第7話 灼熱の駐屯地
- 陸上自衛隊 東部方面区 第X警備区 ◯◯駐屯地
此処で毎年開催される地元との親睦を目した恒例の夏祭り納涼盆踊り大会。一般解放され出店や音楽隊の演奏で大いに賑わう中、向こうの広大な敷地(?)ではカーキ色や迷彩塗装の施された物々しい戦車や装甲車なんかの模擬戦闘実演が行われており、派手に空砲を撃ったりこれはもうすごい迫力だ!
「……で?なんで
「知らんよ」
暑さもピークな夏の午下り、"夕方には盆踊りもあるから" ……此処へ来るのは二人とも中学の頃以来、折角だから申し合わせて浴衣を着て出掛けた才子と菜々緒は指定された待ち合わせ場所で団扇をパタパタさせながら待った。
肩章の付いた薄いグレーのシャツにクロスタイ、帽子と同色の紫紺の膝下丈のスカート。変わったばかりの16式第二種夏服=制服姿の小柄な女性が足早に近づいてくる……そしてその後方からはわやわやと若い男性自衛官達が金魚の糞の如く連なる。ん? 何処かで見た構図だな?
「ようこそ◯◯駐屯地へ!高田二士、ご挨拶に参りましたぁ!」
背筋をビシッ!と伸ばし敬礼する灼けて少し精悍になった三白眼の小悪魔……
「……え? え〜シゲルコ〜? なんで軍服着てるわけ?」
「あら?
「うふふふ、
「ハッ!」
「了解!」
後続の若い隊員達は一斉に夫々呼応・敬礼したかと思うと、蜘蛛の子を散らすように全速力で何処かに走り去る。そんな傅く隊員達の様子を見て感心して菜々緒は呟く
「しかし何?あなたもうそんなに偉くなった訳? それにあなた……でしょ?こんな男だらけの所帯で」
「うふふふ♡」
相変わらず意味深な笑みだけを浮かべ上眼使い気味に菜々緒に応えるシゲルコは「こっち……」と二人を敷地の一角に案内した。
高射砲とか機関銃、戦車なんかの重火器や装備品を真近に見れる様公開している少し外れた展示スペース脇の所。何故かここに30台程のクラシック・カー達が勢揃いし、'駐屯地クラシックカーフェスティバル'と銘打たれ此方も一般公開がされて賑わっているではないか!
「?」
やけにこの場に不釣り合いな情景にシゲルコは自身の事には触れずも、この駐屯地祭に近年毎年 一般市民団体との交流促進・発表場所提供目的で企画されている事を説明した。
一昨年は婦人会や市民講座、学校やダンス教室のフラダンス、ヒップホップ、ベリーダンス、サルサ、カーニバルダンス、日本舞踊夫々の団体対抗異種ダンスコンテストが催され盛り上がったが、その曖昧な審査方法と結果に団体間の不満が爆発し小競り合いにまで発展し物議を醸した事。昨年は昨年で少し自衛隊寄りならしい企画をという事でサバゲー団体 vs 自衛隊模擬戦が華々しく本格的に催されたが、あろうことか無残にも自衛隊チームが惨敗を喫すると言う洒落にならない結果に場を凍りつかせてしまった事。
故に、今年はその反省からかバトル系は少々控え目に、展示と'敷地内走行'と比較的軽めのプログラムとして外国車は
「兎に角ぅ、丁度いい機会だったしぃ、おじさま達には出来るだけ古いポルシェで沢山参加して貰ってぇ……そしたら菜々ちゃんのお手伝いになるでしょお?」
向こうの方からこちらに手を振って呼ぶ声に目を凝らすと、あ!それは930SCの土井だった。
「お〜才子ちゃん久し振りだね? 暫く見ない内にすっかりお姐さんになっちゃっって!912調子はどうだい? ……で、こちらが噂のお友達の? 古いポルシェに乗りたいってお嬢さんは?ウチの姫から聞いてるよ!ね?二士殿?」
「ここじゃあ訓練終えて配属されたばっかりのいちばん下っ端の二等陸士だよぉ。官房長官殿」
"姫"? "官房長官"? "殿"だ?こ、こいつらはそんな恥ずかしい名前で呼び合ってるのか?ちょっと呆れはしたけど、それはさておきどうやら、シゲルコはこの催しに絡めて出来る限り多くのポルシェを集めて菜々緒に見て貰える様、土井をはじめメンバーに協力仰いで尽力してくれたんだ。相変わらず、見掛けによらずいいヤツだな?と才子は心中微笑んだ。
「ご苦労様です!」戻った若い男性隊員達が幾つもの大きなヤカンに入った冷たい麦茶を、才子達そして炎天下に愛車に寄り添うオーナー達に振舞ってくれた。彼等は
「これは?」
1962年式 PORSCHE 356B スーパー90 ロードスター。911の前身モデルたる356にあって通常60PSの物を90PSまでチューンアップされた4気筒エンジンを搭載する誠、優雅なフォルムを持つベルギーD’Ieteren Frères S.A.社架装のT6ボディを纏った美しいフルオープンモデルだ。特に同年製の物は希少で海外オークションでも高値で取引が為されている。
黒いボディにタン色の皮革内装のコントラストは落ち着いていて、とてもいい雰囲気だが少しクラシカル感が自分にはtoo muchに思え、次の物色に掛かったまるでモデルの様な浴衣姿の華やかな菜々緒を先頭に、気になった一台の傍に立ち止まってはまるで視察の大臣か誰かに
真夏の午後の陽射しは相変わらず容赦無く照りつけている。
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