第25話 クレアさんがお嬢様発言をしました



 クレアさんと話しつつ、広場から見える街の様子を楽しく見ていると、馬車や馬を預けに行っていたセバスチャンさんとフィリップさんが戻って来た。


「お待たせ致しました。それでは、タクミ様の身の周りの物が買える店へ向かいましょう」

「はい」

「ええ」


 セバスチャンさんを先頭に、俺とクレアさん、護衛の二人と続いて広場を後にする。

 広場から出てすぐ大きな通りに出た。

 その大きな通りでは、人が大勢行き交い、商売をしてる人達が声を掛けたりと、先程の広場よりも活気がある。


「ここはこの街一番の市場ですな。ここでは食材等が主に取引されております」

「ほぉ」

「あの屋敷で食べる料理の食材もここで買って来るんですよ、タクミさん」


 あの美味しく料理された食材達はここからだったのか。

 確かに周りをよく見てみると、露店というか屋台っぽい店構えをした所で野菜や肉なんかを売ってる。

 あ、レオ……ソーセージが大量に吊られて売ってるのを見付けたからってそっちに行こうとしたら駄目だぞ。

 朝も昼もたっぷり食べたじゃないか、どうせ晩ご飯もソーセージが食べられるんだから今は我慢しなさい。

 フラフラとソーセージが売ってる店に行こうとしてるレオの足を捕まえて離れないように注意しておいた。


「……ワゥ」


 すまなさそうになのか、残念そうになのか判断が付かない声を上げてレオはおとなしくなった。


「ふふふ、レオ様は本当にソーセージが好きなんですね」

「好き過ぎてたまに暴走する時があるので注意して下さい」

「暴走しないように今夜もソーセージをたっぷり食べさせてあげますね、レオ様」

「ワフ!」


 クレアさんは笑ってるけど、今のレオの大きさでソーセージを食べるために暴走したら手が付けられない。

 暴走する前におとなしくさせるように気を付けないと。

 というかやっぱりクレアさんってレオに甘いよな?


「タクミさん、何か気になる食材とかってありますか?」

「んー……今のところは何も……ぱっと見では特にありませんね。じっくり見たらあるのかもしれませんけど」

「そうですか。今日のところは食材ではなくタクミさんの身の回りの物を買うために来たので、今度来た時にじっくり見るといいかもしれませんね」

「そうですね。次回はゆっくり見て回りたいですね」


 とは言え今の所、売ってる食材を見る限り前の世界とそう変わり映えしないような物ばかりだ。

 さすがに魚は売ってないが、野菜類はパッと見た感じだとほぼ同じに見える。

 今通り過ぎた露店で売ってた野菜はキャベツだろうし、右手側に見える屋台ではカボチャを売ってる。

 野菜以外だと肉だろうが、肉も見た感じ大して差は感じられない。

 この世界にもちゃんと牛や豚っているんだろうか?

 あ、でも森でレオが倒したオークは豚肉の味だったから、もしかしたら豚肉に見える物はオークなのかもしれないな。


「タクミ様、この通りを抜けた先に仕立て屋がありますので、まずはそこでお召し物を見繕いましょう」


 セバスチャンさん先導の元、俺達は市場になってる大きな通りを抜け、少し歩いた場所に建っている木造の店に入った。

ちなみにレオは店の前で待機してもらってる。

 さすがに大きすぎて店に入るスペースがないからな。


「いらっしゃいませ。……これはこれはクレア様。ようこそお越し下さいました」


 店に入ると40歳くらいのおじさんが入店の挨拶をしながらクレアさんに気付いて話しかけて来た。


「ハルトンさん、今日はこちらのタクミさんの服を仕立てて下さい。タクミさん、こちらが店主のハルトンさんです」

「タクミです、よろしくお願いします」

「店主のハルトンです。こちらこそよろしくお願いしますね。タクミ様のお召し物ですな。畏まりました、準備を致しますので少々お待ち下さい」


 ……仕立てる?

 もしかしてオーダーメイドで作るって事かな?

 俺が着る服なんて既製品でいいんだけど……。

 奥に引っ込んだハルトンさんは、メジャーのような体のサイズを測る物を用意してるのが隙間から見える。


「クレアさん、わざわざ仕立てるんですか? 既に作ってある量産品でいいんですが……」

「え? タクミさん、量産品の服なんて有るんですか?」


 え? 無いの?

 工場だとかそういう所で、大量に同じような服を色んなサイズで作って売ったりとかってしてないの?


「お嬢様、一般の方が着る服はあらかじめ作られた服の中で自分のサイズに合うのを買うのです」

「……そうだったの? 私は今まで仕立ててもらった服しか着た事が無いのだけど」


 これが世に言うお嬢様発言というやつなのだろうか……。

 あんな大きな屋敷に住む御令嬢だから、お金はがあるのはわかってたけど、そこまで庶民とかけ離れてたんだ。

 とりあえず、既製品の服があるようでホッとした。


「……ええと、まずは既製品の服を見せてもらえますか」

「え? あ、はい。畏まりました。こちらになります」


 俺の体のサイズを測るための道具を用意して来たハルトンさんに声を掛け、まずは既製品の服を見せてもらう事にした。


「仕立ててもらえばいいと思いますが……」


 何やら後ろでクレアさんが呟いてる。

 いやクレアさん、全部仕立ててもらったらお金がかかるでしょ? クレアさんが立て替えてくれるとは言え、さすがに高すぎる買い物は出来るだけ避けたい。

 俺はハルトンさんにサイズや色々な事を聞きながら、数着の服を選んだ。

 あとは、インナーに使えそうな汗を吸ってくれる素材で出来たシャツっぽい物等も含め、下着類も数点選んで買った。

 買ったとは言ったけど、お金を払ったのはセバスチャンさんで、そのお金の出所はクレアさんなんだけどな。

 ……すみません、お金を稼げるようになったら返します。

 それで満足して店を出ようとした俺にクレアさんが食い下がった。


「タクミさん、一点でも良いので仕立ててもらいましょう」

「えっと……俺は別に仕立ててもらわなくても普通の服で十分なんですが……」

「いいえ! いけません! タクミさんにはちゃんとした服もきっと必要です!」

「……はぁ」


 なんだか少しクレアさんが恐い。

 結局クレアさんの迫力に負け、俺は1着だけ仕立ててもらう事にした。

 ハルトンさんに体のサイズを測ってもらい、どんな服にするかも相談。

 とりあえずどんな服が作れるかもわからなかったので、今着ているセバスチャンさんに借りた服と同様の物をとお願いしておいた。



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