第2話 模擬戦 鎖対鎖の大激突


いつからだろう? なぜだかわからない。


 僕がシュット学園に入ってから6年間、彼は――――オム・オントは僕の事を嫌っていた。


 僕は蛇やサソリの如く嫌われていたのだ。


 だから、先生へ直訴したのだ。最後の模擬戦闘が行われる授業で戦わせてくれるように……


 「オム・オントくんと最後に戦わせてください」


 どうして、そんな事を言ったのか? 自分でもよくわからない。


 嫌われているから戦いたい? 無茶苦茶だ。


 何年も我慢していたんだ。残り1年だ……あと1年で卒業だ。


 それでいいじゃないか? 一体、どうして僕は彼と戦いたい思ったのか?


 何か……こう……決着をつけたかったのかもしれない。

 自分の中での決着を…… 




 サンボル先生は、僕の気持ちを、どう解釈したのかわからない。


 いとも簡単に、あっさりと、二つ返事で返ってきた。



 「構いませんよ。それじゃ最後の校内戦闘訓練は鎖術の練習ですから、しっかりと予習をしてくるように」


 

 それが2週間前の話。


 

 「さあ、サクラくん、こちらへ速く。速く」



 先生の声で、僕は正気に戻った。


 渡された鎖を片腕に――――何重にもして巻き付ける。


 『鎖術』


 鎖術と言うのは、その名前の通りに鎖を武器にして戦う技だ。


 僕は腕に鎖を巻き終えた。


 鎖を巻き付けた片腕を盾にして、もう一本の手で鎖を回す。


 ジャラジャラと金属音が徐々に————


 ふおぉん ふおぉん ふおぉん


 回転数が増えると音が変わった。唸るような音だ。


 高速で回転させた鎖は、接近戦では鈍器のような破壊力になり、また距離が離れた相手にも投擲による攻撃が可能だ。


 毎日練習した。 毎日……毎日だ。


 「へぇ~」と呟きが聞こえた。その声の主、オントへ目を向ける。


 冷たい目だった。嫌悪感がにじみ出ているように見える。



 「それなりに努力はしたみたいだな……けれどもな、サクラ……俺は認めない」


 「……なに…を?」


 「俺はお前の努力を認めない。お前が俺に勝ったとしても認めない。お前の努力は無駄な努力だ」


 「―――――ッ!」


 僕は言葉に詰まった。 彼の冷たい目には、侮辱が含まれていた。


 「はいはい、そこまで。オントくんもサクラくんも熱くならないで。あくまで模擬戦ですよ」


 サンボル先生が間に割って入ってきた。 


 そのまま「はい、それじゃ、始めますよ」と開始の合図を――――


 「え?あっ!」


 「ちょっと、ま……」



 僕とオントは、互いに構える間もなく――――



 「はじめ!」



 試合開始を宣言された。



 じりっ―――― じりっ――――



 オントは少しづつ、距離を詰めてくる。


 威圧感。


 すさまじい威圧感が僕を襲う。


 下がりたい。けど、下がると同時に一気に距離を詰められてパワー勝負に移行させられる。


 そうなったら、僕に勝ち目はない。


 なんせ、オントは魔物を素手で抑えて、捕縛する事が出来る。そういう腕力の持ち主だ。


 ゆっくりと時間が過ぎていく。我慢比べの戦い。まるで無限に続く時間の中にいるみたいだ。


 しかし、時間は有限。僕とオントの間合いは――――互いに攻撃が可能な間合いに入った。


 ファーストコンタクト。


 先に動くのは当然———— オントの方。


 上から下へ。まるで袈裟切りのように鎖を振るう。


 剛腕


 全てが込められているような一撃。


 基本は、できるだけ最小の動きで避け、カウンターを狙う。


 けれども、僕は、その基本に逆らった。


 オントから見て右側———— 左へ大きく逃げる。


 オントの一撃は空振り、鎖は地面に叩き付けられた。


 その衝撃はすさまじい。砂が舞い上がり、石礫いしつぶてが周囲に飛び散る。


 舞い上がる砂煙を切り裂いて、僕に向かって飛来してくる物体がある。


 オントの鎖だ。



 (読まれた!?)



 地面へ着弾と同時に手首のスナップを効かせ、逃げる僕の動きに合わせるよう、鎖を操ったのだ。


 横薙ぎの一撃。それを僕は、右腕で防ぐ。



 けど―———



 「————痛っ!?」


 ダメージを軽減する事はできたが…… それでも痛みに襲われる。


 大きく横に飛んでいたから防げた。もしも、セオリー通りにカウンターを狙っていたら……

 それで終わっていたかもしれない。


 僕は、さらに横へ飛んで間合いを広げた。追撃は来ない。


 オントは、小首をかしげて不思議そうな表情を浮かべていたのだ。


 たぶん、他のクラスメイト達―――中でも鎖術が得意な生徒たちも、さっきの攻防に違和感があったらしく、小さなざわめきが起きた。


 でも、僕の作戦に正確に気がついた人物は、近くにいて、戦いを客観的に見えるサンボル先生しかいなかったみたいだ。


 

   

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