第7章 -26『戦前交渉』
骨で組まれた魚が、苛立つ〈オルカ〉を引き付ける。
群がって飛び掛かるも攻撃らしい攻撃はしないため、すぐに破壊される。しかし、すぐに復活する。死なない群れを相手にし、〈オルカ〉はスピードを発揮することもできず、ひたすらそこに留め置かれる。
「詳しく尋ねる余裕はない。
目的と手段だけを聞こう。それで協力か敵対かを決める」
レオンは、骨の壁から見下ろすふたりの王位種、
レックスの前例がある今、王位種だからと無闇に敵視することはない。それは逆も然り。単に、他人を手放しで信用することがないのがレオンという男だった。
「では手短に。御神織火を一時的に封印します。
これ以上の巨魚化を防げて、攻撃して意識を奪うより損傷も減ります」
「そうする意味は?」
「あのマクスウェルは私たち王位種にとっても敵だということです。
打倒のために、御神織火の持つ稀有な才能は不可欠となる」
「・・・・・・・・・」
聞きたいことが消えたわけではない。
しかしレオンは副隊長として、この場における目的を果たすことを第一とした。
水上に降りて再び応急処置を受けるリネットを見る。
リネットは、どこか確信のある目線を返した。
レオンは銃口を下ろし、一度だけ強く確認する。
「手段には頼るが、作戦の指揮権はこちらだ。
あらゆる実行にはグランフリート戦隊の承認を得てもらうぞ」
「フフフ、なるほど。良いでしょう」
その光は徐々に水晶へと移り、レーダーのように周囲に一瞬広がった。
通過した光はそのまま消えたが、〈オルカ〉の背中にはひとつ、ポイントのように残留するものがあった。
「見つけた」
「あれは?」
「肉体が巨魚になった以上、その仕組みは巨魚と同じものです。
パルスの放出を司っているコアがどこかに必ずある」
「パルス器官か・・・!」
「コアに私たち王位種の『命令』を流し込みます。
複数の命令が同時に入力された場合、内乱防止のためにその個体は停止する」
王位種の指揮命令の仕組みは、敵対するならば重要な情報のはずだ。
信用のためにあえて話していることを、レオンは薄っすらと察した。
「・・・オルカの精神に影響はないんだろうな」
「正直申し上げて、全くの肯定はできかねます。
ですが・・・少なくとも、このまま放置するより致命的ではないかと」
「選択の余地はないか」
「他の王位種も、周囲を片付けたら合流します。
それまでに、あなた方には・・・彼の動きをどうにか止めて頂けないでしょうか。
なるべく同じ地点に力を集める必要があります」
「なるほど」
それはつまり、実行の前に必ず囲まれる瞬間があるという意味だ。
さすがに、そのままイエスは出せない。
「こちらの安全保障をしてもらいたい。
この判断が君の独断だった場合、他のメンバーの独断で攻撃される可能性はある」
「実に聡明。確かにそれはその通りです。
ですが、ううん、そうですね・・・」
すると、傍らに浮かぶ水晶のひとつが銀色に明滅した。
『
「かしこまりました」
銀色に光る水晶が、レオンに接近する。
そこから、
「貴兄が将か?」
「将と呼び習わす立場ではない。単なる指揮権限保有者だ」
「失敬した。では、指揮者殿と。
害意なき証とは、具体的には如何なる形か?」
「そうだな・・・可能ならば王位種をひとり戦闘に参加させよと言いたい。
しかし、全体でかからなければ封印はできないということだな?」
「その通りだ。我らの守護者の力、束ねなければ封じることかなわぬ」
「・・・守護者・・・もしや、〈ガーディアン〉か?」
「いかにも。我ら王の力の源は総て幻影たる守護者だ」
レオンの脳裏に、
輝く半透明の巨魚。王位種はこれを体内に召喚することで戦闘能力を激増する。
そして、もうひとつの映像。
「なるほど、ではひとつだけ提案がある」
「聞こう」
「レックスに〈ガーディアン〉を返却しろ。
そうすれば、実質的にこちらに王位種がひとり手に入る。
作戦に支障もないだろう」
しかし、何か逡巡の気配を感じることができる。
「それは・・・・・・・・・できない」
「何故だ?」
「いや、正確な物言いをしよう。
返却し得るものがあるとして、それは〈ガーディアン〉ではないのだ」
「・・・意味が分からないな。この場で謎かけなどナンセンスだ。
ハッキリと結論を話せ」
「良いか?」
『———チ・・・いつまでも隠せねえか。仕方ねえ』
「・・・レックス?後ろにいるのか?」
「意味を理解せずとも責めぬ。事実を述べるぞ」
「貴兄らの前に現れたこのレックスは・・・本体ではない。
〈ガーディアン〉なのだ」
≪続≫
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