第5話 そっけない門出
「ただいま」
期待と不安を交えて、俺とシーナは、声を揃えて敷居をまたいだ。
居間の方から、なにやら良い匂いがする。
「おう、おかえり」
カロナは、優しい笑顔で俺たちを迎えた。
手にはおたま、体にはエプロン。
香りの正体は、手作り料理のようだ。
漢らしい彼女にしては、今の姿はギャップが凄い。
「めっちゃ良い匂いだな」
「だろ? 久しぶりに腕を振るったのさ」
「なんか、ごめんな。世話になっちまうせいでいろいろと」
「なにを今更言ってんだ。な? シーナ」
「うん」
シーナは少しの戸惑いを見せたものの、さすがは大精霊、即座に振る舞いを変えた。
「ほら、もうできるよ。座んな」
俺とシーナは、木製の小さなテーブルを前に、所狭しと座る。
「なんだ、緊張でもしてんの?」
「いや、そーゆー訳じゃないんだ」
「ふーん、まあいいや。食べよか」
俺は、ある蟠りを抱えたまま、箸を進めた。
それでも、こっちにきて一番落ち着いた食事だった。
素直に美味しく、素直に懐かしい。
黙々と食事を進め、気づけば手を合わせていた。
「ごちそうさま。美味かったよカロナ」
「だろ?? 私は料理の腕にも自信があるんさ」
カロナが食器を片付けているうちに、俺は自室となる部屋へと向かった。
いつのまにか、シーナも姿を消している。
由奈、颯、あいつらは今どこにいるのだろう。
きっと、こっちに来ているはずだ。
その期待を胸に抱きながら、俺はなにをすればいい。
あの力、確かに言葉に表せないほどの大きさだったが、制御するには俺自身の基礎力が必要となるだろう。
これから俺は、どうしたらいい。
いや、もう答えは得ている。
ある決意をした俺は、もう一度、居間へと足を運んだ。
「カロナ、ちょっといい」
俺は椅子に座りくつろぐ彼女に、後ろから声をかけた。
「……なんだい?」
驚いたように、こちらを振り向く。
「……俺に、稽古をつけて欲しい」
しばしの沈黙が訪れた。
「ははははっ! そんなことか。ああ、もちろんつけてやる」
「え、いいのか」
あまりにもすぐに受け入れられてしまったので、戸惑いを隠せない。
「ああ。そもそもその気だったしな」
「まじか、ごめん。ありがとう」
「いや、礼を言うのはこっちだ。シーナもやっと見つけたみたいだしな」
「……え?」
「なんでもない。さあ、もう寝ろ。早速明日からビシバシいくぞ」
「ああ、よろしく頼む!」
こうして俺は、カロナの助けを借りながら、様々な修行をした。
2年後……
「とりあえず、今までありがとう」
「湿っぽいこと言うなよな」
カロナは鼻で笑った。
「とりあえず、冒険者登録だけして旅に出るよ」
「おう、お前なら既にSランクも余裕だろう」
「……どうかな」
「まあ、シーナのことも頼むよ」
その言葉には、様々な意味が含まれている。
そう感じる。
「ああ、任せろ」
俺は胸を張ってそう言った。
「またね」
シーナは小さく口にした。
「さあ、いってこい!」
俺たち二人の門出を、輝かしい朝日が祝福する。
この先なにが起こるかわからない。
それでも、俺は、進み続ける。
【一同驚愕】EX職業『剣聖』を放棄した理由に涙が止まらない。 のあのあ @nor0929
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