第16話 断章取義な談笑?


 『さて……どこから話しましょうか?』


 光人間……あらため親ドラゴンは、空中をフワフワと浮かびながら、子ドラゴンの面倒を見ている。


 「えっと、別に説明はいいよ。子供を探していたってことでしょ?」


 『流石!この子の恩人! ヨイショ! ヨイショ!』


 「……」


 なんだろう? 神話生物、随分と世慣れてないか? 


 いや、『ヨイショ!』ってなんだ?


 そんな僕の内心を知ってか、知らずか、神話生物は話を続けてきた。


 『私、ほらドラゴンでしょ? 自分の住処っていうか、持ち場? 離れられなかったんですよ。体のサイズ的に他の階層を移動できないってもあるんですが…… ぶっちゃけラスボスなんですからね。このダンジョンの』


 「え? なんだか、現実感のない言葉をすごい軽々と言ってないか?」



 ラスボスと言うのは、寡聞にして知らない言葉だが、何か剣呑な雰囲気だけは伝わってきた。


 『まぁまぁ、御気にせずに。 だから、魔力の擬似的な体を――――今の体ですね。人間タイプの体。この子を探していたのですよ。たった30年足らずの時間でしたが、心配で心配で!』


 あーダメだ。 頭がパンクする。 現実感がなさ過ぎる。


 いや、子ドラゴンの年齢30以上なのか!? 年上!?


 ……落ち着け、落ち着くんだ、僕。 ここはチャンスだぞ。 一度のミスも許されない。


 この会話……選択肢を間違わなければ地上に生還できる! 


 慎重に―――― 慎重に―――― 選択肢を考えるんだ。



 「ドラゴンさん、ドラゴンさん」


 『どうしたのですか? そんな急に畏まって?』



 僕は拙い知識の中、中間管理職のイメージを自らの肉体で具現化させる。


 揉み手。 左右の手の平をすり合わせる。


 お辞儀。 必要以上に背を曲げず、相手に重苦しい印象を与えず、されど回数は多く。



 顔は過剰なほどの笑み。 下から上に角度をつけて、可能な限りの媚を演出する。


 肩は若干、強張りを感じさせ、お辞儀を続ける毎に背に丸みを与えていく。


 これが効かなければ……もう一段上がある。


 弱者だからこそ有す、圧倒的な威圧感を持って、意志を貫き通す秘儀――――


 『土下座』 


 その解禁すら視野に入れ、僕は交渉という戦いに挑む! 


 「もしも、もしもで宜しいのですが……」


 『はいはい、なんですか?』 


 「できればで良いのですが……地上に送ってくれませんか?」


 『え? え!?』



 予想外に驚かれた。 その驚きは、予想外と言うより想定外。


 『え』という発音が竜の咆哮によって物理的なエネルギーに転換され、ダンジョンの通路という狭い空間に豪風を出現させている。


 咄嗟に僕は、地面に伏せたまま状態でやり過ごそうとするも、その圧力に負けた体が浮かび……

 背後へ弾き飛ばされた!



 「……死ぬかと思った」


 『すいません!すいません! 気が動転してしまって!とんだ粗相を仕出かしてしまいました』


 「それで、なんで驚いたの?そんなにも?」


 『そりゃ、驚きますよ!無欲ですか?貴方は! ドラゴンの子供を救ったんですよ? 七つの石を集めて叶える願いクラスの要望OKですよ?』


 「そんな事言われても……」


 例えるなら、砂漠で生きるか死ぬかの脱水状態で、水をもらえるなら有り金全部……どころか借金しても構わないって状態であって、それを無欲と言われても……


 『ラスボスドラゴンが恩を返すって言ってるんですよ? 伝説作りましょうよ?』


 「伝説って? 例えば?」



 ――――本物の神話生物と出会い、予想外な事ばかりだったが。僕の質問に対してのドラゴンの返答こそ、最大の衝撃だった。



 『あなたに、ダンジョン攻略の恩賞を与えましょう』 




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