27石 はじめてのでんしゃいどう

27石 はじめてのでんしゃいどう




 RD社に向かう日の昼。

 余とレイラは何時もの格好で自宅を出発し、RD社に向かおうとしていた。


「レイラ、準備はいいか?」


「はい。ウルオメア様も大丈夫ですか?」


「問題ない」


 そこでエルミナがやってくる。


「ふたりとも準備出来たぁ?」


「ああ。といっても余たちに必要な準備なんてあまりないが」


「まぁそうだよねぇ。ただ、RD社がなにを言ってくるか分からないから注意だけはしておいてぇ」


「分かってる」


「師匠も頼むねぇ」


「任せてください」


「じゃあ、そろそろ出発した方がいいよぉ」


「うむ。では、いってくる」


「エルミナ、家のことを任せましたよ。いってきます」


「はぁい。いってらっしゃい」


 エルミナに見送られて、ふたりで家を出る。


「よし、まずは駅に行くぞ」


「はい」


 ふたりで駅に向かって歩き出す。

 RD社のビルは都心にあって、ここからだと大体1時間くらい掛かる。

 1時間と聞けば遠いような気がしなくもないが、移動時間としては短い方だろう。

 テレビでたまに2時間掛けて毎日電車通学をしている学生が居るとかやっているからな。

 実際に余の高校時代の同級生はほとんどが片道1時間以上の電車通学をしていた。

 そう考えれば遠くもないか。


 そんなことを考えながら歩いていると駅に到着する。

 駅は混み合っている訳でもなく、人が居ない訳でもない普通の状態だ。


「レイラ、まずは券売機で金を払う」


「切符を購入するのですよね」


「それでも良いが、今回はICカードを買おう」


「ICカード……確か事前にお金をチャージしておくことで、スムーズに支払いを済ませたり通常よりも値段が安くなるものでしたか」


「その通りだ」


「切符を購入するよりもお金がかかると思うのですが、よろしいのですか?」


「今後、電車やバスを使う可能性があるからな。買っておいて損はないだろう」


「確かにそうですね」


 ふたりで券売機に向かいICカードを2枚買って、それぞれ1000円チャージしておく。

 ちなみに余は元々ICカードを持っていたのだが、もう何年も使っておらず、どこかにいってしまったので新しくすることにした。


「ほら、レイラの分だ」


 買ったICカードをレイラに手渡す。


「ありがとうございます」


「気にするな。改札にいくぞ」


 ふたりで券売機の近くにある改札にやってくる。


「改札の通り方は分かるか?」


「はい。既に学習済みです」


「流石はレイラだ。よし、付いてこい」


 余はICカードを使って改札を通過すると、その後ろをレイラが同じように通過する。


「不思議なものですね。これでお金が払われるのですか」


「余も仕組みはよく知らん。流石にアッチには無かったからな」


「そうですね」


「仕組みを知らずに使っているものというのは多くあるのだ」


 そんなことを言いながらふたりで階段を上がってホームにやってくる。


「ここに電車がやってくるのですね」


「ああ」


 電車に乗るのも久し振りで、この駅に来るのも数年ぶりなのだが、何時の間にかホームが綺麗になっており休憩所やホームドアが設置されていた。

 まぁ何年も来てなければ、これだけ変わるか。


「すごいですね。多くの電車が時刻通りに運行するというのも」


 レイラが時刻表を見てそう言った。


「確かに。この国では電車に限らず時間通りに動くというのが当たり前になっているからな」


 そんな会話をしているとアナウンスが流れる。

 どうやら電車が来るようだ。


「レイラ、電車が来るぞ」


「はい」


 そして電車がホームに入ってきて停車し、ドアとホームドアが開く。

 乗っていた人間が降りた後、ふたりで電車に乗る。  

 電車の中は空いていて席も多く空いていた。


「あそこに座ろう」


 空いている席に座るが、レイラは立っている。


「私は立って「いいから座れ」」


 座ろうとしないレイラの手を取って隣に座らせる。


「そんなところで遠慮をするな」


「はぁ……分かりました」


 座ってすぐに電車が動き出す。


「あまり揺れませんね。帝国の魔導列車とは大違いです」


「まぁアレと比べたらな」


 魔導列車というのは帝国の重要都市を結び、走っていた列車。

 名前から分かるように魔力で走る列車で、見た目は電車よりも汽車に近い。

 が、大きさは汽車の2倍以上ある上に結構揺れるし、うるさい。

 しかも、帝都でも1路線1日2本しか来ないという本数の少なさ。

 値段も少々高いので金に余裕があるか、なにか理由がない限り一般人は乗らない。

 ただ、他の移動手段に比べれば安くて速いし、人だけでなく物資も多く運べるので需要はそれなりにあった。


 しばらくすると乗車客が増えていき、席が埋まって立っている人間が出てきた。


「人が増えてきましたね」


「普段はこのくらい混んでいるものだ」


