24石 連絡と少年の謎
24石 連絡と少年の謎
初めてのゲーム配信を成功させた翌日。
余たちは何時ものように朝食と話し合いをする為にダイニングに集まっていた。
話す内容は昨日の配信終了時にきた連絡のことだ。
「エルミナ。連絡がきた相手は【RD社】なんだな?」
「うん。間違いないよぉ」
「何時かは連絡がくると思っていたが……随分と早かったな」
RD社というのはタオ手の公式であり、タオ手の開発運営している会社だ。
何故、RD社から連絡がきたのかというと、それは余たちの当初の目的のひとつである金を稼ぐこと――つまりAiTubeでの収益化関係する。
収益化には条件がある。
チャンネルの登録者1000人と動画総再生時間が4000時間を超えること。
これらは既に達成している。
しかし、余たちはまだ収益化の申請をしていない。
何故ならそれはひとつの不安要素があったから。
それは余たちの権利関係だ。
余がいくら本物のウルオメアだとしても、この世界には既にタオスの冒険というコンテンツがあり、そこに登場するウルオメアというキャラクターには当然権利があって権利者が居る。
なので、ウルオメアとして活動し、金を稼ぐには権利者の許可が必要な可能性があった。
まぁキャラクターの権利について実際は権利者の許可が無くても金を稼いでる人間は少なからず存在するし、権利者に訴えられても問題ない場合はあるようだ。
キャラクター自身には著作権はなく、登場する制作物に著作権があるらしい。
しかし、キャラクターが商標登録されていると許可が必要になってくる。
当然、余たちは商標登録されているので、余たちが有名になっていく上で権利者に訴えられるのは不味い。
なので、配信開始する前に事前にRD社に連絡をしておいたのだ。
まぁ許可がもらえなかった時の為の手札もあったので、実際は半年ほどで収益化する予定だった。
「しかし、こんなに早く連絡が返ってくるとはな」
余たちがRD社に連絡した内容は『ファゴアット帝国の活動を認めてくれ』というもの。
普通はまともに取り合ってくれないだろう。
「うーん。ウーちゃんの知名度の広がり方からして連絡がくるのは当然かもねぇ。ただ、内容が気になるんだぁ」
「内容? そういえば、まだRD社から連絡が返ってきたとしか聞いてなかったな。なんて言ってきたんだ?」
「えっと『ファゴアット帝国の活動の正式な許可を前向きに検討しております。つきましては実際にお会いしてお話ししたいので』って、明日RD社に来てくれっていうことだったよぉ」
「余たちの活動の許可を前向きに検討?」
いきなり会ってもいない余たちの活動の許可を前向き検討しているとはどういうことだ?
「流石に不自然ではないでしょうか?」
「そうだな。エルミナ、その連絡は本当にRD社からきたんだな?」
「うん。ちょっと調べてみたけど間違いなさそうだよぉ」
エルミナが調べたなら間違いないだろうが。
「うーむ。どういうことだ」
「分かりませんが、実際にRD社に行ってみるしかないのではないでしょうか」
「それしかないか」
「じゃあ明日はみんなでRD社に行くのぉ? それともウーちゃんひとりでぇ?」
「……いや、行くのは余とレイラだ。レイラには余の秘書としてきてもらう。何故、余ではなくファゴアット帝国としての活動を認めてもらうかの説明にもなるしな」
「かしこまりました」
「エルミナには家からのサポートを頼む」
「はぁい……移動は電車だよねぇ」
「そうなるな。流石にタクシーでは金がかかりすぎる」
「そっかぁ」
少し残念そうな様子でエルミナがそう言った。
「どうかしたのか?」
「まだ電車も車も乗ったことがないから乗ってみたいなぁって思ったんだぁ」
「なるほど」
機械好きなエルミナらしい。
「今度3人で電車に乗って遊びに行くか」
「いいのぉ!?」
エルミナがすぐに食いついてくる。
「バレる危険がありますが」
「たまには外に出て羽を伸ばすのも必要だろう。それにもう活動を開始しているんだ。バレたら新メンバーとして押し通すさ」
「はぁ……しょうがないですね」
「やったぁ!」
こうして今度3人で電車に乗ってどこかに遊びに行くことが決定した。
