第70話 数日前 (回想)



 回想(数日前)


 クリムの父親を探し出すのは簡単だった。


 まず、クリムが父親を捜して現れた場所は学園の管理しているダンジョンだ。


 つまり、学園の関係者である可能性が高い。


 もっとも、俺の武器である――――僕にの武器である『龍の足枷』を狙う人物が、嘘八百のデタラメでクリムをダンジョンに誘導した可能性もあっただが……

 結果論として、本当にクリムの父親はダンジョンの関係者だった。


 シュット学園の生徒を除いた男性は、教員、管理人、その他諸々。


 100人くらいはいる。


 しかし、ダンジョンに潜み、その後、学園内を徘徊するクリムの行動の変化から、教員である可能性が一番高い。 父親がダンジョンキーパーなら、ダンジョンを歩き回れば、いつかは出会えるはずなのだ。


 教員なら該当者はかなり絞られた。


 しかし、1人1人に「クリムという幽霊少女的な娘がいますか?」と聞いて回るわけにはいかない。


 ……いや、別にいけないわけではないが……聞いて正直に答えるはずはない。


 ゲンゴロウさんの行方不明とタナカくんの重症。


 その事件の最重要容疑者がクリムだ。


 僕の証言から、クリムの父親は、自分の娘が仕出かした事だと重々に理解しているだろう。


 それを黙っているという事は、公言するつもりはないと同意。


 さて、どうしたものか? 僕は頭を悩ましていたが……


 「えぇ私がクリムの父親ですよ」


 最初に話した教員。実のところは相談の意味合いが強かったのだが……


 その人物は、あっさりと自分が父親だと言った。


 僕が唖然として絶句状態になってしまった。


 「生徒には秘密にしているだけで、今回の事件に私の娘が関わっている事は周知の事実ですからね。いまさら、とぼけるも違うかなぁ」と彼は―――クリムの父親は――――


 サンボル先生は答えた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 「そう言えば、オーク王との戦いでクリムと同じ魔法を使ってましたね。あれは先生がクリム……いえ、娘さんに教えたのですか?」


 クリムは対人用に大量の火球をばら撒く魔法。


 サンボル先生の魔法は、対魔物用に火力が高い。そのかわりに、連射力がクリムの魔法よりも落ちる。


 使用法はもちろん、見た目からして別物だったので2つが同じ魔法だという事にすら、今の今まで気がつかなかった。


 しかし、僕の質問にサンボル先生は首を横に振るのだった。


 「確かに、あの子は私の娘と言ってもいい存在です。しかし、血のつながりがあるわけでもなく、直接、会って話した事もないのですよ」


 「……え?」


 意味がわからなかった。


 世の中、血の繋がりのない親子は、いくらでもいる……と言ってしまうのは言い過ぎだが、それにしても――――


 血の繋がりがなく、会った事のない親子とは、一体?


 どういう関係性なんだ?


 そんな僕の疑問をサンボル先生は察したのか。


 話し始めた。クリムの秘密を。

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