 そうしていると途中の駅で腰の曲がった白髪のお婆さんが乗ってきて余のすぐ近くのポールに捕まる。

 それを見て余は席から立つ。


「お婆さん、ここに座っていいぞ」


「あら、いいんですか?」


「ああ」


「どうも、ありがとうございます」


 そう言ってお婆さんは余の座っていた席に座った。

 それを見ていたレイラがすぐに席を立つ。

 狙っていたのか、すかさずイヤホンをして片手にスマホを持った男がレイラの座っていた席に座る。


「レイラは座っててよかったのだぞ?」


「ウルオメア様だけ立たせて私が座っている訳にはいきません」


「そうか」


 レイラらしい。

 そうして、ふたりでつり革に掴まらずに立って景色を見ていると電車が地下に入った。


「地下を走るとは……帝国にはなかった発想です」


「仮に魔導列車を地下で走らせようなんて発想があっても実行はしないだろう。帝国は場所に困っていた訳ではないからな」


「それもそうですね」


 アッチの世界は日本のようにギュウギュウに詰まってはいないからな。


「次の駅で降りるぞ」


「分かりました」


 レイラと話しているうちに目的の駅に近付き、そして到着した。

 ふたりで多くの人間と一緒に駅に降りる。



「多いですね。不快です」


 レイラが無表情でそう言う。

 これはキレてるな。


「確かに知らない人間に身体を押されるのは嫌だが、まぁ都心の駅なんてこんなものだ」


「私は我慢出来ますが、ウルオメア様のお身体に触れるのは許せません……殺していいですか?」


「ダメに決まってるだろ」


「チッ」


「ほら、こっち来い」


 物騒なことを言うレイラの手を握って歩く。


「迷うなよ」


「問題ありません」


 人混みの中をふたりで進み、改札を抜けて階段を上り外に出た。


「人がゴミのように居ますね」


 駅の外に居る大勢の人間を見てレイラがそう言った。


「レイラ、言い方」


「失礼しました」


 スマホで時間を確認する。


「ここからRD社のビルまで5分だとして……まだ約束の時間まで結構あるな」


「どうします?」


「どこかで時間を潰すか」


 周囲を見回すと今人気のタピオカドリンクの店を発見する。


「お? レイラ見ろ。タピオカドリンクの店があるぞ」


「本当ですね。どうやら相当な人気の様子」


 レイラの言うように発見したタピオカドリンクの店は人が並んでいたので本当に人気なのだろう。

 テレビでは確かここは激戦区とか言っていたので、あの店は成功しているようだ。


「一度飲んでみたいな」


「では、私が並んで買ってきましょうか」


「そこの彼女たち! ちょっといいかい?」


「ん?」


 そこで金髪のちょっとふっくらした若い男が声を掛けてきた。


「初対面だと思うが、なにか用か?」


「よかったらボクちゃんとお茶しなーい? 奢るよー?」


「お? いいのか?」


 どうやら飲み物を奢ってくれるらしい。


「じゃあ、あそこのタピオカドリンクをふたり分買ってきてくれ」


「え? あ、うん。ちょっと待っててねー!」


 そう言って若い男はタピオカドリンクの店に行って列に並んだ。


「良かったなレイラ。タダで並ばずにタピオカドリンクが飲めるぞ」


「そうですね。見所のある若者です」


 しばらくして、若い男がタピオカドリンクをふたつ持って戻ってきた。


「お待たせー! 黒糖タピオカミルクティーだよ」


「おお。よくやった」


 レイラとふたりでタピオカドリンクを受け取る。


「む? お主は飲まないのか?」


「え? ボクちゃんタピオカはちょっとカロリーが……」


「よく分からんがお主が良いなら良い」


 黒糖タピオカミルクティーとやらを一口飲む。


「美味いな」


「そうですね。食感も悪くないです」


 ふたりでタピオカドリンクの感想を言う。


「そうなんだー! タピオカの食感を楽しむのもタピオカドリンクの醍醐味なんだよー!」


「ほぉ」


「詳しいのですね」


 そうやって3人で会話していると時間がやってくる。


「そろそろ時間だな。レイラ行くぞ」


「かしこまりました」


「え、お姉さんたち行っちゃうの?」


「ああ、予定があるのでな。タピオカドリンク美味かったぞ。ありがとう」


「あ、うん。どういたしまして。あ、ゴミは僕が捨てておくよ」


「おお、助かる」


 飲み終わったタピオカドリンクの容器を若い男に手渡す。


「ではな」


「あ、はい」


 そうして若い男と別れて、RD社に向けて歩く。

 少し歩いたところでレイラが耳元に口を寄せる。


「……それであの男、殺しますか?」


「ナンパくらい許してやれ。それに、おそらく初めてだろうしな」


「ウルオメア様がそうおっしゃるなら今回は見逃しましょう」


 相変わらずレイラは余のことになると容赦ないな。

 そう思いながら余たちはRD社に向かった。

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