第19話 口調、というそれだけで成立する個性

 「ふむぅ、わかりましたわい。では続けて明日からは二人目をお願いしても良いですかの?」

 

 数日の調査を終えた結果を伝えると、髭の老紳士所長ことキニゴスは、何事か一瞬の思案の後でそう続ける。

 

 キニゴスやケルマの方には彼らなりの考えや受け止め方があるだろうけど、俺たちとしてはライコウには問題などないとはっきりと伝えた。

 

 まあ、それを受けてどう判断してどう対応するかは、それこそこちらがどうこういえることでもないのだろうけど。

 

 「はい、次はどういった方なのですか?」

 「そうですな、疑う根拠はライコウと同じで記憶喪失と自己申告していることですな。戦闘や索敵の能力はアポタミアハンターギルドでは並で、そういった意味では脅威という訳ではないのじゃが、まあ今回もそこのところを現場目線で確認してもらいたいという事ですな。そのハンターは、クラマ……と名乗る男ですな」

 

 クラマ、か。感じとしてはこの辺りの出身者ではなさそうな響きをした名前だ。記憶喪失者はエディー風の名前を名乗る風習でもあるのかと思えてくるな。

 

 

 

 次の日、俺たちはハンターギルドでクラマと対面していた。

 

 「よろしくなァ! オレはクラマゆうねんけど、この街来る前の記憶がのォてな。自己紹介は名前だけや!」

 「お、おう……、よろしく。俺は三花」

 「私はシレーネといいます」

 

 独特のイントネーションでにこやかに話しかけてくるクラマの勢いに押されながらも、こちらからも名乗り返した。

 

 すると、口許は笑ったままで目だけをしかめたクラマがすっと身を寄せて小声になる。

 

 「受付のにいちゃんから聞ィてんけど、じぶん神職なんやって? オレはほら、記憶喪失やん? そういうの疎いから普通に呼んでもええ?」

 「へ? 自分……? ああ、俺か? おう、もちろんいいし、むしろその方が気が楽まである」

 

 早口で独特の口調である上に、なんか圧倒されてたから半分くらいしか理解できなかったけど、要するに呼び方とか口調とか砕けていてもいいかって聞きたいらしい。

 

 もちろん、問題無いし、そもそも俺はこの世界の神職ではないから実のところはクラマが敬う必要はそもそも無い。

 

 俺の返事を聞いたクラマは再び顔全体が笑顔になって、元の位置まで身を離す。

 

 「そォか、いやァ助かるわ! ほんなら今日は頑張ろな、ミカ、シレーネ!」

 

 押しが強くて正直ちょっと苦手なタイプではあるけど……、ライコウに続いてこのクラマも、まぁ悪い奴では無さそうだった。

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