12歳の神さま
宮森 篠
第1話 だって神さまだもん
バイトを終えると終電ギリギリだった。
今日はとことんついてない。携帯のアラームは電池切れで鳴らずバイトに遅れ、客からはイチャモンをつけられ、憧れの先輩は風邪で休みだった。飲食店のバイトなんてもう選んでやるもんか。
そう思いながらまだまだ眩しい人口の光の中走っていると、小さな女の子が視界に入った。なんでこんな時間に?
そう感じるも、構っていられるほど俺は余裕があるわけじゃない。それではさようなら、と横を通り過ぎようとした時腕を掴まれた。
「ダメだよ、お兄ちゃん」
黒い髪を左右、耳の少し上でまとめ上げた幼い女の子だ。そのわりには力強い。
「えーっと、誰かな。君は」
「私? 私はね、ハルだよ。お兄ちゃんの神さまだよ」
それはそれは可愛らしい笑みで電波なことを言う女の子。これは関わってはいけない、そう思い手を振りほどくと女の子──ハルと名乗るその子──は特に驚くことなくニッコリしていた。
「お兄ちゃん、今日は違う道を帰らなきゃダメだよ。このまま進むとすぐ死んじゃうよ」
「は、はぁ? なんでそんな事言われなきゃいけないんだよ」
「だってハル、神さまだもん」
ぞくり。表情はニコニコとしているのに投げかけられた声は凍えそうなほどに冷たかった。その反比例した存在に心臓が掴まれたような気持ちになる。
やっぱりきょうは厄日だ。そうに違いない。なんだって知らない女の子に死亡宣告なんてされなきゃいけないんだ。
「うわ、時間!」
目の前の厄日よりいまは目の前に迫った終電だと止めていた足を動かす。明日の朝は友達と約束があって早いんだ。
ふと、ついさっき投げかけられた言葉を思い出し、タクシーを捕まえて帰ろうかと思ったがアホらしいと頭をふる。一度振り返ってみるとそこには既に女の子はいなかった。
「危ない!!」
さっきのはイタズラだったのだと自分に言い聞かせて前を向き直すと胸に衝撃が走った。
一瞬だけ冷たくて、でも本当にそれは一瞬で。
家庭にもよくある包丁がなぜが俺の胸に堂々と突き刺さっていた。
激痛に倒れこむ直前、少し遠くであの女の子がガラス玉のような目で笑っていた。
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───
「”今回は“カップルの痴話喧嘩に巻き込まれて死んじゃったね、お兄ちゃん。だから言ったのに。……まあいいや。次は生きれるといいね、お兄ちゃん」
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