学校一の美少女が恋愛相談してきたんだが、惚れた相手が僕としか思えない
友橋かめつ
第1話 Sランク美少女を助ける
昔から人に相談されることが多かった。
人気者だったからというわけじゃない。僕はクラスでは目立たない。教室の隅の方で本を読んでいるような生徒だ。
抜群に頭が切れるわけでもない。
だから相談された内容に対して的確なアドバイスをしたり、それによって問題を解決に導いたりといったこともできない。
ただ話を聞いて、当たり障りのないことを言うだけ。
なのに相談の声は止まなかった。
なぜ僕に白羽の矢が立つのか?
自己分析をしてみるに、たぶん、ちょうど良かったのだと思う。
悩みを虚空に吐き出し続けるのは空しい。ネットの海に吐き出そうものなら夥しい数の匿名の悪意に晒される。だが、仲の良い友達や家族に吐き出すのも憚られる。近しい関係だからこそ秘していたい思いだってある。
友達や家族ほどの近しい関係ではなく、悪意がなさそうでかつ、虚空に吐き出すよりは反応を返してくれそうな人間。
そんな検索条件にぴったりと当て嵌まったのが僕なのだろう。
小学生の頃、中学生の頃、そして高校生になった今も。男女問わず、時には先生まで僕の元を訪れては悩みを吐き出していった。数多くの悩みを聞いてきた僕だからこそ、人の悩みはその殆どが人間関係に起因すると知っていた。人はいつだって、他の人との繋がり方で悩み惑っているのだ。
クラスの友達。部活やバイト先の先輩や後輩。好きになった相手。家族。悩みの根源というのはだいたいこの内のどれかだ。
高校二年生の初夏。
僕の元にまた新たな相談相手が現れた。
それは学校一の美少女と名高い白石真奈だった。
彼女が僕に持ちかけてきたのは、先述した相談の四つ目。
つまりは好きになった相手について――恋愛相談だ。
彼女の相談を受ける中で、僕の冴えない人生は一変するのだが、まずその前になぜ彼女が僕に相談を持ちかけることにしたのか。
そのきっかけから語っていければと思う。
☆
白石真奈。
この学校においてその名を知らない者はいない。
文武両道。才色兼備。
おまけに人当たりまで良いのだから役満だ。
これだけの要素が揃っていて、周りの人間に好かれない方がムリがある。当然のように彼女は学校一の美少女として名を轟かせていた。
その人気ぶりと言ったら半端なものではない。
去年の文化祭のミスコン、白石は参加していないにも拘わらず、男子生徒たちからの票を一身に集めてぶっちぎりの優勝を果たした。他の出場者はその場にいない者の優勝が読み上げられて全員ぽかんとしていた。
けれど、白石真奈なら仕方ないと結局は拍手をしていた。ミスコン会場には本人不在のまま盛大な拍手だけが響き渡ったという……。
そんな誰からも好かれている白石真奈ではあるが、一方で、彼女が誰かを好きになったという話は聞いたことがなかった。学校中の名だたるイケメンの告白を蹴った。普段女子とばかり仲良くしているから、一部では百合なのではという説も出ているほどだ。
真偽のほどは分からない。噂というのはいつも尾ひれがつくものだ。カエルが空を飛ぶくらいに荒唐無稽な話かもしれない。
噂なんて当てにならない。僕はそのことを誰よりも知っていた。
ある日の放課後。
僕は帰宅部としての使命を果たすために家路につこうとしていた。すると校門前に白石真奈が立ち尽くしているのを見た。
天使の輪が浮かんださらさらの黒髪。
きめ細やかな雪のような白肌。
見る者を惹き込む澄んだくりっとした目に、よく通った鼻筋。
清涼飲料水のCMにでも起用できそうな透明感のある涼しげな顔立ち。
清純な美少女、という言葉がこれほど似合う女子もそういない。百人いれば百人全員が思わず振り返るほどの美少女。
