第17話
北千束署の岡本と千木良は、練馬区にある屋根工事業者の会社に来ていた。
事件現場の近くにある防犯カメラに映ったクルマのナンバーがその会社の所有であったからだ。
「職人さんは自分もクルマを動かしてないと言い、誰かに貸した覚えもないという。では、あなたはどうなのですか」
岡本はすこし苛立ちながら社長に向かった。
「私はその日の仕事が無かったものですから、9時くらいまで家にいて、それからこちらに来ました。その後は、午後2時まで事務所にいて、そのあとパチンコに行き、家に帰っったのは午後7時ぐらいだったと思います」
「クルマは出さなかったということですね」
「そうです」
「しかし、現場近くに残された映像にはあなたの会社のクルマのナンバーが映っているのは事実です。このことが説明できなければ捜査を行うことになります」
「クルマは確かにありましたから盗まれたのではないと思います。不思議なことです」
「クルマの鍵の管理はどうされていますか」
「ふたりの職人がそれぞれ一台専用に使っていますので、それぞれ1本づつ持っています。スペアキーは、私のデスクにあります」
「そのキーは無くなっていませんか」
上代社長は、慌てる素振りで机の中を探した。
「刑事さんの言われたクルマのキーがありません」
岡本と千木良は立ち上がった。
「今まで気づかなかったのですか」
「必要があれば分かるのですが、そうでなければあるのが当たり前くらいに思っていましたから」
「とりあえず机には触らないでください。署から鑑識を呼びます」
千木良は北千束署の鑑識に連絡して練馬まで来るように伝えた。
「この机にはあなた以外には触りませんか」
「判子も入っていますので、経理をしている妻は触ることはあるかも知れません」
「恐れ入りますが、あなたと奥さんと職人の方の指紋を取らしていただきたいのですがよろしいですか」
「かまいません。妻を呼びますか」
「そうしていただけるとありがたいです。職人の方もお願いします」
しばらくすると鑑識がやってきて、上代の机の指紋を取りはじめた。
机だけではなく、他の部分もすべて指紋を取る作業を始めた。
鑑識作業をしている間は事務所にいられないので、上代を伴って近くのファミリーレストランに向かった。
妻はその間に事務所に到着し、指紋を採取された。
それが終わると、上代がいるファミリーレストランに来た。
「関係者全員に確認しているのですが、奥様の事件当日の行動を聞かせてもらえますか」
40歳代後半に見える上代の妻は岡本に真正面に見据えていた。
「私は6時に起きて子供たちを学校に送り出して、主人が出かけたあとにスポーツジムに行ってトレーニングをしていて、買い物をして家に帰ったのが午後3時くらいです」
妻のアリバイはある。
上代のアリバイもあるように思えるし、上代と伝統日本犬保存協会の副会長を殺す動機がまだありそうもないので容疑者にはならないだろうと想像していた。
鑑識作業が終わったころになって、職人のふたりが事務所に来た。
#20に続く。
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