第177話 迷宮化現象


 「いってらっしゃい」


 僕たちの出発を村人たちと観光客が盛大に見送ってくれる。


 キララだけはりきっているが、ちょっとゲンナリとする。


 うそか、本当か、危険な道具が奥に存在しているという話だが……


 祠自体、そんなに深いものではない。


 ただの村人が内部から光が見えたって理由で最深部まで歩いていったんだ。


 簡単にたどり着くだろう。


 この時はまだ―――そう思っていた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 「あれ? お父さん、この先に分かれ道があるよ」


 暗い祠の中、炎で照らす役目に立候補したため先行していたクリムが言う。


 「ん? ちょっと待ってろ」


 足を速めてクリムと合流する。

 確かに分かれ道だ。



 「おかしいですね。村長さんの話では例の鎧まで一本道だったはずでは?」とドラゴン。

 「もしかしたら、3年前の地震の後、鎧に近づいて液体になった村人以外、祠に入ってないのでないでしょうか? そのため、隠れていた通路が何年も発見されていないままだったのでは?」とキララ。


 「いや、そもそも、村人が液体化したって村長の話……誰が見てたんだよ」と僕。


 「あっ!そう言えばそうですね。流石、サクラさん」


 「確かに……言うことは、村長の話は……私、騙されてた!?」


 「うん、キララだけ騙されていた」


 「うむ……話を戻すけど――――


 ここ、魔物モンスターがいないか?」


 僕の言葉に全員が沈黙した。


 姿は見えないが、小柄な影が遠巻きにコチラを窺っている気配。これは――――


 「ゴブリンでしょうね」とドラゴン。


 「……じゃ引き返すぞ」


 しかし、キララは納得しなかったらしく――――


 「どうしてだ? ゴブリン程度なら、私1人でも問題ないくらいで、何より私より皆の方が強いわけだろ?」


 「いや、そうじゃない。祠の内部にゴブリンが―――魔物モンスターが存在していて、内部は一本道だったはずのが、どうも複雑化している。これは――――


 迷宮ダンジョン化現象だ」



 ―――迷宮化現象―――


 詳細は不明だが、洞窟や廃城、あるいは墓場など、特定の場所に魔物モンスターが住み着くことで、既存のダンジョンのように変化してしまう現象だ。


 「実物は初めてみる。……ドラゴン何かわかるか?」


 元ダンジョンのラスボスであるドラゴンなら、何かわかるかもしれない。

 そう思っていたが……


 「さぁ?」と返された。


 「いくら、物知りの私でも、ダンジョンがどうやって生まれるのか、どうやって作るのかわかりませんよ」


 そう話しながら、チラチラとキララの方を見ながらアイコンタクトを送ってくる。


 どうやらドラゴンの正体を知らないキララがいるので喋れない事があるらしい。


 「わかった。それじゃ、僕の引き返すって判断に意見はあるか?」


 「ありません。正しい判断じゃないですか。万が一、私たちが帰還できなければ、迷宮化の情報伝達が遅れます。村人たちが迷宮化に気づくとしたら、外に魔物があふれ出し来る状態になってからでしょう。


 そうなると、観光地と行っても辺境の地。探索者たちが到着するまで、周辺の村々はいくつ滅ぶことになるのか想像もしたくないですね」


 「説明ありがとう。というわけだキララも納得してくるか?」


 「すまない。私の考えは浅はかで困っただろう」


 「いやいや、キララは探索者じゃないわけだし、それに――――」


 「それに?」 


 「自分では当たり前になっていることに疑問を持ってくれる人がいると、再認識と言うか……いや、再発見かな? まぁ兎に角……便利なのさ」


 「……便利って割と酷い言い方だね」


 「そうかな?」と僕。


 「そうだよ」とキララ。


 2人で笑っていると、なぜだかドラゴンとクリムの視線が痛かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る