好きなもの

うどんさん

第1話 好きなもの

歩きなれた道を一人往くと思い出す。昨日まで二人だったからね。


「ごめんね」


なんで謝られたのか、一瞬理解ができなかった。

でも彼の表情と、気まずそうに彼の服の裾をつかむ見知らぬ女が全てを物語っていた。



浮気されたんだ。


もうこの道使うの辞めるね。二度とあなたに会いたくないから。

夜中に一緒に行ったコンビニももう使わない。二度とその女を見たくないから。



帰りの電車で泣いたよ。周りの目も気にせずね。

勝手に動画撮られてSNSにあげられたりするのかな。意外と冷静なのかもね。

ラジオをつけるとあなたの面影が聞こえる。知らないふりしてあなたが教えてくれるの待ってたの知ってたかな。




あなたが楽しそうに教えてくれた道端の花も、綺麗と言った川沿いのホタルも本当は好きじゃなかったみたい。合わせてただけみたい。新しい女はお花もホタルも好きなのかな。好きだといいね。いつもニコニコしてそうな女だったもんね。



あなたのこと嫌いになろうとして、ダメなとこ探したけれど、そこがダメだったのかな。何度忘れても思い出すから。あなたも思い出してね。


___


食べ慣れた食卓で一人座ると思い出す。昨日まで二人だったからね


「これ、美味しいね」


あなたがそう言ってくれたから、何回も作った煮物。母直伝の味だからね。

新しい女にあの味出せるのかな。料理なんてしなさそうだったけど。


もうこのお皿使うの辞めるね。あなたがくれたものだから。



部屋に帰り泣いたよ。誰の目も気にせずね。

誰も慰めてくれないからさ。死にたくもなったけど。ここで死んだらあの女に殺されたみたいで嫌だからまだ生きとくよ。

テレビをつけたらあなたの面影が見える。電話の向こうでよく聞いた笑い声。もう二度と聞きたくない。あなたを思い出すから。

まだ好きって悟られないようにリモコンを捨てた。


あなたが教えてくれたフルーツタルトも、あの店のラーメンも本当は好きじゃなかったみたい。合わせてただけみたい。新しい女はフルーツとか好きそうだもんね。もしかしたら気づいてたのかな。私があなたに合わせてたこと。


あなたのこと嫌いになろうとして、ダメなとこ探したけれど、そんなダメなとこも好きだった。

何度忘れても思い出すから。あなたも思い出してね。



__





  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きなもの うどんさん @udonsan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