第80話 ラン家の婚活事情 その⑤


 「ミドリさんの弱点とかないの?」


 僕がそう聞くとサヲリさんは少し悩み「そうだな。小さいものが好きだったな。小動物とか」と答えた。


 「……いや、そうじゃなくて、日常生活での弱点じゃなくて、実戦で使えそうな弱点は?」


 「ない」と即答だった。


 「普通にお姉たまの勝率は100%だ。負けて当然の戦いだが、騎士と決闘は良い経験になる。命を取られるわけあるまいし、思いっきりぶつかって来い」


 ミドリさんの登場で、口調というか、キャラクター性がブレブレになっていたサヲリさんだったが、ここにきて鬼教官モードが安定してきた。


 よし! 負けても良い戦いなんて久しぶりだ。 全力でぶつかって散りに行くか!


 パンパンと頬を2回叩き、気合を入れ直す。


 向かうはミドリさんが待っている校庭。


 そこが決闘の地。 そこに足を踏み入れた。


 校庭は見学の人が大量に集まっていた。


 うん、ある意味ではいつも通りの光景。 


 目を凝らせば、同室の親友、背の高い戦友、王族の少年、赤い少女、貴族の少女がいる。


 ……ラスボスも当たり前の顔をしているな。甘ったるそうなお菓子を大量に膝に乗せ、楽しんでやがるな。


 そして、校庭の中心にはミドリさんが待ち構えていた。


 武器はオーソドックスに剣を選択した。


 使い慣れてる短剣や鈍器を選択しなかったのは、本場の騎士相手に剣術で挑みたいという気持ちがあったから。


 いつも通りの決闘の準備。 互いの武器から殺傷能力を削ぐ魔法を――――


 「私も舐められたものだね」


 「え?」


 線が走った。そうとしか思えない剣筋。


 何を切った? ゴトリと鈍い音がした。


 音の方を見れば、謎の物体が落ちていた。 それが何か理解するまで数瞬の思考停止。


 それは――――僕の剣だった。


 僕が持っていた剣をミドリさんが真っ二つに切断したのだ。


 斬鉄。


 「そんな鈍刀で私に挑もうと言うのか?」


 ミドリさんの表情は本気。 むしろ、怒っている?


 もしかして……学園内の決闘方式とは違う?


 真剣と真剣で切り合うガチモノの決闘を行うつもりなのか?


 それを肯定するかのようにミドリさんは剣を構え直し―――


 横薙ぎの一振り。


 「くっ!」と僕はバックステップで避ける。


 そのまま、一気に距離を稼いで間合いは大きく取る。


 「学生とは言え、さすが現役の探索者。魔物と対峙するための技術は、騎士の技術とは別物だな。一瞬、一瞬の瞬発力が凄い。しかし――――」


 次の瞬間、十分に広がった間合いは0になっていた。


 僕の目前にはミドリさんの顔があった。


 一瞬で追いつかれた? 馬鹿な!


 僕は、もう一度、背後に飛ぶ。しかし、ミドリさんは同じ速度でついてくる。


 1度、2度、3度……


 「いい加減にしろ!」


 僕は叫ぶと同時に前蹴りを使い、追走してくるミドリさんを蹴り剥がした。


 再び距離が開く。


 ミドリさんの移動術。確かに僕ら探索者の技とは違っている。


 人と対するための技。極端なまでに隙を作らない事を徹底した動き。


 動作のおこり、初動作、予備動作。そう呼ばれるものを消す動きだ。


 要するに動きの全てがノーモーション。


 だから、気がつけば目前にいる。 


 わかっていても対応しきれない。 後手後手と防戦一方に追い込まれていく。


 次々に振るわれるミドリさんの剣戟を折れた剣で捌くが……ジリ貧。


 一方的にスタミナが奪われ、動きが鈍くなってく感覚が生まれてきた。


 (や、やられる!)


 だが、ミドリさんは急に攻撃を止めた。


 なぜ? ミドリさんの顔を窺う。


 ゾッとした。 まるで虫けらを――――取るに足らない物を――――つまらない物を見るような目を向けられていたからだ。


 「こんなものか?」と彼女は呟く。


 「この程度とは師事したサヲリの力量を疑う。やはり、連れ戻しにきて正解だった……」


 「え?連れ戻しに?」


 「その通りだよ。様子を見に来たなんて嘘だよ。本当は、この学校がラン家に相応しいか、見極めるためにきたのさ。そして、結果はでた」


 「……けんな」


 「ん?何か言ったかい?」


 「ふざけんなって言ったんだよ!僕の力量で、学園を見極める?サヲリさんを見極める?ふざけんなよ。それでなにか?サヲリさんを止めさせるって言うのか?」


 彼女は―――ミドリさんは無言だった。けど、鼻で笑っていた。


 「だったら、僕の――――俺の妙技を見せつけてやるぜ!」


 「ほう、似ている。擬似的な人格を作って、自分を奮い立たせている。まるでサヲリちゃんとソックリじゃないか!」


 「もう、お前は黙っていろ!」


 僕は彼女が振るった剣を避けると同時に彼女の懐へ飛び込んだ。

 

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