第4コーナー「新たなるプレハブ小屋」

「どこだよ、ここ……」


 頭上には見知らぬ天井が広がっている。

 平野にぽつんとあった扉の中に入ったはずなのに、なぜだか俺はプレハブ小屋の床の上に寝転っていた。

 辺りはしぃんと静まり返っていて危険が迫っている様子はない。

 建物の中に居たにせよ、もしもあの大規模な崩落に巻き込まれれば只では済まないはずである。それなのに、ああも目と鼻の先まで迫っていた大地の崩落が、この建物を奈落の底に突き落とすことはなかったようだ。

 俺は疲れた体に鞭を打ち、今現在の外の様子を探るべく立ち上がった。

 動かすたびに手足の筋肉がズキズキと痛んだが、ゆっくりと移動して扉へと近付いた。ドアノブに手を掛けて回してみる。


 ──カチャカチャ!


 まるで、扉は固定されているかのように押しても引いてもびくともしなかった。先程は開いたのに、知らぬ間に施錠でもされたのだろうか。

 そもそも俺が入ってきたこの建物の扉は観音開きで、ドアノブすらなかったような気もするのだが──。

 違和感を覚えつつも何度か開けようと試みたが、結果は同様。まるで最初からそうであったかのように、扉は張り付いていて動かすことができなかった。

 扉を開けることは諦め、代わりに耳を当てて外部の様子を探ることにした。ところが静寂に包まれていて何の物音も聞こえやしない。

「助かったのか……?」

 確証はなかったが何も起こらないので、一先ずは難を逃れたという解釈で良いようである。ホッとしたら気が抜けてしまい、俺はその場にへたり込んだ。


 心にゆとりができたことで、俺はあることに気が付いた。

「この部屋……どこかで見たことがあるぞ」

 テーブルが置かれ、扉と窓があるだけの質素なプレハブ小屋──それは一番初めに俺が目を覚した時に居た部屋と、どことなく雰囲気が一緒だった。

 最初のプレハブ小屋の時と同様に、窓にはテープで目張りがしてある。


 首を傾げている俺の耳に、最早お馴染みとなった聞き慣れた声が響いてくる。

『休んでいる余裕はないぞ。生きたければ、生きる為に走り続けろ』

 声はするが、勿論、部屋には誰もおらず声の主の姿を視界に捉えることはできない。

「ちょっと待ってくれ!」

 俺は慌てて叫んだ。

「ここはどこなんだ? どうして俺が、こんな目に合わなきゃいけないんだ!」

 ありったけの声量で叫び、部屋の中に俺の声が虚しく反響する。声の主は俺の問いに答えてはくれない。

 それでも俺は構わず叫び続けた。

「教えてくれ! 何が起こっているんだ!」

 しかし、それっきり声は何も言わなくなった。


 それからすぐに何かが起こることもなかったので、俺は手持ち無沙汰となった。部屋から出られる訳ではないし、何か暇を潰せる玩具や本がある訳でも無い。

 世界に──俺の身に、いったい何が起こっているのか──。

 やれることもなく、俺は次に事が起こるまで束の間の休息を取ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る