Something more dash!
霜月ふたご
第1コース『走れ』
第1コーナー「プレハブ小屋と謎の声」
どうして俺はこんなところに居るのだろう。意識が
最後に見た光景は何だったろう——。
激しい
意識を失う前の記憶としてそれ以上に思い返せることはなかった。
かと言って、別に
自分の名前や
——名前は
そんな個人情報がすぐに頭の中に浮かんだ。
しかし、いくら思い返してみても、目を覚ました俺がこんな小汚いプレハブ小屋の床に寝そべっている理由に心当たりはなかった。
「どこだよ、ここは……」
体を起こして部屋の中を見回す。といっても、部屋にはパイプ作りの長テーブルが置かれているだけで、調べられるようなインテリアはない。
取り
こういう状況下ではだいたい扉が開かないと相場が決まっているのだが、案の定、それに
次に、目に止まったのが窓だ。黒色のビニールとクラフトテープで目張りされていたので外の様子は
クレセント
「……なんだよ、これ……」
『消えたくはないか?』
そんな俺の耳に、どこからか
この部屋には俺以外には誰も居ない。それなのに俺は姿の見えない誰かに、近くから声を掛けられたのだ。まるで脳内に直接語り掛けられているかのようなクリアーな音声が耳元で響いた。
単純に言葉の意味が分からなかった俺は、驚きよりも先に疑問符を口にしてしまった。
「はぁ?」
すると、その返事が気に入らなかったのか、声の主はさらに尋ねてきた。
『死にたくはないか?』
今度はそんな言い回しで再度尋ねてきた。
「……そりゃあ、死にたくはないけれどさ……」
俺は困惑しながらも、声の主の問い掛けに
いったい、この声の主はどういった立場で俺に質問を投げ掛けてきているのか。
もしや、これは俺をいつでも殺すことができるぞ、という遠回しの
知らぬ間に何らかの事件に巻き込まれ、
──まさか、俺はこれから死のデスゲームにでも参加させられて、殺し合いでもさせられるんじゃないだろうか。
そんなありきたりなフィクションの設定が、頭の中に浮かんだ。
ところが、声の主は思わぬことを言い始めた。
『……ならば逃げるが良い。どこまでも……』
「はあ?」
思わず
逃げろとは、どういうことか。
声の主が何を考えているのか、考えてみても頭がついていかない。
「お前は誰なんだ!? 俺をこんなところに閉じ込めたのは、あんたじゃないのか!?」
俺は叫んだ。しかし、返答はなかった。
その後、いくら呼び掛けてみても声はそれ以上に何も言わなかった。
どうやら会話が一方的に打ち切られてしまったようだ。
俺は
「……いや。それよりも、もう少し部屋を調べてみるか……」
声のことも気になるが、それよりも自分が置かれている状況を詳しく理解することに
気持ちを切り替えるかのように頭を
俺としても、こんな
しかし、実際に俺はこの部屋から脱出することは叶わなかった。
逃げろといった割には
その言葉に
進展もなく、途方に暮れていると突然部屋が大きく揺れ始めた。
「じ、地震っ!?」
そう思ったが、揺れているのは部屋の壁や天井だけで、俺が立っている地面は揺れていない。
——ギイイーッ!
不意に部屋が
いきなりのことで、何の反応もできずにただただ立ち尽くした。
俺が建物の中だと思っていたこの部屋は、ただ単に書き割りが合わさって造られた空間であったらしい。
壁が地面にパタリと倒れたお陰で、周囲に砂埃が巻き上がった。
俺が立っていたのは広い平野のど真ん中。視界を遮るものはなく、地平線の向こうにまで芝生の地面がどこまでも続いていた。
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