そんな白石は複数の強面の男子生徒たちに囲まれていた。
彼らの制服には見覚えがあった。近くの工業高校のものだ。そこの生徒は喧嘩っ早くて柄が悪いことで有名だった。
うちの生徒も度々絡まれては暴力を振るわれたり金品を奪われていた。
男子生徒たちはその風評に違わず悪顔揃いだった。一瞬自分がマッドマックスや北斗の拳の世界に迷い込んだのかと錯覚する。
「俺はそんなの絶対に認めねえぞ!」
中でも一番強面の男が叫び声を上げた。大気が痺れる。
「ちょっと。困るってば……! そんなの!」
「いいから! 俺といっしょに来い!」
嫌がる白石の手首を男は無理矢理掴んだ。引っ張っていこうとする。
「もう! 止めてよ! 離してっ!」
白石は逃れようとして身をよじって抵抗する。しかし男女の力の差は歴然だ。男は白石の手首を離そうとしない。
他の生徒たちは遠巻きに眺めるだけで助けようとはしない。
巻き添えを食らうのが怖いのだろう。相手は喧嘩慣れしてそうなのが五人。明らかに分が悪いどころか勝ち目はない。たぶん、止めに入っても止めきれない。一斉に袋だたきに遭ってしまうのがオチだ。
――けれど、このまま指を咥えて見ているわけにはいかない。
僕はそう思ったからこそ駆けだしていた。男子生徒たちの元に向かうと、白石の手首を掴んだ男の土手っ腹にタックルした。
「ぐっ……!?」
不意を突かれた男は手首を掴む力を緩めた。ぱっと白石の拘束を解いた。すかさず僕は彼女の手首を掴んだ。
「白石さん! こっちだ!」
「えっ……!? ちょっ……!?」
「逃げるんだ! 早くっ!」
僕は彼女の手を引いて駆けだした。脇目も振らずに必死に走った。背後から追いかけてくる声と足音を振り切るように。
しばらく走った先にある公園の中に入った。公衆トイレの前の塀に身を潜める。そこはちょうど陰になっていた。
「はあ。はあ……」
ガチガチの帰宅部に急なダッシュは辛い。肩で息をしてしまう。
「し、しんどー……」
白石さんも膝に手をついて参っていた。
準備運動もせずに走れば誰だってそうなるのか。
「えっと。君、同じクラスの守谷くんだよね?」
「……僕のこと、覚えててくれたの? 光栄だなあ」
「当たり前だよ。クラスメイトなんだから。守谷直孝くん。出席番号三十五番。後ろの席でいつも本を読んでる。……でしょ?」
この人、めちゃくちゃよく見てるな。クラスの全員そうなのだろうか。
「それより、いきなりどうしたの? 私の手を引いて走り出すなんて。……あ、もしかして駆け落ちでもしようと思った? でもね、守谷くん。駆け落ちをするには、私たちまだお互いのことを知らなすぎると思うなあ」
「違うよ! 白石さんが男子に強引に迫られてたから」
「あー……。そういうふうに見えてたんだ」
白石は「あちゃー」というふうに額に手をついていた。「そうだよねえ……。あの絵面はどう見てもそう見えるよね」
? どういうことだろう?
僕が怪訝に思っていた時だった。
「おい! ようやく追い詰めたぞ!」
背後から野太い声がした。
恐る恐る振り返るとそこには先ほどの男たち。物凄い形相をしていた。目が血走り、今にも襲いかかってきそうだ。
「よくもこんな舐めた真似をしてくれたな……」
男は指を鳴らすと声高々に吠えた。
「てめえ! 俺の妹に手を出してタダで済むと思うなよ!」
「……え? 妹? 誰が誰の?」
救いを求めるように振り返ると、白石が苦笑いを浮かべていた。額に手をついたまま海のように深いため息をついた。
「あのね。実はその人……私のお兄ちゃんなの」
えっ。
衝撃の事実に思わず目眩がしそうになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます