宇宙開拓史 ー悪人伝ー
テツロー
第1話 航海練習船エンデバー号
「クソッ!こんな時に厄介だな。」船長のセバスチャンはぼやいていた。
人生で初めての重力嵐になすすべがない。
宝くじに当たるより遭遇確率が低い重力嵐に遭遇してしまったのである。
計器のほとんど全部が無茶苦茶に狂ってしまって現在位置もわからない。
便宜上重力嵐と呼んでいるがそのメカニズムもよくわかっていない。
ただわかっているのはどこかに飛ばされてとんでもない遠方に出てしまうことだ。
何百光年も離れた所に出てしまい2度と戻れないこともある。
地球のマクシミリアン学園の生徒をのせて実習中、この航海練習船エンデバー号は突然重力嵐に遭遇してしまった。
ブリッジ内の当直の生徒たちも指導教官も不安な表情で固唾を飲んで嵐がすぎるのをただ待つしか出来なかった。
生徒数は30人、みんな15才から16才で初の航海の実習だった。
嵐に遭遇しているとはいえ船内は重力装置のお陰で静かなものである。
とくに振動や揺れがあるわけではないので怖い思いをするということはない。
知識として危険だということを理解しているが今一つピンと来ない。
いつもとべつに何にも変わりはなかった。
宇宙空間では時間と言う概念はあまり意味を持たなくなっていたが、どのくらい時間が経ったか?
計器が正常に作動しはじめブリッジはにわかに慌ただしくなった。
船の状態のチェックと現在地の確認がすぐに行われた。
嵐が過ぎるのと同時に船内に警報が鳴り響き非常灯の赤色に切り替わった。
船の各所が破損を知らせる警告がモニターに映し出されて緊急を要する所から人員を向かわせる指示を船長は行っていた。
非常事態に備えて全員宇宙服の着用が指示された。
ほぼ同時に重力装置が停止してしまい船内は無重力状態になってしまった。
「みんな落ち着け、訓練と同じだ、行動の手順をしっかり把握しろ!A班は機関室に向かえ!」船長は自分にも言い聞かせるように学生たちに指示を出し続けた。
次々と入ってくる各部署の報告とモニターに映し出される自己診断システムの標示が一致したところから自動修復が始まった。
極めて危険な状態を示すレッド標示からイエロー標示に次々と切り替わりとりあえずの危機は回避された。
やがて重力装置が再起動するブザーが鳴りみんな急いで姿勢を天地方向に直した。
ゆっくりと重力が戻り落ち着きを取り戻すようになった。
だが相変わらず船内は非常灯の赤色のままだった。
モニターのレッド標示はほぼイエローになったが安全を示すグリーンが出ない。
自己診断では船体に歪みが出ていて自己修復では修復出来ないようだ。
舵、バランサー、トリム、エネルギーコントロールなども損傷していてとてもではないが安全航行など出来そうもない。
なによりも現在位置がまだ分からなかった。
観測した星座からおおよその現在位置が計算され航海長は確認作業を続けた。
「船長、現在位置が出ました。」と航海長は言うと「恒星トリアム系の近くです。」と報告した。
「どこだ?すぐにトリアム系のデータを出してくれ。」と船長は指示した。
航海長はデータベースを操作すると「x2567y6689z2218、地球からおよそ45光年のところで50年前に4番惑星トリアムアルファに開拓団が入植しています。108番目の惑星開拓地だそうです。」といった。
「入植地があるのか?それならドックがあるかもしれん。すぐに連絡を取ってくれ。」と船長は言った。
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