレアさんは、馬車から荷物を出してライラさんに渡してる。

 おっと、俺も手伝わないと。


「手伝いますよ。俺の荷物もありますしね」

「ありがとうございます。ですが、タクミ様は出来れば護衛の兵士達と一緒に枝を集めてもらえますか?」

「枝ですか?」

「はい。出来るだけ乾燥していて、太い枝です。これから焚き火をしますので」

「もうお昼ですからな。昼食の支度をしませんと」

「そうですか、今から食事の支度ですね。わかりました、枝を集めて来ます。レオも手伝ってくれ」

「ワフ!」


 俺はレオを連れて、少しだけ森の中に入る。

 まだ中から外にいるクレアさん達が見える位置だ。

 あまり俺達だけで奥まで行ったら心配させてしまうかもしれないからな。

 同じように、馬を見てる護衛さん以外の護衛さん……フィリップさんやヨハンナさんも、森の中で地面を見て枝を探してる。


「ワフワフ」

「お、レオ偉いぞ」


 レオが何本かの枝を口で咥えて持って来てくれた。

 枝は俺や護衛さん達の腕くらいの太さがある。

 この太さを数本口で咥えるって、よく考えたら凄いな。

 俺は枝を持って来てくれたレオの頭を撫でて褒めつつ、自分も枝を拾わないとと思い地面を探す。

 10分くらい枝探しを続けて、ある程度集まったところで焚き火にする。


「では、火を付けます」

「お願いね、セバスチャン」

「ワウワウ」

「ん? どうしたレオ?」


 火を付けるため、セバスチャンさんが焚き火用に纏めた枝に手をかざす。

 多分、魔法で火を付けるんだろうな。

 魔法が見られると思って、ちょっとした見学気分でセバスチャンさんを見てると、レオがセバスチャンさんの横に並んだ。


「セバスチャンさんの邪魔をしちゃいけないぞ、レオ」

「ワフー。ワウワウ」


 一度俺の顔を見て、纏めた枝を見る。

 もしかして、レオが火を付けたいのか?



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