友人を訪ねて 古馴染との再会

「ついたでごわすな!」

「ついたー!」

「ついたな」


 列車から降りて、三人でヘルパッカの街の駅前広場に立ちそれぞれ口にする。


「さて、千堂どんはどこにいるか、勿論知ってるでごわすよね」

「さっぱりわからん」

「「ええっ!?」」


 俺の一言に、二人で飛び上がり目を見開き驚く、まあこれは事実だ、俺は通信魔法水晶等は持ち合わせていない、たとえ持っていたとしても繋げたい先が判らねば連絡を取れる訳がない、手紙を出そうにもただ、ヘルパッカにいるという事しか知らないのでは出しようも無い、だがな。


「当てはあるよ、この雑誌だ」

「あ、マルコおにーさんのお馬の本」

「ほら、このページに千堂の特集記事が組まれている、それと取材者の名前も一緒に載ってるだろう、この雑誌の出版元でこの取材者に当たってみよう」


 リュックサックから雑誌を取り出し二人に見せてやれば、先にそっちを見せて欲しかったと、本気で肝が冷えたと怒られた、まだ暑い日も続くのだから少しくらいならいいではないか、だがまぁ出版元を尋ねる前に宿屋かな、急がないとおそらくだが。


「ここも満室でごわす」

「こっちも当たったがダメだった」

「何処も空いてないねー」


 やはりか……もうそろ菊花賞の時期である、そしてそうじゃなくても連日行われるレースを見に来た客でこのヘルパッカの街の宿の空きを探すのは中々に難しく二手に

別れて宿を探していたが、見つからず。


「千堂に会うのは諦めて、菊花賞の会場の方の宿を探しに列車に乗るかね」

「えー、おとさんのお友達に会えないのー」

「むぅ、おいどんは諦めるのは嫌でごわす! もう少し探すでごわす」


 さすがに宿を取らずに千堂を探すのはしたくない、千堂は女だエルだけ泊めて貰い俺は飯屋で一晩を明かすでもいいが、ここ等辺の飯屋はあまりなぁ。

 キドンは千堂を探したい気持ちも強いが為、諦めずに別の宿屋へと交渉に行く。

こういう粘り強く諦めの悪い所は山人族の良い所であり悪い所と言える。

ぶっちゃけ、話は面白いが一緒に旅をするには融通が利かなすぎる種族だ。


「おっちゃん、そこのでっかいおっちゃんだよ」

「俺の事を呼んだのか? それと俺は32だ、おっちゃんなど呼ばれる歳じゃない」

「そそ、山人のおっちゃんとちっこいのとで宿探し、お困りっぽいんだろ、っと

こりゃ失礼、大人物の風格が漂っていたもので、年相応に見えなくてね」

「おべっかが美味いな、まぁ誤魔化されてやる、で、何の用だ?」


 どたどたと大股で走っていくキドンを見送っていると背中から声が掛けられる。

声をかけて来たのは少年と言って差し支えない程の背丈をした栗毛の子供であった。

とりあえず、おっちゃん呼びだけは訂正させる、そうだ俺はまだ若い、確かに他の者と比べたら老けて見えるかもしれんが、まだ32なんだ、そうなんだ。

 そこは置いといて。そんな俺に声をかけたのは何なのだと少年を俺は問いただす。


「営業ってやつだよ、俺の親戚が宿やっててさ、部屋は広くないけど飯は美味いぜ、甥の俺が保証するよ」


 栗毛の少年の言葉はまさしく俺達がもっとも欲しい情報で会った。

丁度キドンも戻って来て宿が取れず万策尽きたという顔をしてる所にエルが先ほどの少年の言った事を説明すれば。


「本当でごわすか少年! 清孝どん、これはもう縁と言うやつでごわすよ!」


 少年を前と後ろに揺らしその真意を尋ねる、さすがに大きく揺さぶられたのに不満を抱いた少年は器用にキドンに掴まれているのから抜け出して文句を言い始める。

キドンはそれに謝罪をしながら、今度は俺に詰め寄ってくる、顔が近い、山人は髭もあって顔が濃いんだからあまり近づいてくると暑苦しくてたまらん。


「そうだな、少年、名前をそして宿まで案内を頼む」

「応、俺の名前はサイラスって言うんだ、そんじゃついてきてよ」


 キドンから距離を取り、少年改めサイラスに名前を尋ね案内をさせる、4人連れ立って裏路地に入っていく、裏路地といっても陰鬱な雰囲気は無く、どこか郷愁の念を抱かせる懐かしさを感じる細道だ、そうしてそこにはあまり大きくは無いが小さいと言う訳でも無い、二階建ての建物、これがサイラスの言う宿だそうだ。

