気付かないもんは気付かない
「待たせて悪かったな」
「…いや、大丈夫」
夕勤終了時刻22時すぎ、真奈美は昨日振られたまさにその場所に戸川と2人で座っていた。
驚きすぎて固まっていた真奈美に『とりあえず他の客も来るから、聞きたいことはバイト後に聞くから時間ある?』と戸川は声をかけこうしてバイト終わりに会うことになったのだが…
「…」
「…」
「…(とてつもなく気まずい)」
話の切り出し方を見つけられずにいた。
そもそも戸川とは同じクラスとはいえ、会話したことはほとんどない。また行事関係になるとクラスの中心メンバーにいる事が多く活発的な真奈美に対して、戸川は基本的に教室の隅の方にいて静かに過ごしている真面目という地味メガネタイプである。まさに正反対の2人なのだ。
「あっ、ねぇなんでメガネかけてないの?」
「接客業だからね。いちいち拭くのも面倒だし」
「なるほどねー。メガネない方がいいじゃん」
「そう?」
なんだったらメガネない方がかっこいい。とはさすがに言えなかった。でもなんとか会話はできた。この調子なら聞ける。
「…あの、ところでさ」
「ねぇ、西野ってこの近所に住んでるの?」
「へっ?あぁ、うん。すぐそこのマンションだよ。」
先に会話の主導権を取ったのは戸川だった。
「やっぱりそうなんだ。制服姿で毎回来るから多分そうなんだろうなとは思ったけど」
「戸川は?なんでここでバイトしてんの?」
「俺も家こっちの方だから」
「え、まじで。1回も遭遇したこと無かった」
「俺帰宅部だし、西野が帰る頃にはバイト中。家の場所的にも隣町の小中学校に通う方が近かったからね」
「あーね、そりゃ会わないわ」
「ていうか、俺は毎回毎回コンビニで見てたんですけど。どんだけ眼中になかったのお前」
「あ…いやー…あはは…」
なんだか申し訳ない気分になってきた。いや、悪気があった訳では無いけども。だってメガネかけてないし。と、言い訳を考えてみたものの実際佐久間さんしか眼中になかったのが事実だ。何も言えない。
「えっと、戸川っていつからバイトしてるの」
「去年の秋ぐらいから」
「へー…えっ」
半年も気づいてなかったとは、もはや馬鹿なのではないだろうか。
「ほんとに佐久間さんしか眼中になかったもんな。俺がレジいても一直線に佐久間さんのレジだし、いなかったら来るまで待つし」
第三者から改めて自分の行動を聞かされるものほど恥ずかしいものはないと思う。今すぐやめろ、と言いたかったが恥ずかしさで真っ赤になってしまい言えない。そして戸川の口も止まらない。
「あんなにわかりやすいやつ見たことねーよ。佐久間さんもとっくに気づいてたし、毎回毎回飴を買うから"あめちゃん"ってあだ名付けてたし」
「あめちゃん!?」
何その可愛いあだ名は!キュンとした!と心の中で叫んだ。
「まあそんだけわかりやすいJKが毎回毎回来るもんだからいつ告白するんだと思ったら昨日だもんな。しかもシフト終わりに」
「…当然昨日は戸川も」
「シフト。帰りにすげー邪魔だった。」
「人の一世一代の告白を邪魔って言うなよ。すいませんでした」
「わかればよろしい」
やっぱり見られてたのか、そして邪魔と言われた。邪魔かぁ…
「やっぱり迷惑だったよね…」
「告白自体は喜んでたぞ。ていうか人の精一杯の気持ちを蔑ろにするような人じゃないだろあの人は」
「…確かに」
呆れたようにいう戸川の横で、真奈美は昨日の事を思い出していた。佐久間は確かに優しい顔をしてた。そして優しい言葉で振ってくれた。
「んで、昨日振られた西野さんはわんわん泣いてでも諦められなくて今日も来たと」
「そんな言い方しなくても」
「図星だろ?」
「いや…それが…」
口ごもる真奈美に戸川がなんだよ?と顔を覗き込む。そもそも戸川と恋バナ(?)しているこの状況が異例なのだが、このモヤモヤ言おうか言うまいか悩んでた。
「…あーもう言っていいか!」
「何を?」
「あのさ、私さ、1年も通うほど好きだったの」
「うん、知ってる」
「で、昨日告白してさ、玉砕したじゃん」
「そんで泣いて」
「いや…泣かなかったんだよね」
「…えっ?」
口に出してみて、少しだけ寂しいと思った。
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