超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』

チョーカー

第1話 剣と魔法とダンジョンの世界へようこそ!

 これは、剣と魔法――――


 そして『ダンジョン』のある世界の話。



 ここは、ベーシカル大陸。 


 現在、確認されている3つの大陸の中で、最も広大で、最も未知が残る場所で――――

 それから、最も多くのダンジョンが存在している場所だ。


 人間を襲う存在―――


 『魔物』モンスター


 彼らはダンジョンの奥深くに生まれ、時としてダンジョンから地上へ――――人間に牙を向ける。


 曰く神話の時代。天空の戦争に敗れた神々の一部が、地下の奥深くへ逃げ込み、今も天空へ返り咲こうと目論んでいる。 魔物は、堕天した神々から送られてくる先兵ではないか?


 そんな話もある。しかし、事実はわからない。


 ベーシカル大陸に存在が認められているダンジョンの数は1000を超える。


 しかし――――しかしながらだ。今だに誰もダンジョンの最深部にたどり着いた者は存在しないのだから……




 ここはベーシカル大陸にある国の1つ。


 『シュット』


 この国では6歳を迎えた子供は15歳になるまで学校へ通う。


 貴族の子供も、農民の子供も、平等に教育を受ける事になる。


 この学校で、ダンジョンの潜り方と魔物との戦い方を学ぶのだ。……もちろん、生活に必要な知識も。


 シュットはベーシカル大陸にある国々の内、ダンジョンの数の多い国だ。


 他の国からは迷宮特別国家とも呼ばれている。


 ダンジョンには宝の山だ。と言うと語弊があるかもしれない。


 何も、本物の金銀財宝が眠っているわけではない。


 それ以上の価値が眠っているからだ。


 ダンジョン内でしか生息不可能な生物(魔物とは別の生き物と認定されている)。


 ダンジョン内でしか採取不可能な草木。


 不可思議な性質を持つ未知の鉱物に、大古に滅んだ文明が残した不可解な機械。


 国家戦略として、ダンジョン探索の知識と能力を全ての国民に浸透させるのは当然の流れだった。



 そして、ここは『シュット学園』


 僕――――

 トーア・サクラの通う学校だ。


 

 「それじゃ、みんな手を止めて。全員集まりなさい」


 サンボル先生がやる気のない声を出した。


 クラスメイトたちは、全員が走ってサンボル先生の周りに集まる。


 その中に僕はいた。これから起きる事を考えると緊張で足が止まりそうになる。

 でも――――


 サンボル先生は「それじゃ座って」と全員を座らせた。


 「えっと、いよいよ明日は、15才直前の皆さんのためにダンジョンでの実戦訓練が始まります。今まで訓練とは違って、実戦を想定した魔物相手の訓練となります。場合によっては命を失う事になりかねません」



 サンボル先生の言葉は、飄々としていて、どこか白々しい感じを出していたが……


 それでも僕らは、真剣だった。 明日からは、本当に命がけの授業に変わっていく。


 だからこそ、僕は――――


 「それでは、今日が最後の模擬戦闘になります。えっと……まず一組目の組み合わせは……


 オムくん。オム・オントくん」


 「はい」と勢いよく彼は立ち上がった。


 彼はサンボル先生よりも背が高い――――いや、サンボル先生だけではなく、彼よりも背の高い大人を見た事はない。巨躯と恵まれた体。決して肥満ではなく、手足といった四肢が長くバランスの良い体。


 バランスが良いのは体だけではない。顔も整っている。何よりも彼は貴族の息子だ。


 それもダンジョン貴族。 探索者を生業として、財産を作り、貴族としての権力を認められた一族だ。


 オント本人も、幼い頃から家族と共にダンジョンに潜り、ダンジョンを探索する術を叩き込まれている。


 一般家庭で育った僕とは、才能の実力も、まるで違う。


 そんな彼は、不思議そうな顔でサンボル先生を見ている。


 普段の模擬戦闘なら、対戦する者が同時に呼ばれる。しかし、サンボル先生はオントを呼んだだけで、もう1人を呼ぶ様子がないからだ。


 ついにオントは「先生?」と疑問を声にした。するとサンボル先生は……



 「ん?なんですか?あぁ、対戦相手ですね。これは先生もうっかりしてました。なんせ、この対決は、貴方と対戦したいという相手からの希望なんで、つい……オントくんと呼んで、先生のお役目を終了と勘違いしてました」


 「……希望?ですか?」とオント。


 次の瞬間、オントは鋭い視線を僕に向けた。


 「そうです。この戦いはサクラくん希望です。さぁ、サクラくん立ちなさい」


 僕は立ち上がった。


 明日からダンジョンでの実戦訓練が始まる。こうやって、校庭での戦闘訓練は、今日が最後。


 だから、僕は……オントとの決闘を先生に直訴したのだった。


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