第5話 街へ行こう、という安直で無難な行動方針
しばらく休んで体力も回復した俺は、シレーネちゃんと共にアポタミアと呼ばれる街の近くまで来ていた。
「アポタミアは、人間が点々と街や村を作るいわゆる人類生存圏の端に位置しています。なので魔獣の脅威も大きく、魔獣狩りを仕事にする人たちの組織であるハンターギルドも活発なのですよ」
「へぇ。あ、あれがそうか? なんかでかい球場みたいな」
徐々に見えてきた外壁を指して言う。まだ距離があるのに明らかに球場よりはでかい、が、形状としては幅がやけに大きい球場としかいいようがない。
あれがそれなりに規模の大きい街を覆う外壁だというなら、その大きさも当然ではあるけど。
「そうです、そうです。アポタミア名物大外壁です。大きな街でも普通は柵や塀くらいしかないのですが、この街は高い壁にすっぽりと覆われた構造になっているのですよ」
大勝利の余韻が残っているのか、シレーネちゃんのテンションは今もまだやや高い。
対する俺は、疲れが体の各所に染みつくように残っているせいで足取りも軽いとはいえない状態だ。
「門が見当たらないな」
少なくともこちら側からは壁しか無いように見える。大門とか、門番とか、あと揉めてる貴族とかそういうのが何も見当たらない。
「大丈夫ですよ、あれがそうです。まだ見えにくいですが、あそこに見えるのが入街門です」
「んー? え? あの……、あれ?」
言われてよく目を凝らしてみると、確かに扉がぽつんとついているのが見える。
「あの小さいのが? もっとこう荘厳な感じかと想像してた」
「こちら側が人類生存圏の外側になりますからね。人の出入りは多くない上に、魔獣の襲来は多いのです」
「あ、なるほど」
段々と近づいてきたことで、外壁の上が通路の様になっていてそこに何人か人が行き来しているのが見えてきた。
「あれが衛兵か、警戒は常にしてるんだなぁ」
「衛兵もいるはずですが、大部分はハンターギルド員ですよ。魔獣との戦いはハンターの領分ですので」
「ふぅん」
正直そんなに興味があるわけでもないことを、上の空でやり取りしているうちに、外壁のすぐそばまで辿り着いた。
「えっと……」
「ミカさま、こちらです」
シレーネちゃんが先導して、扉へと近づく。
遠くからはすごく小さな入り口に見えていたけど、近くに来ると一般的な扉よりは一回り大きく見える。
その扉についていた武骨なノッカーをシレーネちゃんは、ためらいなく掴む。
ごん、ごん
「お疲れさん、見ない顔だな? 新米ハンターか?」
間髪開けずに扉が外側へと開いて、慌てて飛びのいたシレーネちゃんにも構わずに、弓を背負ったやや大柄な女が聞いてきた。
「――こほん。いいえ、ハンターギルドへはこれから登録するつもりです」
「仕事でもなく外に出てたってのかよ。変態的だが……、腕は立ちそうだな?」
「へぇっ!? へんた……っ!」
声を裏返して心外だといわんばかりに動揺しているシレーネちゃんには悪いが、仕事でも義務でもなくあんな化け物と戦う可能性が高い場所を旅してきたのだとすれば、十分に変態的だろう。
まあ、実際は異世界から転移してきた訳だが、そんなこと相手が察するわけもないし、こちらが説明する気もない。
「ちょうど、アタシは上がる時間なんだ。よかったらハンターギルドまで案内してやるよ」
俺たちが扉をくぐったあと外を見回していたその女は、扉を閉めて閂をかけるとにっかりと快活な笑顔を浮かべてそんなことを提案してきた。
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