夕日に染まる、君と。

@six__t____

この感情に気づくまで、

「_俺の隣で笑っていてくれませんか、?」


夏の終わり、夕日に染まる君は私にこう言ったんだ。


__________________


私は高校一年生になる時、父親の仕事の関係で都内から引越しをした。新しい家は、窓を開けたら海がそこにあるようなところにある一軒家だ。海が好きな私にとって、引っ越しはむしろ嬉しいことだった。

誰も知らない人の中での入学式は緊張したが、同じ中学校の人が誰もいないのは珍しくもなく、すぐクラスの人と仲良くなれた。

これから書く話はそんな私__髙橋美海のひと夏の話である。



1学期の終業式も終わり、みんなが夏休みに心を弾ませているころ私は

「夏休みとか暑すぎて無理ー」

「美海 夏の楽しさわからないとか人生の半分損してるからね?笑」

と1番仲のいい友達__井上里咲とそんな話をしていた。


「てか美海 海好きなんでしょ?夏とか1番いい季節じゃん?」

「だからー海と夏は別なのー」


「でも夏休みになっちゃったら橋本くんに会えないじゃんーそれはそれで辛い」

「いいですねー里咲さん 恋する乙女は」

里咲は同じクラスの橋本くんに恋をしている、らしい。私は恋なんて何年もしていない。そんな感情忘れてしまった。なんかそんなことしなくても楽しいというか。


「あっ里咲、じゃあ8月の終わりらへんにある花火大会、橋本くん誘ってみたら?」

「無理無理無理。美海一緒に行こ」

「いいよ」


私の夏は、こんなふうにぼんやりと始まった。




特に入りたい部活がなかったので入っておらず、夏休みはまるまる休みだ。家族で父と母の実家に帰ったり、中学の時の友達と会ったりと夏が好きじゃないなりに楽しく過ごしていた。

色々やりたいこともでき、暇になった。あっ、宿題は別で。

今年の夏は暑くて死にそうだが、しばらく海を見ていなくて見たくなったので、海に行くことにした。さすがに暑い昼間に行くことはできず、少し涼しくなった夕方に出かけた。


夕方とはいえ、海で遊んでいる人たちはまだ沢山いる。私は人が少ないところにあるベンチに腰を下ろした。楽しそうに遊んでいる人たちを見て、ぼーっとしていた。何気にこの時間が楽しかったりする。


「おーい、おーい だいじょぶかー?」

前からそんな声が聞こえたので見てみると、見覚えのある制服を着た男子が私を見てかがんでいた。どうやら私はぼーっとしている間に寝てしまったらしい。

「あーよかったー生きてないかと思ったわ」

前にいる男子はそんなことを言っている。なんか見たことある気がするけど全然思い出せない。

「すいません ありがとうございました」

そう私が言い、立とうとすると、

「ちょっと待って、美海ちゃん せっかくだからちょっと話そ?」

「え、なんで、名前、?」

「あーっとまぁ、たまたま? さっき美海ちゃんって勝手に呼んじゃったけど大丈夫?」

「あー、えー、、うん、いいよ 、」

なんで私の名前を知っているのかは謎だが悪い人ではなさそうだったし、暇だったので話すことにした。


どうやら彼は、私と同じ一年生で隣のクラスのひとらしい。クラスや先生の話などをしていくうちに私は彼に心を許していた。あ、大事なことに気づいた。名前を知らない。

「ね、名前なんていうの?」

「あっ言ってなかったね笑 俺 田中奏!奏って書いてカナタって読むんだけど、上から読んでも下から読んでもタナカカナタ!いい名前でしょ! カナタって呼んで!」

彼はニコニコしながら話している。そんな彼の横顔は、私が海に来た時には出てなかった夕日に染められていて、まるで魔法がかかっているかのようだった。




次の日、特にすることもなかったのでまた海に行くことにした。田中奏多_カナタくんまたいるかな?なんて淡い期待を寄せながら出かける準備をしていると私のスマホに一件の通知が来た。里咲からだった。

