PART5

 ここにいる男(?)達は女装はしていない。

 全員ノリの聞いた白いシャツに黒いチョッキ。それに蝶ネクタイに黒ズボンという、昔の執事かバーテンそのままのナリをしている。


 俺はさり気なく彼の表情を観察した。


 色は白く、カメラに写っていた通りの美少年だ。


 縁なし眼鏡をかけてはいるが、それ以外は特に・・・・いや、あの右頬のあざだけは巧みなメイクで隠しているようで、影も形も見えない。


 俺は右手を上げ、今度はジンライムをオーダーした。


 直ぐ近くでグラスを磨いていた別のがやってきた。


だけど、初めて見る顔だね?』


『ええ、この間入ったんですよ。』彼は静かな声で答え、直ぐにグラスを変えてくれた。


『名前は?』


『あら、お客さんもう眼をつけたんですか?でも悪いけど、ウチはそういう店じゃないんですよ』


『分かってるさ。俺はなんだ。ただ気になっただけでね』


 俺は財布から五千円札を出し、畳んでコースターの下に置く。


 彼は『景気がいいんですね』といい、ジンライムを置き、札だけを取ると、


『「カゲマル」君っていうんですよ。初めからそれしか名乗らないんです』


 年齢としまでは聞かなかった。


 答えたとしても、正確まともな数字を話すはずはない。未成年だと知っていて、酒を出す店で雇うとは思えんからな。


『呼びましょうか?』彼はそう言ってくれたが、俺は、いいと答え、ジンライムを口に運んだ。


『カゲマル』は、カウンター越しにその男と話をしている。


 男は50代半ばくらい、小太りで、一見人が良さげに見えたが、片手の五本の指には全部、金の指輪をはめているし、服装も金をかけちゃいるものの、世辞にも似合っているとはいえない。


(ああ、そうだ)


 確か某芸能プロダクションの社長だ。主に演歌歌手を専門に扱っている。


 歌手志望の若い女を騙して、いかがわしいDVDに出演させたり、どこぞの偉いさんの『ベッド』に派遣したりと、良くない噂が1ダースほど、俺の耳に入っている


 何度か警察に事情聴取されたことはあったが、その度に上手く切り抜けてきた。



 俺は横顔をちらりとみた。


 下品な笑みを唇にたたえながら、男は頻りに『カゲマル』の手を握り、口説いている。

(あの面でそんな趣味があったとはな、)


 カゲマルはカゲマルで、決して嫌がる風でもなく、適当にあしらいながら、男から様々な情報ネタを聞き出していた。


(なるほど、これもネタの供給減だったんだな)


 俺はジンライムを干すと、


『ごちそうさん』

 

 また五千円札を置いて立ち上がった。


 入口を出る時、彼の後ろを通りかかる。


 奴が、ふと俺の方を見て、にこりと微笑む。無邪気で笑顔・・・・そうとしか見えない。


 俺はそのまま、何も気づかないふりをして店の外に出た。



『芸能リポーター?』


 社長は俺の差し出した名刺を受け取ると、胡散臭そうな目つきをこちらに向けた。


『正確にはフリーの芸能ライターです。色々とお伺いしたいことがありましてね』


 俺は探るように『社長』に向かって声をかける。


 この間のあの男だ。


 俺だって、仕事上必要ならば、偽の名刺ぐらい何枚も持っている。


『芸能界を食い物にしてるライター風情に話すことなんかないね』

 社長氏は如何にもこっちをバカにしたような顔つきで鼻を鳴らした。


 俺は黙って、雲母キララで写した写真を投げ出すように置いた。


 あれから何回か通いつめ、盗み撮りをしたのだ。


 探偵だってこの位のわざだってやってのける。


『悪徳芸能プロダクションの社長・・・・これだけじゃあんたにとっては痛くもかゆくもないだろうが、その人がゲイバーに通い詰めて男の子を口説いてる・・・・罪にはならなくっても、結構いいスキャンダルとして、高値で売れるだろうねぇ』


 今度は俺が鼻を鳴らす番だった。


『い、幾ら欲しいんだ?』たちまち社長氏の顔が歪み、汗がボタボタ流れ出した。


『・・・・』


 俺はにやりと笑い、探偵免許ライセンスとバッジを提示する。


『探偵?』

『実は俺の本業はこっちでね。あんたはどうもあまりいい人間ではないようだが、

 俺にとっちゃ、そっちはどうでもいいんだ。聞きたいことは他にあってね・・・・それとどうしても協力して欲しいことがある。代わりに、この写真をただでやろうじゃないか?悪い取引ではないと思うがね・・・・』









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