第24話 ライバルが出てきたら
友江さんは私が思っている以上に手強いみたい……!
私に宣戦布告をしてきた日から、友江さんは守谷くんにガンガン積極的にアプローチを仕掛けていっていた。
ボディタッチは当たり前、今まで通りちょっかいを掛けて甘えつつ、冗談とも本気ともつかない口調で好意を仄めかす。
守谷くんからすると意識せざるを得ないだろう。
……友江は本当に僕のことが好きなのか? それとも冗談なのか?
そう思わせた時点で相手の策略に嵌ってしまっている。
この前なんて、友江さんと守谷くんは二人して授業を欠席していた。
移動教室の化学の実験に現れなかった。
……もしかして二人はいっしょにサボっているんじゃ……。
私は気になりすぎてまるで授業に集中することができなかった。
班のメンバーが私ともう一人の女子しかいなかったということもあって、実験はろくに進まずに散々な結果に終わった。
次の授業の始まりの時、二人が揃って教室に戻ってきた時、二人で何をしていたのかと尋ねたくて仕方がなかった。
だけど、訊こうにも怖くて訊けなかった。
もし友江さんに、
『さっきの授業中、何をしてたの?』と訊いて、
『保健室のベッドで守谷とイチャイチャしてた』とか『空き教室でこっそりキスしてた』と返ってきたらどうしよう……。
友江さんは強敵だ。
このままだと守谷くんを取られてしまう。
それは絶対に避けたい。
私も守谷くんにアプローチを掛けないといけないよね。
……でも、どうやって?
恋愛経験がない私には、恋の駆け引きというものがよく分からない。友江さんのように男の子を手玉に取るテクニックもない。
ネットで調べようかと思った。
だけど、ネットの記事は信憑性に欠ける。
それよりももっと確実な方法がある。
私は一つだけ友江さんよりも明確なアドバンテージを持っている。
それは意中の人の攻略方法のヒントを、直接その人から聞けるということ。……つまりは恋愛相談ができるということだ。
☆
「それで……相談っていうのは?」
放課後。
僕は白石に呼び出されて、恋愛相談に乗ることに。
周囲に人がいないことを確認してから先を促す。
白石は小さくこくりと頷くと、囁くように言った。
「実はね。困ってることがあって……。ライバルが現れたの」
「ライバル?」
「うん。私の意中の男の子を好きなのは、私だけじゃなかったみたいなの。他の女の子もその人のことが好きだって」
「そうなんだ」
「ライバルの子は私に宣戦布告してきたの。私はあいつのことが好きで、独り占めしたいからアタックするって」
「へええ」と僕は感嘆の相槌を打った。
つまりその男子は白石さんともう一人の女子から同時に好意を抱かれている。
話だけを聞くととんでもないモテ男だ。
……そうなると、白石さんの意中の人は、やっぱり僕じゃないのか? そんなハーレムのような状況には覚えがないし。
「ライバルの子は凄い積極的にアプローチを掛けていって、どんどん私の好きな男の子と仲良くなっていくの。会話を聞いてると、長年連れ添ったカップルみたいだし。このままだとその子に負けちゃうかもしれない」
白石は言った。
「だから、私も負けじと頑張らないといけないのは分かってるんだけど。どういう行動を取ればいいのか分からなくて……。私とその子だとタイプが全然違うから、私が急にその子みたいに振舞ったら不自然になっちゃうだろうし……」
「なるほど」
僕は頷いた。
「確かに人はそれぞれタイプが違うから。自分の人柄に合わないことをしてたら、いつかはボロが出るだろうね」
明日から僕がいきなりサッカー部の江坂のようなムーブをかましたら、何があったのかと周囲に訝しまれるだろう。
第一、性に合わない。
誰もが皆、陽キャのムーブができるわけじゃない。
もし仮に僕がキャラを変えて受け入れられたとしても、僕自身が合っていないと違和感を覚えるのなら意味がない。
以前、白石は教科書や弁当を忘れたりして隙を作ろうとしていたが、普段の彼女は優等生だから上手くいっていなかった。
「白石さんはその意中の相手とどんなことがしたいの?」
「えっ? したいこと? うーん……。お喋りしたり、いっしょにお昼を食べたり、休みの日にはデートしたりとか……?」
白石はそう言うと、
「その時には手を繋いで歩いてみたい……って。これはちょっと欲張りすぎかな?」と頬を薄く赤らめていた。
「全然、そんなことないと思うよ」
むしろ控えめな方だ。
僕は先を続けた。
「なら。まずはそこから始めていけばいいんじゃないかな。それなら無理なく相手と仲良くなることができる」
自分の身の丈にあったアプローチの仕方だ。
「お喋りしたり、お昼を食べるのはまだしも、デートはハードル高くないかな? 相手の人に引かれたらどうしよう……」
「それは大丈夫だと思うよ。ある程度仲がいい関係だったら、休みの日に遊びに誘うのはおかしいことじゃない」
僕は言った。
「白石さんが好きになった相手だ。きっと酷い対応はされないよ。だから、勇気を出して誘ってみてもいいんじゃないかな」
「……そっか。そうだよね」
白石はしばらく俯いて逡巡した後、こくりと頷いた。
「私、思い切って、遊びに誘ってみる」
顔を上げた時、その大きな目には意志の光が宿っていた。
覚悟を決めたみたいだ。
上手くいったらいいなと思う反面、一抹の寂しさもあった。
彼女が意中の相手と上手くいって、付き合うようになったら、僕と彼女がこうして共に時間を過ごすこともなくなるから。
だからと言って、邪魔をするつもりは毛頭ない。
白石さんの悲しむ姿は見たくない。いつだって笑っていて欲しい。彼女が幸せになれるのならそれが一番なのだから。
――と。次の瞬間だった。
白石は僕の顔を見つめると、意を決したように言ってきた。
「守谷くん。私とデートしてくれない?」
「えっ?」
デート? 僕と?
状況がまだ飲み込めない。
いったいどういうことだ?
白石ははっとしたような表情を浮かべていた。思わず口をついて出てしまった。そんな気持ちが透けて見えるような。
「ほ、ほらっ! いざ意中の人とデートに行くことになった時、どうすればいいか勝手が分からないっていうのはマズいかなって! 私、付き合ったこともないし、男の子と休みの日に出かけた経験とかもないから! だから、守谷くんと事前に模擬形式で練習できたらなって思ったの! ホントに!」
「な、なるほど。そういうことか……」
びっくりした……。
タイミングがタイミングだったから、勘違いしそうになった。
「もちろん、無理にとは言わないよ? 守谷くんが嫌だったり、用事があるようなら全然断ってくれてもいいから」
そう言いながらも、白石の目は期待しているように見えた。
結構、懸けているというか。
断ったらショックを受けそうな感じが出ている。
……僕としては断る理由もない。
「分かった。僕で良かったら付き合うよ。白石さんの背中を押して、後は放っておくっていうのも無責任だからね」
「ホント!? ありがとう!」
僕がそう言うと、白石の表情がぱあっと晴れた。
……それにしてもやけに喜んでるな。あくまでも模擬なのに。まるで本命の相手と約束を取り付けた時のようなリアクションだ。
実際、本当の意中の相手とデートの約束を取り付けることができたら、喜びようは今の比じゃないんだろうけど……。
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