とりあえず入るとするか。


「失礼する」

「おばちゃん、客連れて来たぜ、大人二人、子供一人だ」

「あら? いらっしゃいませ……まぁ、清孝君」

「貴方は……ローラさん……ですか? その、お久しぶりです」

「ええそうよ本当久しぶりねぇ、13年程前かしら、大きくなって」

「おとさんのお知り合い?」

「ああ、とっても昔のな……その、ずっと顔を出せずに申し訳ございません」

「気にしなくていいのよ、また会えて嬉しいし、歓迎するわ、守護英雄様」

「あの、その呼び名はご遠慮頂きたく」

「あらそう? あの時の子が立派になって、おばさんとっても誇らしいのに」


 宿の玄関を開け入ってみればそこにはとても懐かしい顔があった、あの頃よりやや痩せた感じがするが優しそうな双眸と手入れが行き届いた綺麗な金髪は変わらない。

彼女はローラさん、もう13年前になる魔獣騒動の頃、彼女の夫であるロレンスさんにはこの地の魔獣についての沢山の情報を貰ったし、家にもよく招かれ一緒に食事をした事だってある、その時にローラさんと会っている。


 ただロレンスさんは魔獣の数が減ったと思って油断していた春先に熊の魔獣に襲われて命を落としてしまった。俺が油断せずに対処していれば失われる筈はなかった。その負い目もあり俺は彼女に顔を出さず別の戦地に転戦した。そして今日までずっと会わずにいた。まずはその事を謝れば、ローラさんはかつてと変わらない優しい笑みで俺を歓迎してくれた。ただ呼び名だけは頂けない、昔のように呼んで欲しい。


「清孝どんの知り合いでごわすか、おいどんは山人族のキドン言うでごわす、宿を貸して頂く事、感謝するでごわす」

「ありがとーございます! エルはエルです! おとさんと一緒に旅してます」

「お二人は清孝君のお友達と娘さんかしら、ゆっくりしていってね」


 俺に続いて、泊めて貰う礼をするキドンとエル、ローラさんはキドンが山人族だと聞くと髭と体躯を褒める、山人族の男にとってそれらへの言葉は最上の賞賛になるんだったか、ローラさんはその文化を知ってたのだろうか、エルに対しても俺と一緒に旅をしてる事を褒めれば、珍しくもじもじと照れくさそうにする、ふむ、可愛い。


「サイラスはローラさんのご親戚と聞きましたよ? そのご親戚の方は?」

「弟嫁は弟をしまってね、それで私が引き取って育てているのよ」

「ああ……お悔やみを申し上げます」

「ありがとうね、っさ、旅でお疲れでしょう、お部屋に案内しますね」


 俺はサイラスの事をローラさんに聞いてみる。ロレンスもローラさんと同じ金髪をしていたと記憶している、それに魔獣騒動で夫を亡くしているので再婚していなければ実子ではないだろう、事実親戚と彼自身が語っていた。そして聞いたことをすぐに後悔した。


 ローラさんの言った追ってとは所謂、後追い自殺の事だ。最近の新聞の一面を飾る情報でも後追い自殺についての情報はかなり出ている。

 死した先で会いまた一緒になりたいと思えるほど愛しているという気持ちが分からないが為、強くは言えないが、残された子供達が可哀想では無いかとは思う。

こうして家族がいる者は引き取られるが、そうじゃない子供は苦難の日々を送る事になるのだろうか……どうにかしたいが、俺一人では無理か。


 そんな事に思いふけっていれば部屋の前につき、カギを渡されるので開けて入る。

特に何か特別な物は無いな、もともとは普通の二世帯住宅であったようで。

それを少し手直しして部屋こそ少ないながらに人を泊めれる施設にしたんだとか。

とりあえず、リュックサック等は置いて行って、キドンとエルに時間もある事なので千堂を探しに行く事を伝えると、二人も荷物を部屋の隅に置いて俺についてくる。


「さて、すぐに会えるといいんだが」

「早く会いたいでごわすなー」

「会いたいでごわすなー」


……口調移ってるぞエル。まぁいい、出発だ。

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