第50話*

 あなたはポケットからスマートフォンを取り出してグルグル回転させて見せた。

「お恥ずかしい話ですが、せっかく地図があってもどっちがどっちの方角やらわからなくて困っていたんですよ。まさか迷ったぐらいで警察を呼ぶわけにもいかないですし」


 年寄りはニカっと笑った。だいぶ歯が抜け落ちている。

「わしもそんな機械はよう分からんだ。だども、地図はそうやって回すもんでねえ。それぐらいは分かっとる」

「疲れたんで、そちらの小屋でちょっと休ませてもらえませんか?」


「少し休ませてほしいだか? ダメだ。ご主人から叱られてしまう。サミュエル、お前の仕事は見張ることだとしょっちょう言われてるでな。勝手なことはでけん。また頭が弱いと言われちまう」


 サミュエルは警戒を解いてはいないが、銃身を下に下げて言った。

「屋敷を出て、歩いて行くと右の石垣の横に木の踏み台がついてあるところに出るだ。そこを乗り越えていくとジョンソンの店があるで。ビールは悪くねえだよ。そこなら車も呼べるだ」


 あなたが見る限りではサミュエルはただの人間のようだ。脹脛は痛むが歩けないというほどではない。ここは大人しく引き下がることにしよう。あなたは騒がせたことの詫びをいい屋敷を後にした。


⇒第60話に進む

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890935249/episodes/1177354054890936036

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