☆
「はぁ……」
「どうした? ため息なんてして」
昼休み。
弁当を雄二と食べていた隆盛がため息をついた。
「あ、もしかして美少女転校生のことか?」
「ちげーよ」
「なんだ。この間いきなり声を上げたから気になってるのかと思った」
「あれは……まぁ色々あんだよ」
「ふーん?」
(ウルオメア……一体何者なんだ)
相変わらず隆盛は雄二にウルオメアのことを上手く聞き出せないでいた。
そして、ウルオメアに助けてもらった日からチラつくウルオメアの影が気になってしょうがない。
主に妹の由亞からだが。
そんな隆盛を見て雄二はニヤリと笑う。
「そんな憂鬱そうな隆盛にビッグニュースを教えてやるよ」
「あ? ビッグニュース?」
「絶対驚くぞ?」
怪訝そうな隆盛を横目に雄二がポケットからスマホを取り出して操作する。
「これ見てみ?」
そう言って雄二が隆盛にスマホの画面を見せる。
「なっ!?」
思わず隆盛が声を上げる。
雄二のスマホにはAiTubeで配信するウルオメアの姿が映っていたからだ。
「これは……」
「俺も最初見た時は驚いたぜ。なんせリアルウルオメア様がAiTubeで配信してるんだもんな」
(服装は違うが、間違いない。俺を助けたウルオメアだ!)
隆盛はスマホの画面に映るウルオメアを見て確信していた。
「お前、ウルオメア様のこと気になってただろう? だから絶対驚くと思ってたんだよ」
「ああ……」
「いやー世の中にはウルオメア様にこんなに似ている人間が居るんだなぁ。すげー気合の入ったコスプレだよな」
(違う。コスプレなんかじゃない。あれは本物のウルオメアだ)
隆盛は思わず出そうになった言葉を飲み込む。
たとえここで雄二にウルオメアが本物だと言って信じてもらえる保証はないし、信じてもらったところでなにも起きやしない。
「昨日もゲーム配信なんて神プレイ連発だったぜ」
「ウルオメアがゲームを?」
「ああ。MFBG、知ってんだろ?」
「今人気のバトロワだろ」
「そう。それをプレイしてたんだよ。初見プレイで最初はグダッてたらしいけど。ま、俺も知ったのが配信途中だったから最初は見れなかったんだけどな」
(ウルオメアがゲーム。MFBGを初見プレイ。タオスの冒険の世界からこの世界にやってきて、馴染み初めているのか?)
「すごかったぜ。ツブヤイターのトレンド1位になったからなー。それで俺も知ったんだよ」
「ウルオメアがツブヤイターのトレンド1位。かなり有名なのか?」
「おう。今じゃタオス関連のファンで知らない奴はほとんど居ないんじゃないかね」
「そんなにか」
(俺が助けてもらった時は一応正体を隠している感じではいたが、正体を隠すのをやめたのか?)
「いやーお前も見た方が良いぞ……隆盛?」
(いや、雄二の言う通りなら今のウルオメアはクオリティーの高いコスプレイヤーだと思われている)
「おーい」
(本物だということを隠しているのか)
「きーこーえーてーまーすーかー?」
(俺に見せたあの力は俺を助ける為に仕方なく見せた?)
「ダメだこりゃ」
そんなふたりのやり取りをひとりの転校生がジッと見ていた。
結局、授業中も上の空だった隆盛は放課後、担任の教師に呼び出されて叱られ、ひとりで帰路につく。
(ウルオメアが何者か気になるが、そんなことよりも俺は助けてくれたことや、由亞にお金やジュースをくれたことについてお礼が言いたい)
「はぁ……」
(嘘だ。本当はめちゃくちゃ気になる。ウルオメアが本物なのかどうか、何者なのか知りたい)
「……俺はつまらない駄目人間だ。そこはお礼を言いたいが為でいいだろう」
そうして隆盛は自宅に帰った。
「ただいまー」
「あ、お兄ちゃんおかえりー」
すぐに由亞が笑顔で隆盛を出迎える。
どうやらトイレに行っていたようだ。
「今お客さん来てるからね!」
「お客さん?」
隆盛は誰だと思いながら挨拶をしておこうとリビングに行くと――
「お? あの時の少年じゃないか」
思わず隆盛はその場でずっこけた。
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