観光、音楽の街①

 音楽の街につき宿を借りて一日、よく寝たな、時間は……まだ8時か。

うん……!? 


「エルがいないな」


 一緒に寝ていたはずのエルがいなかった、いつのまに部屋から出てた?

外には出ないようにとは言ってたから慌てる必要も無いか。

ズボンとシャツよしっと送魔機をもって、顔洗って髭も剃ってと。


「あ、おとさんだ」

「おっはー、きよく~ん」

「おはよう、清孝君」


 ドアを開けば、下のテーブルで青山と緑谷と一緒にいたのだった。

各々挨拶をしてくるので返しながら同じようにテーブルの方に歩く。


「二人とも早いな」

「ええ、朝から白石君が練習だって」

「今は朝ご飯休憩、つるちゃんとわしくん、それとカロさんが買い出しー」

「俺も行くか、エルを頼む」

「あ、それならついでだから二人の分も買ってくるって白石君が言ってたわ」

「そうか、なら待つ」


 この店では飯は出していない、数年前爺さんの代では出していたが。

デリンは指がああなっているので人様に出せるような飯はなと作っていないそうだ。

その分宿代は相場よりもかなり安くしているので、それ目当てで止まっている客で経営はそれほど傾いてはいないと聞いている。


「たっだいまー、あ、おはようエルちゃん! 清孝君!」

「おっはー、つるねぇ、白石おにーさんとカロおねーさん」

「ああ、おはよう、よく寝れたか? これ今日の朝飯買ってきたから」

「話は聞いてる、代金は」

「っふ、遠慮はいらねぇってなもんですぜ旦那ぁ!」

「なんだその口調は、馬鹿鶴」

「昨日の晩御飯のお礼にどうぞって意味です」

「そうか、ならありがたく」


 しばらくすると袋を手に持った三人が戻ってくる。

袋の中身は食パンとシーザーサラダか、きっちり人数分。


「このサラダおいしいね、このソースがすっごい美味い!」

「ちなみにこの世界でこのサラダはウランサラダと言うぞ」

「ウランさんが作ったからか?」

「ウランでもメタンでも、美味しければいいよ~」

「ね~」

「なるほど、それはわかる」

 

