第30話 ギフトは『雑草栽培』という事がわかりました



「あたしゃイザベルってもんだ。ここで魔法道具商店をやってるケチな婆さ」

「初めまして、タクミです」

「タクミね……それじゃさっそくこの水晶に手を当てな」

「はい」


 俺はイザベルさんへ近づき、店のカウンターの上に置いてある水晶を触った。

 水晶はボーリング球くらいの大きさで、完全な透明ではないがそれなりに透き通って見える。

 イザベルさんの容姿もあって、占い師のような雰囲気だ。

 ただ、水晶に前の世界で見た物と違う部分があるな。

 丸い水晶の中心に赤い点のような物が見えた。

 ガラスで作られた水晶に混ざり物が入ったとかではなさそうで、その赤い点は一定の間隔で点滅している。

 魔法が掛けられた道具だからなのかもしれない。

 俺が水晶に触れると、その赤い点が激しく点滅し始めたと思ったら、緑色に変わり光を放って店内を照らす。


「ふむ……これは……」

「どうですかな、イザベル」

「慌てるんじゃないよ……成る程ね……」


 イザベルさんが水晶を覗いて考え込んでいる。

 そうしている間にも、水晶は赤くなったり緑になったりと色を変えて点滅してる。

 眩しい程ではないのだが、赤とか緑とかの光を放たれたらちょっと目に悪そうだな。


「わかったよ、タクミの魔力」

「……どうでしたか?」


 俺が聞くと、イザベルさんは眉間にしわを寄せながら話し始めた。


「魔力量はかなりあるようだね。魔法の扱いに慣れればそれなりの魔法使いになれるくらいだろうさ」

「そうですか」


 魔力が結構あるという事はちゃんとした魔法が使えるって事だ。

 これで小さい頃憧れた魔法を使って戦うとかも出来るかもしれないな。

 戦闘がしたいわけじゃないけどな。


「だけど……これは……」

「どうしたんですか?」

「何かあったんですか? イザベル」

「……あんた、ギフトを持ってるね」

「やっぱりそうだったのね」

「クレア様はご存じだったんですかね?」

「はっきりとギフトを持っているとまでは……。でも、ギフトを持ってないと説明の出来ない事があったのよ」

「そうですか」

「それで、どんなギフトだったのですか?」


 セバスチャンさんが急かすようにイザベルさんに聞く。

 俺よりセバスチャンさんの方が俺のギフトに興味を持ってるみたいだな。

 俺も自分がどんなギフトで、どんな事が出来るのか楽しみだけどな。


「ギフト名は『雑草栽培』……まぁ、そのまま雑草を栽培する能力のようだね」

「『雑草栽培』……」


 えー、なんか役に立たなそうな名前……。

 期待してただけにちょっとショックだ。


「そのギフトはどのような使い方が出来るの?」

「野菜以外の雑草……農業だとかに使える植物以外の植物をどこでも何でも栽培する事が出来るというギフトですね」

「……そう、ならやっぱりあのラモギも……」

「お嬢様は何か思い当たることがおありなのですか?」

「ええ。タクミさんと初めて森であった時、ラモギを探していたのだけど……どこを探しても見つからなかったの。でも、タクミさんが休憩しようと腰を下ろした場所に、偶然ラモギがあって発見するって事があったのだけど……」

「……つまりお嬢様はそのラモギは『雑草栽培』の能力のおかげだと?」

「ええ、そうじゃないかと思うわ。どうでしょうか、タクミさん?」

「……そうですね……」


 あの時俺は、ラモギがどんな物か考えながら腰を下ろした。

 そして、手を付いた場所からラモギが生えて来たのを覚えてる。

 つまり、俺がラモギを欲したからギフトが発動して生えて来たんじゃないかという事か。


「……あの時、見付からないラモギがどんな物なのかを思い浮かべていました。そうしたら、クレアさんには言っていませんでしたが、地面に置いた手の間から生えて来たんです」

「そうだったのですね。じゃあやっぱり、タクミさんのギフトのおかげでラモギが手に入ったという事ですよね」

「そのようですな」

「タクミ、あたしが鑑定した内容と一致するさね。タクミは思い浮かべた雑草をどこであろうと生やして栽培出来る。……便利な能力さね」


 そうなのだろうか……以前はたまたまラモギが生えただけで、実際には雑草を生やすって使えるのだろうか?


「そうだタクミさん、ラモギを乾燥させた事もありましたね。あれも『雑草栽培』の能力なのでしょうか?」

「ありましたね。俺がラモギを手に持っただけで乾燥して、すぐ薬として使えるようになりました」

「それも『雑草栽培』の能力だろうね。雑草を薬になる状態に変化させる事が出来るってところかね」

「あの時も確かに、ラモギが乾燥したらすぐに使えるのにとか考えてました」

「間違いなさそうですね」


 つまり俺は、野菜以外の植物をいつでも生やせる事が出来て、その植物をすぐ使用出来る状態にさせられる、と……。

 んー、便利なような、役立たずなような……。

 あぁでも、薬屋とかそういった店にならいいのかもしれないのか。


「ありがとうございます、イザベルさん。おかげでどんな能力か知ることが出来ました」

「あたしゃただ魔力を調べただけだよ。いいかいタクミ……一つだけ言っておくよ」

「何でしょう?」

「ギフトという能力は特別な力、どう使うかはお前さん次第だ。そして、それを生かす事が出来るのもお前さんだけだ。よく考えて使うんだよ」

「……はい、わかりました」


 『雑草栽培』……名前を聞いただけの時は使えそうにないと思ったけど、もしかしたら良い使い方があるかもしれない。

 これから先、この能力を使ってどうするのかをしっかり考えよう。


「タクミ様の能力がわかった事ですし、そろそろお暇しましょうか」

「何だい、もう帰るのかい?」

「ええ、もう日が落ちますからね。屋敷に早く帰らないといけません。お嬢様もいますから」

「そうかい。次に来た時はゆっくり出来るように早く来るんだよ」

「ええ、そうします」

「イザベル、ありがとう」

「イザベルさん、ありがとうございました」


 俺達はイザベルさんに礼を言って店を後にした。

 もしかすると、お婆さん一人でやってる店だから寂しいのかもしれないな。

 今度この街に来た時はゆっくりと魔法道具の事とかを聞かせてもらおう。

 外で待っていたレオやヨハンナさんと合流して、ティルラちゃんを待たせ過ぎないように屋敷への帰り道を急いだ。

 ちなみにフィリップさんは店の中について来ていたが、俺がギフトを持ってる事に驚いた表情を見せたくらいで黙って後ろに控えていた。

 護衛、お疲れ様です。



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