『いろんな反応』

 額で測るタイプの体温計は、誤差がありすぎたらしく、画面の前に立つと測られる体温計が入り口に設置された。


 画面に表示されてる枠に、自分をはめていく。すると、『正常な体温です』と音声が流れた。ハイテクなものに慣れてないから、すこし焦る。




 お昼休憩は二階へ。

 一旦玄関まで、入り口まで行き、階段を使う。その途中に体温計。てんかんで休むことの多い男性ひとが、自分で描いた絵を持ち、画面の前に居た。

 絵の腕前は……人物の特徴は掴んでいる。作業所にいる職員さんを描いてるんだよね。完成したのを持ってきてるから、思い出しながら家でやったんだと思う。それと、一昨日なにがあったかを事細かに覚えていたりする。耳を傾けたりもした。〇〇をしました、〇〇がありました、行動ひとつ、ひとつ……日記かよ、記憶力が物凄い。

 話を戻そう。絵を持ち、機械の前に立っている。その時点で何をしてんだ? って感じなんだけど、音声まで流れ出すから「はっ!?」となった。よくよく見たら画面にキミが映ってるじゃないか……だよね、絵で反応したらヤバいから。



 夕方、帰る時間。

 靴の履き替えとかで、入り口が混雑してきた。挨拶としてボディタッチしないと気がすまない女性ひとがいる。肩に軽く触れる程度と、相手の私物にも触れるようになってしまっている。ソーシャルディスタンスとか、触っちゃダメ! と強く言えば反対に荒れてしまう。タッチすれば気が済めば大人しい。

 体温計の前に居たが、音声がなかなか流れない。それに苛立ち画面を叩く。人が通らない場合は、消費を抑えるべく画面が暗くなるんだろうな。何故そうなるかと解っていれば、待っていたらいい。その考えが難しいから、手が出てしまった。



 ……どちらも機械に対する、素直な反応リアクションだ。



 ミニオンがお気に入りらしい男性ひとはよく、休憩が終わろうかという時間帯に外へ行ってしまう。動きが読めてる今は、ちょっとの間様子見しておく。最初はよく分からず、「閉めちゃおー」と茶目っ気を出して入るよう促していた。そのうち手招きでも、すんなり戻ってくるようになった。

 で、ひとつ考えが出てきた。決まった時間帯に外へ行き、手招きすれば戻ってくる。このやり取りがコミュニケーションだとしたら? 続けるか。私自身、嬉しかったりもするんだよね。



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