 白石の雑学を青山とエルはそんな一言で一蹴する、まぁ美味けりゃ誰が作ったか

は食ってる方としてはどうでもいいという奴か。

 どこのどなたか知らないが、この世界でも同じような事考える奴がいるんだな。

電気の代わりに魔力を使うだけで魔動製品もそうだしな。


「御馳走様、お前ら、今日はどうするんだ?」

「勿論練習だ」

「「異議あり!」」

「我々は~断固として~休息を要求します!」

「そーだそーだぁ」

「日々、練習では気の張りすぎできっと本番で力が抜けます!」

「うんうん」

「なので、本番までお休みを要求します」

「却下だ却下」

「「えぇ~!」」

「白石君……」


 赤川と青山が白石に向けて、お休みお休みとぶーたれ始める。

白石は却下としか言わず首を縦に振らない、それに緑谷もやっぱりと言った感じ

朝から騒がしい奴らだ。


「おめーら、朝から騒がしいぞ、まだ寝てる客もいるからな」

「あっ、つるりん、つるりんからもこの鬼畜白メッシュに言ってやってよ!」

「俺は少しでも本番の演奏がいい物になるように練習しようって言ってるんだよ」

「でも、折角のお祭りだよ、わしくんもカロさんとデートとかしなよ」

「…………今日の昼までは練習、その後は二日目の夕飯まで自由時間だ」

「いぇ~い! やった! 大勝利ィ!」

「うぇ~い」

「騒ぐなっつの」

「すみません、デリンさん」

「燕の嬢ちゃんも大変だな」


 青山の一言にちらと白石がカロネーヴァさんを見てから折れた。

デートしたいんだな……アオハルだな。

 騒ぐ赤川と青山を叱るデリンに緑谷が謝る。向こうの世界でもこんな感じだったな

赤川と青山がはしゃいでどたばたしてそれを緑谷と白石が支えたり抑えたりする。

いかんな、歳を食ったせいか何でも昔の事に結び付ける。


「エル、祭り見に行くか?」

「うん、見に行くー!」

「というわけだ、夕飯には戻ってくるよ」

「おう、ショッセン楽しんで来いよ」


 デリンの一言を受けてから宿の扉を開きエルと外へ行くことにする。

白石はそうと決まれば、時間が無い代わりに少しでも密な練習にするぞと3人に指示を出し始める、カロネーヴァさんは4人の練習を見学だそうだ。

 ちなみに演奏の練習は防音魔法を使う事が義務付けられている。

空間に入らない限り、そこからの空間からは音が漏れないという魔法だ。

魔法、俺も使ってみたいなぁ、っとと、無いものねだりほど悲しい物はないか。


 さて、外に出てみたは良いが、まだ朝も8時……さっきのくだりを見てる間に9時か、何かやってるものなのかね、エルにどこへ行くと聞けば、どこでもいいというのでぶらぶらと歩いてみる。そうして大通りに出てみれば既に何人かのバンドが楽器を用意して路上ライブをしようと構えていた。


「朝から賑やかだな」

「うん? 守護英雄様! どうもです、ショッセンは初めてで?」

「ああ街中はな、祭りだからか人が多いな」

「あっちこっちで、じゃかじゃか、べんべん言ってるー」


 俺を見て、ひとりの男が声をかけてくるので少し話を聞いてみる。

祭りがあるから人が多いという訳でもなく男が言うにはショッセンはいつもこんな感じらしい、ただ音楽祭りも相まって今は更に人が集まっているとか。


「向こうの方に音楽祭りにだけ出来る特設会場があってあそこで演奏するのは演奏家にとって一つの成功」

「ほほう」

「今年は大物が出るって聞いてるから、街ぐるみでワクワクしてるよ」

「さぎねぇたちとしらいしおにーさんの事かな?」

「かもしれんな」


 男にお互い祭りを楽しもうとそういって別れる。ふむ特設会場が気になるな見に行ってみるか。エルはいちいち演奏をする者達の前に止まるので大変だ。


「エル、行くぞ」

「もうちょっと、この人達とっても綺麗な演奏だよ、おとさん」

「あら、ありがとね、もしかして後ろの人は守護英雄様かしら?」

「ああそうだ」

「おねーさん、もう一回、もう一回最初から演奏してー」

「はぁ……悪いがもう一曲いいか?」

「悪い事なんて一つもございません、それでは英雄の娘様の為にもう一曲」


 エルが立ち止まったのは女性の音楽家達だった、サックス? ジャズか?

エルが曲をせがむので頼んでもう一曲披露してもらう事に。

エルが言うように確かに綺麗な曲だった、と言っても、俺は音楽に疎いが。

なんていうのかな、女性らしい柔らかい感じの曲? そんな感じだ。


「ふわふわーって綺麗な演奏だったね、おとさん」

「ああ……これは礼だ、いい演奏だった」

「英雄様にそういわれますと光栄でございます、これからもどうか応援のほどを」

「頑張ってね、おねーさん!」


 俺は演奏してくれた女性に幾らかの礼としてジルを握らせた。

旅をするにあたって、現金以外扱えない場所もあるかもしれないと思い幾らか忍ばせておいてある、チップを渡せば深々と礼をしてくる。

いつのまにか周りにも人が集まっており、その人たちも一様に拍手や声援をかける。

これがショッセンの街か、心地よい音色が歩いてるだけで聞ける、中々悪くないな。

さてと、このまま歩けば特設会場かな?


「ここか、でかいな」

「うわー、でっかい魔法水晶があるよ、おとさん」

「形状と色からして照明の魔法水晶か」

「おや? 守護英雄様では、何かご用事で?」

「いや、娘と観光だ」

「左様でしたか」


 特設会場へと来てみれば、立派なステージがそこには出来ていた。

天井もあり、頑丈そうな組み立て、どでかい魔法水晶もついている。

そんな会場に驚いていると少し恰幅のいい男が声をかけてくる。この会場の設営関係者の一人だとかいつもの如く俺の事は知ってる風だ。

このステージについて聞いてみれば女神の勇者の受け売りをショッセンの街の技術者がアレンジした会場らしい、前までは天井とかは無く、ただちょっとした高台だけという感じだったのが、ここ数年でこの形になったと。

西遊記といい、俺のあずかり知らぬところで向こうの世界の知恵に知識、文化などがこの世界にも反映されているものだな。


「おとさん、お腹空いたー」

「おっと、もうそんな時間か、話を聞かせてくれてありがとう、失礼する」

「はい、守護英雄様もどうか音楽祭り、お楽しみください」


 エルのいつものお腹空いたが始まったので話を切り上げお昼にする事に。

その後は路上のライブを聞いて回ったり、特設会場のライブが始まるとそちらも見に行ってみたり、有意義な観光をするのであった。

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