第零話 異世界ハクスラはキャラメイキングから・その三

 ん、そろそろいいかな。じゃあ意見が来てるか前の応援情報領域ウィンドウを見るわね。


 ふーむ…………。


 お、Bに2票来てるじゃない! 書き込んでくれた人達ありがとっ!


 正直一つも来なかったら、ちょっとだけだけど寂しい気持ちになっちゃってたかも、ふふっ。


 ファリーリーもなんか良い笑顔で情報領域ウィンドウを眺めてるわ。


「良かったですね、書き込み見守り人さんが居て」

「ええ。でも見るロム専門の人達だって有難いわよ」


 私はアンタ達には基本気楽な感じでここに居てて欲しいと、そう思ってるからね。


 じゃあ選択に戻るわ。


 そうね、確かにオーソドックスだけど色んな可能性の有るBが良いかな。うん、そうしましょう!


「決めたわ、Bでお願い」

「分かりましたー。では張り切って転生しちゃって下さいっ! トゥルー・リインカーネーション――!!」


 分かる、それ転生する為の術かなんかでしょ! リインカーネーションって言葉、ゲームでもまれに出てくるもん!


 ファリーリーが右掌に物凄く綺麗な緑色したオーラの渦を作り出して、それに向けて今度は、凄く優しい感じの表情でふっと息を吹き掛けた。


 慈愛に満ちてる――と言って良いかもしれない。正直、マジ女神っぽい。


 オーラは私の方に飛んできて、私の魂を螺旋らせん状になって包み込んでいく……。


 ここからはもう私には、何が起こってるのか全っ然分かんないっ!


 でも凄く爽快な感じがしてる。


 ……そうね、例えるなら仕事帰ってすぐにっついシャワー浴びて、そのまま全裸で速攻冷えた缶チューハイぐいっとイッちゃう感じかしらっ!


 え、何? 『全裸ってそれ女としてどうよ』って? 一人暮らしなんだから別に良いでしょっ。


 パンツはその後ですぐ履くわよ、そんな長いこと全裸じゃないわよ流石に。


 え、『転生中の実況で、転生をそんな庶民の幸せに例えた人初めて見た』ですって? うん、私も転生の実況をする事になったのは初めてよ。


 ん……どうやら転生も佳境に入ってきたみたい! 凄い、なんか魂の内側からバンッて弾けるっ!


 ――――――。


 ……何も、見えない。真っ暗闇だわ。どうなったの私?


「サラさん、目を開けて下さい。もう転生は完了してますからー」


 あ、成程。ごめん、私が瞼を閉じてただけみたい。


 『瞼が有るって事は……』って? うん、私に肉体が在るっていう事ねっ!


「ファリーリー、鏡って有るかしら?」

「私の携帯端末のカメラを鏡代わりにどうぞー」


 こいつ、ニホンの携帯端末まで持ってるとは……。でもまあ、今は助かるわ。


「ありがとっ。どれどれ……」


 おお、おおっ!


 まず若い! 十六歳の肉体なんだから当たり前かっ。


 少し青みがかった銀色したストレート・ロングヘア!


 ぱっちりと開いた瞳は、てかてかしてない落ち着いた感じのイエロー系。


 すっと通った鼻。元気さが感じられる、気持ち大きめのくち


「可愛いじゃないっ。清楚と活発、どっちに転んでもイケるタイプの美少女だわっ!」


 顔良しっ! 体つきの方も、スリムっぽくかつ適度に筋肉が付いてて良い感じ!


 胸も、寄せて上げなくても大きいって位には大きいわ。


 体の方も文句無しね。ただ、顔と体は良いんだけどさ、その……。


「ねえファリーリー、私の格好の事なんだけどさ」

「はい?」


「水着風のブラとパンツだけなんだけど、これって元々そういう仕様?」


 私は今、装備が見た目に反映される系のゲーム――その初期状態のキャラに有りがちな、濃いめピンクのビキニっぽいの着てるだけ。


 うん、装飾とか全然無いシンプルな感じとか正にそれっぽい。


「そうですねー。流石に武器や凝った衣装までを、この空間内で作る事は出来ませんからー」


 まあ、そりゃあそうよね……。


「でも安心して下さい。今から貴女は冒険の拠点となる村に行く事になりますが、そこで最初の武器だけは貰えるらしいですよっ」


「あ、そうなんだ? そうよね、幾らなんでも素手でスタートは死に覚え系ゲームでもそう無いもの」


 後はその武器が、ひのきの棒とかじゃない事を祈るわ。


 え、『服は貰えないらしいけど良いのか』って? 別に防具でもないただの服なら無理に欲しく無いわ。


 『羞恥心は無いのか』って? いやそこは一度さ、今から言う私の感覚に合わせて考えてみて欲しい。


 さっきも言ったけど、下着だけで始まるゲームも実際に有るんだからさ。


 ここはそういうもんなんだと割り切って、この世界観に早い内に馴染んだ方が良いと思うのよ、私は。


 てか寧ろ『貧弱な装備』から始まった方が、自分が『強くなっていく過程』をより楽しめるってもんじゃない?


 ね? なんとなく分かるでしょ?


 え、『まあ家じゃ裸族だもんな』って? いや裸族では無いからっ、ちゃんとすぐパンツは履くからっ!


 とにかくっ、私はもう冒険に向けてワクワクしちゃってるわ!


「はっ!」


 ノリでパンチとか出してみる。


 ビュッ――!


「わおっ!?」


 ねえちょっと! 私のパンチ、風を切ったわよ!


 海外製ゲームに有ったりするチート機能程では無いにしろ、この十六歳の肉体は最初から、ちゃんと冒険に適した十六歳の肉体には仕上がってるのよ。


 これ位の力が有るなら、後は村で武器を貰えば一先ず十分だわ。


「よし、じゃあそろそろ行くわ」

「はいっ。それではゲート・オープン!」


 ファリーリーの掛け声で、私の足下の空間にぽっかりと大きな穴が開く。


「そのゲートを通れば異世界ですよ、サラさん!」

「オッケー!」


 逸る気持ちを抑えながら、私はゲートに飛び込んだ。


 さあ、これから私の異世界ハクスラが始まるわよっ!!


 ――第零話 完――

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