シノブ復調
佐竹さんって、あんなに誠実で情熱的な人とは思わなかった。だってさ、コトリ先輩に無理やりセッティングされたデートの時に、ちょっと言葉は飾ったけど、あれってお断りの返事だったんだ。あの状況では、それ以外に考えられなかったし。
でもね、全然くじけないの。私に嫌がられない程度に、上手に食事のお誘いしてくれるの。そのタイミングが絶妙で、ついつい乗っちゃうのよね。そりゃね、生理的に嫌だったわけじゃないし、もしあんな状況じゃなければ、大喜びでデートに出かけただろうし、交際の申し込みをされたら、勇んでOKしたかもしれないぐらいの人だもの。
それにしても、私ってそんなに綺麗になったのかな。社長たちはコトリ先輩に匹敵するみたいな話をしてたけど、どうにも実感がないのよね。鏡見ても映っているのは、やっぱりいつものシノブだもの。
でも、周囲の目が変わっているのは少しだけわかるの。私が意識しすぎかもしれないけど、どこに行っても注目されてる気がしてならないの。会社でもそうなのよね、私が社員食堂に入るだけで、なんか空気が変わる気がしちゃうのよ。でさぁ、でさぁ、佐竹さんに聞いてみたの、
「私って、そんなに魅力がありますか」
そしたら、
「ありすぎて困ります」
これをね、真面目な顔して言ってくれるの。これじゃ、お世辞にしかならないけど、なんかとっても嬉しかった。そうそう、今ではね『シノブさん』って呼んでくれるようになったの。私も『ミツルさん』って呼ばせてもらってる。
ここまで来れば、恋人関係になっても良いはずなんだけど、とっても悪いと思ってるんだけど、なにか踏み切れないものがあるの。
これはツトムの時にそうだった。ツトムは私が冷たくなったのと思ったのか、プロポーズまでしてくれたの、一発逆転みたいな作戦かな。プロポーズをしてくれたこと自体は、ホントに嬉しかったんだけど、やっぱり踏み切れなかったの。あの時のツトムの悲しそうな顔を思い出すと胸が痛むわ。でもこれでついに切れちゃったの。あれ以上待ってもらうのは無理だもんな。本当にゴメン、悪かったと思ってる。
でも、結果的にツトムと切れたから、ミツルさんと交際したってなんの問題もないはずなんだけど、なぜかダメなの。でもね、そうであっても、ミツルさんは全然気にしないの。
「シノブさんが、その気になってくれるまで十年でも待っています」
ここまで言ってくれるのよ。
「十年なんて待ってもらう価値がある女ではありません」
こう返したら、
「ホントは百年でもって言いたいのですが、そこまで寿命が保証できませんから」
これで感動しない女なんていないと思うよ。そこまで想ってもらえる女じゃないのにね。だから、早くちゃんと返事しなけりゃと、焦っているのは焦ってるの。
でもね、実は原因もわかってるんだ。コトリ先輩は山本先生が世界一イイ男に見えてしまって、もし恋してしまったら、二度と他の男は愛せなくなるって言葉に引っかかってるんだ。コトリ先輩に言われた時や、料亭で社長に話した時は『まさしくそうだ』としか感じなかったけど、今となればちょっと違うかもって感じ始めてるの。
実はね、夢の中にユッキーさんが出て来たの、自信はないけど、たぶんユッキーさんでイイと思ってるの、それでね、それでね、こう言われたの、
「シノブさん、ゴメンネ。カズ坊があなたを気にいったというか、あなたを素敵にしてみたいって強く思っちゃったの。あなたは、もっともっと素晴らしい女性のはずだからって。それでね、私がちょっと手を貸したのだけど、ああなるとは思わなかったの。でもね、あなたはだいじょうぶですよ。私が必ず守ってあげるから」
そりゃ、もう可愛い人だった。思わず、
「私はどうなるんですか」
こう夢の中で聞いたら、
「少し時間がかかるけど元通りになれるわ。そうなっても、私とカズ坊からのプレゼントは変わらないから安心して。シノブさんのこれからの人生で役に立ってくれると嬉しいわ」
それっきりだったけど、あの人こそ山本先生の心の中に住んでいるとコトリ先輩がいうユッキーさん以外にありえないと思うの。だってユッキーさんは最後に『可愛いユッキー』になったらしいし、夢に出て来た人は、これ以上はないぐらい可愛かったもの。さすがのコトリ先輩でも、あの可愛さには負けるんじゃないかなぁ。
問題はいつになったら元通りになるかだけど、一つのポイントはコトリ先輩が言っていた、三角関係が解消されて、先輩か加納さんが選ばれる時みたいな気がしてるの。それも先輩の口ぶりからすると、もうすぐだと思うの。ミツルさんを待たせているのは、本当に申し訳ないと思ってるけど、もうちょっとだけ我慢してね。
ところでだけど、ユッキーさんが贈ってくれたプレゼントって、私が綺麗というか素敵になることだと思うんだけど、他にもあるのかな。ひょっとしてミツルさんとか。うん、きっとそれに違いない。あんな素敵なプレゼントは他にないもの。もうOKしたくて、OKしたくて仕方がないのだけど、最後の最後の引っかかりが取れてくれないのが悔しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます