第19話

上代屋根工事の職人ふたりが事務所に来た知らせを受けた岡本と千木良は、あわてて事務所に駆けつけた。

荻野という45歳の男と、島谷という32歳の男であった。

岡本は、事件当日に会社のクルマを使わなかったかどうかの確認と当日のアリバイを聞いた。

荻野は、前日の深酒で昼近くまで寝ていて、その後子供が学校から戻ったあとに、近くのショッピングセンターに買い物と食事に行っていたといい、島谷は独身で、その日は朝早くから群馬県にある実家に用事で行っていたと言った。

どちらも裏づけの捜査をすることになるのだが、岡本の印象ではどちらも「シロ」だった。

まだ、初見なのでもちろん断言ではないのだが、永年の刑事の勘というやつだ。



岡本と千木良は北千束署にある捜査本部に戻った。

警視庁から来ている捜査員はみんな捜査で出払っていて、がらんとしていた。

千木良が気をきかせてお茶を持ってきた。

「机に誰かの指紋があれば一気ですね」

「もしあったとしても、前(逮捕歴)がなければすぐにとはいかないな」

「もしなければどうなりますか」

「社長が臭いということになる」

「しかし、あの社長とガイシャとの接点がまだ分かりません」

「それをこれからやるか」

「どうやるのですか」

「他の奴に頼んで周辺を洗おう」

「もうそろそろ鑑識から報告が来ませんかね」

「夜になるんじゃないかな」

「それまでどうします」

「あの社長のことを調べるか」

「同業者の人を当たりますか」

「そうだな」

同じ屋根工事の工事だけではなく、工務店や住宅設備会社に手当たりしだいに電話をしていった。

数十件もある対象をひとつひとつ当たる。

ある業者に電話すると、上代屋根工事と付き合いの長い人に当たった。

工務店の社長だった。

その人の話によると、上代社長の趣味は、ゴルフだが、それは最近のことで、以前はアイヌ犬を飼っていて、アイヌ犬をこよなく愛し、3頭飼っていたほどだったという。

実は社長は先祖が北海道の人で、本人は言わなかったが、アイヌの人ではないかというのだった。

岡本はいきり立った。

すぐに話を聞きたいとその工務店に向かった。

警察車両が空いていたのでそれで環状八号線を北上して目的地に向かった。

途中渋滞するところもあったのだが、1時間ちょっとで着いた。

事務所に入ると社長が待っていた。

大島という60歳すぎの男だった。

「上代さんとは30年来の付き合いで、彼が工業高校を出て、屋根工事の会社に入ったときからの付き合いで、何でも知っていますよ。親類のような関係です」

表情は柔らかだった。

上代社長との何らかのトラブルがあるようには見えない。

しかし、そうなると友人について刑事にこんなにすらすら話すのには岡本は違和感があった。

普通知り合いや友人のことを警察に聞かれたら不愉快なものだ。

まして、殺人事件にかんする捜査だとしたら友人に不利なことをしゃべると迷惑がかかるのではないかと躊躇するのが普通なのだが、工務店の社長は何の抵抗もなくしゃべるし、会いたいと言っても即答で快諾したのである。

表では友好だが、裏になにかあると岡本は察していた。
















#21に続く。




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