第47話 フェンリルの森に行く事が決まりました



「ワフワフーワウ。ワーウワフワフ」


 えーと、今回は……フェンリルの本能で絶対服従ってわかるはず。それに何かの間違いで襲って来ても全部倒すから大丈夫……という感じかな?

 完全にそう言ってるわけじゃないだろうけど、レオの表情からはフェンリルが相手でも大丈夫という自信が見える。


「えーと……そういう事だそうです」

「……いえ、タクミ様……レオ様の言葉はタクミ様にしか伝わっていないので……」

「あ……」

「ワフ……」


 いやー、あまりにしっかりとレオと話してる気分だったから、皆もわかってると勘違いしてしまった。

 ……少し恥ずかしい。

 失敗を誤魔化すように一度咳払いをしてから、レオの言葉を伝える。

 誤魔化せてるかはわからないが気にしない。


「んん! レオが言うには、フェンリルが本能でシルバーフェンリルに服従するんだと悟るそうです。もし何かの間違いで襲って来たとしても、どれだけの数がいても、問題無く倒せるそうです」

「……成る程……では……もしシルバーフェンリルが複数現れた場合はどうするのですか?」


 セバスチャンさんはなおも食い付いて来る。

 まぁ、クレアさんを心配してるからこそ、危険な森には行かせたくないのだから仕方ない事だと思う。


「それに関しては、普通のフェンリルや魔物よりも安全だそうですよ?」

「どういう事ですか?」

「シルバーフェンリルは同族を決して襲う事はしないそうです。むしろ仲間として歓迎してくれるそうです。なので単独でも複数でも、出会えた方が安全かもしれませんね」

「……そういう事なら……シルバーフェンリルであるレオ様が仰っている事ですし……」

「セバスチャン、納得出来たかしら?」

「……はい」

「それじゃあ、私とタクミさん、レオ様が森に行く事で決まりね」

「……畏まりました、クレアお嬢様」


 セバスチャンさんは、否定する材料が無くなってクレアさんを止める事が出来なくなった。

 さすがに今の話しだけで、全て安全だと思う事は出来ないから、渋々頷くといった感じだが。


「クレアさん」

「はい?」

「クレアさんは何でそんなに、シルバーフェンリルがいるかどうかを調べたいんですか?」

「それは……今日は辞めましょう。もう随分と長く話し込んでいます。ティルラも眠いようですし、森に行くのなら、早めに休んだ方が良いでしょうから」

「……わかりました」


 クレアさんの言葉に、チラリとティルラちゃんの様子を窺って見ると、部屋の端で頭をこっくりこっくりさせて半分以上寝てるようだ。

 しかし、クレアさんには何だかはぐらかされたような……。

 俺の腑に落ちてない様子を見てか、クレアさんは俺の耳元に顔を近づけ、そっと囁いた。


「森に行く途中、タクミさんとレオ様だけに話しますね。あまりセバスチャン達には知られたくないのです」

「……わかりました」


 俺が頷くと、顔を離して笑顔を見せるクレアさん。

 セバスチャンさん達に知られたくない理由って何なんだろう……?

 話してくれるって言ってるんだから、その時を待つ事にしようか。


「ライラ、ティルラをお願いね」

「畏まりました」


 クレアさんがライラさんに頼んで、ティルラちゃんは抱きかかえられて客間を出て行った。

 満腹なところに、ティルラちゃんにとっては難しくて興味の無い話しが続いたから眠くなっても仕方ないかな。

 まだ夕食までの時間はあるから、お昼寝タイムだ。


「ではタクミさん、私はセバスチャンと森に行くための準備をどうするか、話して参ります」

「はい」


 クレアさんはセバスチャンさんと話をするようだ。

 セバスチャンさん、さっきクレアさんに詰め寄った事を怒られるかな?

 ……いや、逆に森に行く事を急に決めたクレアさんがセバスチャンさんに説教されるかもな。

 クレアさんはそのまま、セバスチャンさんと一緒に客間を出て行った。

 残ったゲルダさんは、レオに牛乳を上げてる。

 俺はレオが牛乳をたっぷり飲む様子を見ながら、ライラさんが淹れてくれたお茶を飲んでのんびりと過ごした。

 ……話が長引いたせいで、お茶は冷めてたけどな。

 美味しいから良いんだけど。


「あ、ゲルダさん、お代わりをお願いします」


 客間でお茶を飲みながらのんびりした後、昼寝から起きて来たティルラちゃんや、セバスチャンさんとの話が終わったクレアさんと一緒に夕食を取り、今日は早めに寝る事になった。

 風呂は昼食後に入ってるから、夕食後のティータイムの後はすぐ部屋に戻る。


「ふぅ……まさかまたあの森に行く事になるなんてな……」

「ワフ?」


 レオが首を傾げて俺を見る。

 どうしたのかと聞いているようだ。


「いや、あの森では結構彷徨ったからな。それにオークとかいたし……もう行かないと思ってたんだ」

「ワフーワフワフ」


 それならどうして行く事に? かな。


「どうしてもクレアさんが行きたいみたいだしな。まぁ、俺がこの世界で最初に来た場所だから、何かあるかもしれないって興味は俺もあるんだよな」

「……ワフー……ワフ?」

「どうしたレオ?」


 話してる途中、レオが何やら見つけたようで、首を傾げながら机を見てる。

 そこの机には何も置いてなかったはずだけど……あ、今日試した『雑草栽培』で生えてきた見た事ない植物を置いてたな。


「ワフ?」

「あーそれはな、『雑草栽培』で何故かわからないが生えてきた植物だ。見た事も聞いた事も無い物だからどんな物か落ち着いたら調べてみようと思ってそこに置いてるんだ。……食べるな……あ! おいレオ!」

「モシャモシャ……ワフー」

「……食べたのか……。多分何かの薬草だが……毒じゃ無ければいいけど……レオ、何ともないか?」

「ワフー? ……ウー……ワフワフ!」


 急にはしゃぎ始めたレオ。

 体が大きいから全力じゃないんだろうが、尻尾はブンブン振られている。


「……何だ?」

「ワフワフ!ガウガウ!」


 えーと何々……元気になっていくらでも走れそう……だって?

 これってどういう効果なんだ?

 いくらでも走れるって事は、疲労回復? いや、体力増強とかかな?


「レオ……あの草でどうなったかわかるか?」

「ワフーワフ。ワフワーフワウワウ」


 レオが首を振り尻尾を振りながら一生懸命伝えようとしている。

 何やら疲れも感じ無くなって、いつもより体の調子が良くて強くなった気分らしい。


「体の調子が良い、か……」


 これはどういう事だ……?



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