『橋本くんと花火行けることになった!ごめん!』

どうやら里咲は橋本くんと私が知らない間に距離を縮めたらしい。

『全然いいよ!楽しんでくるんだぞ』

と返信してから海に向かった。


海に着いたとき、昨日とは違って昼間に来たからさすがにいないか、とカナタくんを探していると、後ろから

「美海ちゃんー!」

と聞き覚えのある声がした。制服じゃなくて私服で走ってくるカナタくんが見えた。

「今日は制服じゃないんだね」

と私が言うと

「昨日は部活だったんだー今日から休み!」

と彼が言った。

また昨日と同じベンチに座ってたわいもない話をしていた。すると宿題の話になり

「美海ちゃん宿題終わったの?」

「終わってるわけないじゃん!カナタくんこそ終わったの?まぁ終わってないか笑」

「ちょ、決めつけんなよ笑 もちろん終わってるわけねーべ笑 」


そんな話をしているとまた私のスマホに通知が来た。

『任せとけって!笑 美海も花火大会行く人だれか捕まえるんだぞー笑』

里咲からのメッセージを読んでいたらカナタくんがふーんと言いながら隣から覗いてきた。

「ね、美海ちゃん 宿題一緒にやってくんない?俺バカだからわからんのよ笑」

そう言われて、私も終わってなかったし、ちょうどよかったのでおっけーした。

私の家と彼の家が案外近いことがわかったので、ここから近い私が宿題を持っていって、彼の家でやることにした。


彼は私が思っていたよりバカで全然先に進まなかった。私が教えてあげて分かると、すごく嬉しそうな顔をするのが可愛いなって思ったり。あれ、ふと思ったが出会って数日の男の家に上がり込んでるのやばくないか?こんなことある?などと考えていたら

「おーい ここわかんないんだけどー」

と言われたので、あまり深く考えないことにした。

気がついたらもう夕日は沈んでいる時間になった。そんなに夜は遅くないけどカナタくんが

「教えてくれたお礼に家まで送らせて」

と言うのでお言葉に甘えて送ってもらった。


一緒に歩いていると、カナタくんって意外と背が高いんだな、あれ?こんなかっこよかったっけ?とか気づくことがたくさんあった。

「ね、恥ずかしいからそんな俺のことみないでくんね?笑」

「あっごめんごめんつい」

「そういえば花火大会あるんだろ?美海ちゃん行く人いんの?」

とカナタくんがニヤニヤしながら聞いてくる

「カナタくんさっきトーク画面みたでしょ!? 一緒に行くって言ってた子が同じクラスの好きな男の子と行くことになったのでいませんー 」

「じゃあ俺と一緒に行こうよ」

こう言われたとき一瞬胸が高鳴った気がした。あれ?この感情なんていうんだっけ?

「美海ちゃん、いい?」

「うん」

自分の問いに答えが出ないまま彼に返事をしていた。

「そういえば連絡先知らねーべ 交換してもらっていい?」

もちろんおっけーなのですぐに連絡先を交換した。

そんなことをしていたら私の家に着いた。

私が

「送ってくれてありがとう 楽しみにしてるね」

と言うと彼は、

「ん俺も。あ、花火大会 浴衣着てきてね。俺も着てくるから」

と言って笑顔で手を振って帰っていった。

手を振り返しながら夏も悪くないなと思った。


家に着いて、自分の部屋でスマホを見てみると

『今日はありがと 花火大会楽しみにしてる』

と言う文章と変な動きをしているクマが一緒に送られてきていた。また胸が高鳴った気がする。




どんな髪型にしようかとか、カナタくんはどんなのが喜ぶかなとかを考えていた。あれ、なんでこんなカナタくんのことばっか考えてるんだろう?あ、思い出した。この感情、これは私がずっと忘れていた恋だ。私はカナタくんに恋してるんだ。

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