第80話*
「まったく。その品は大切な物だったのだがね」
ベッドの後ろから男が歩み出てくる。
「まあ、その分、お前をこき使ってやろう。給料が出ないブラックな職場だが」
男の手にはサイレンサー付きの自動拳銃が握られている。
「ダミーを見破られた割には、随分と余裕じゃないか。もう勝ったつもりでいるのか?」
あなたの問いかけに相手は笑みを漏らす。
「勝ったつもりではなくて、勝っているのだよ。お前がこの部屋にたどり着いた時点でね」
男はオートマチックを握るのとは反対の手に持つ何かを操作した。大型の液晶テレビの映像が切り替わる。ソファの脇からその映像を見たあなたは唇を噛みしめた。そこに映っていたのはあなただった。
「現代文明に適応できるのはホモ・サピエンスだけとは思わないで欲しいね。我々も日々新しい物に適応しているのだよ。お前の存在はこの館に入った時から監視カメラで把握済みなのだ。どうだね、今まで泳がされていたと分かった気分は?」
「その割には随分と手下や花嫁たちを俺に倒されたようだが?」
「それも想定のうちだ。少し気前よく我が一族に転化しすぎてしまってね。この高貴な体に順応しきるまでは色々と勝手なことをするので困っていたのだよ。お前のようなハンターと戦って勝つなら良し、負けたならばそれまでだ」
男は余裕の表情で続ける。
「それに優秀な手駒が手に入るのだからね。さあ、続きは我が手駒になってからとしようか」
あなたは相手の口調からソファの後ろに飛び込んで身を隠し、ソファの端から男の姿を探る。
落ち着き払ってオートマチックを構えていた。小さな閃光が見えあなたは身をかがめる。ソファの端がはじけ飛んだ。なかなかの腕前だ。エチケットブラシの鏡をソファの端から突き出し、相手の姿を探る。鏡には当然相手の姿は写っていない!
⇒第70話に続く
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890935249/episodes/1177354054890936055
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