霊感レベルによる幽霊の見え方
岳石祭人
第1話 ある日突然、見えた。
幽霊って言うとどういうのを想像する?
やっぱ白い服を着て、長ーい黒髪を顔の前に垂らした、貞子みたいなやつ?
ああ、見たよ、そういうのも。他にも、事故に遭ったそのまんまの血の滴ったのとかもな。
それも怖かったけどさ、もっとすんごい、
なんっだ、これっ!?
っていう、すんげえ気持ち悪い、怖いやつを見たことがあるぞ?
そんなにハードル上げて大丈夫か?って?
ああ、大丈夫。マジで絶叫ものだから。
聞く気あるか? いいぜえ。覚悟しろよ?
……っておまえ、ニヤニヤして、全然幽霊なんて信じてねえだろ?
まあ、分かるよ。俺だって元々は全然信じてなかったから。
んなもん、なんかの見間違いの勘違いで、
心霊現象なんてものはみんな、科学で説明出来る自然現象なんだ、
って思ってたから。
俺が霊感に目覚めちまったのは、高一の時、事故で目を負傷したのがきっかけだった。
学校帰り、自転車に乗ってて、車にはねられたんだ。
幸いケガは大したことなくて、でも左目を強く打って、手術して、完全に治るまで三ヶ月掛かった。その間、ずっと眼帯して、刺激を避ける為にサングラスを常用しなければならなかった。
最初はな、よくある、何か気配がする、とか、視界の端に何か白いモヤモヤした物が見える、とか、ふっと黒い影が見えた……ような気がする、とかっていう曖昧なものだった。あと、声がしたような気がする、とかな。
ま、全然信じてない人間だったから、そんなのも全部気のせいだろうと思ってたんだよな。
俺に本格的に「霊の見方」を教えてくれたのは、一年上、二年生の聖美(きよみ)先輩だった。
学校にな、通る度に何か引っかかる、気になってしょうがない場所があったんだ。
教室に向かう、階段の踊り場なんだけどな。
通る度に、何かギョッとするものを感じて、いつも振り返ってしまうんだ。
でも、何もない、誰もいない、ただ白い壁があるだけ、でな。
で、そんな俺の様子に目をつけて、声をかけてきたのが、先輩だったんだよ。
「こっちこっち」
って俺を上の階に連れて行って、
「こうやって見てみ?」
って、柱の陰から半分顔を覗かせるようにしてな、
「境界を見るんだよ。”キワ”を通して見るようにね」
って。
ほら、片目をつぶって、こうして手を目の前に持ってくると、輪郭がぶれて半分透けて見えるだろう? 柱のそれを通して見ろって言うんだ。
すると……
いたんだよ、女子生徒が、壁の方を向いて。
妙に黒っぽくて、”影”みたいに見えた。
驚いて見ていると、その女子生徒は、ふっと、顔を上げて、こっちの方へ首を向けようとした。
「おっと危ない」
先輩は俺を引っ張って壁の陰に隠れさせた。
「”深淵を覗く時、深淵もまたおまえを覗いているのだ”、ってね。取り憑かれないように気をつけたまえ」
ってね。
聖美先輩はいわゆる
「見える人」
だった。
それで先輩にあの女子生徒のことを訊くと、
「さあ?」
と首をかしげた。
「幽霊の事情なんて知ったこっちゃないわ。君だって、ボッチの面倒くさそうなクラスメートなんて関わりたくないだろう?」
ってね。
そう言いながら先輩は俺には興味を持ったようだった。
いわゆる「見える」同類が珍しくて、嬉しかったんだろう。
「その気があるなら、色々教えてあげるよ?」
ってね。
俺は初めて見た幽霊に興奮して、
「是非」
と、弟子入りをお願いした。……ま、ぶっちゃけ暇だったしな。俺、サッカー部だったんだけどさ、目が完治するまで運動は禁止、ましてやサッカーなんてな、厳禁だったから。
先輩も帰宅部みたいで、やっぱり暇だったんだな。
俺はその日から、先輩のレッスンを受けることになったんだ。
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