ソシャゲキャラになった彼女の日常

リブラプカ

プロローグ

1石 タオスの冒険

1石 タオスの冒険




 【タオスの冒険】というアニメをご存知だろうか?

 今から5年前に放送された全24話のオリジナルアニメ。

 ストーリーとしてはセミナ王国の一般兵士である主人公のタオスが、突如攻めてきた隣国のファゴアット帝国と戦いながら成り上がっていくというものだ。


 これが近年稀に見る大ヒットを記録した。

 放送前はそのシンプルなタイトルの所為で見向きもされず、バカにもされていた。

 しかし、放送されるや否や、美しく迫力のある映像や耳に残る楽曲、魅力あふれるキャラクターたち、そして主人公であるタオスの王道成り上がりストーリーにみんなが魅了されたのだ。

 その結果、大ヒットして数々のグッズや二次創作物が生まれた。


 そして、当たり前のように【タオスの冒険】の2期が制作決定。

 ネットでは2期が制作発表された瞬間、あらゆるSNSがサーバー落ちしたと言われている。


 そんな【タオスの冒険】の2期がヒットしない訳がなく、1期を上回る大ヒットを叩き出し、放送された24話すべてでツブヤイターのトレンド世界1位を掴み取った。

 1期の放送から5年経った今でもその人気は止まる所を知らない。


 俺も【タオスの冒険】に魅了されたオタクのひとり。

 中でも俺は【ウルオメア・ファゴアット】というキャラクターが大好きだ。

 ウルオメアはその名にファゴアットとつくことから分かる通り、ファゴアット帝国の皇族。

 しかも、皇帝本人である。

 皇帝と聞くと威厳のあるおっさんを想像するが、ウルオメアは違う。

 ウルオメアは紫色のロングの髪で金色の瞳を持つ長身のすらっとした美女である。

 そう“美女”である!

 しかも、最強キャラだ!


 だが、俺がウルオメアを好きな理由は美女だからとか最強だからだけではない……もちろん見た目も強さも好きだけど。

 ウルオメアは1期でラスボスの位置に居た。

 序盤の展開では、急に王国を攻めてきた彼女はタオスやその仲間から血も涙もない冷酷非道な女帝だと思われていた。

 しかし、話が進みごとにその認識は変わっていく。


 ウルオメアにはたったひとりの血の繋がった妹が居たのだが、その妹は生れながらに身体が弱く、満足に生活も出来ない状態であった。

 そんな妹の容態が急変し何時死んでもおかしくない状態になってしまう。

 妹を溺愛していたウルオメアは血の涙を流し苦悩する。

 そこに穢れ神と呼ばれる神がウルオメアに語り掛けた。

 「我の願いを叶えれば、妹の命を救ってやろう」と。

 ウルオメアはその声にすぐに飛びつき穢れ神と契約する。

 穢れ神の願いはセミナ王国のどこかに居る神の血を引く人間を殺すこと。

 そしてウルオメアは妹の為に修羅となり、セミナ王国を攻め滅ぼす決意をしたのだ。


 元々ウルオメアは帝国の民から愛し愛されていた。

 だから、帝国の民はウルオメアの為に武器を取った。

 そんな帝国の民から真実を知ったタオスと仲間たちは苦悩しながら戦い続ける。


 それからなんだかんだあって、最終的に神の血を引いていたタオスとウルオメアが一騎討ちをして、その戦いの最中に神化したタオスに敗れる。

 最後はタオスの腕の中で涙を流しながら妹のことを彼に託して亡くなった。


 これが1期のウルオメアというキャラクター。

 最初にタオスに感情移入してウルオメアって酷い奴だなと思っていると、途中でウルオメアの真実が分かって涙を流し、一騎討ちで涙を流し、涙を流して亡くなった彼女を見て涙を流した。

 これで好きになるなという方が無理だ。

 結果、ウルオメアは【タオスの冒険】のファンからは絶大な人気を手に入れた。


 しかし、ウルオメアの出番は終わりではなかった。

 【タオスの冒険】の2期の終盤。

 地上に侵攻してきた穢れ神に苦戦するタオスたちに、穢れ神がウルオメアの妹の病の原因が自分の掛けた呪いによるものだと明かした。

 その瞬間、実は死後神となっていたウルオメアが現界し、穢れ神の顔面をぶん殴る。

 そして驚くタオスとともに協力して穢れ神を滅ぼした。


 これでウルオメアの妹は元気となって世界も平和になり、ハッピーエンドかと思われたのだが、神の掟を破って強引に現界出来るほどの力を持つウルオメアは神々に危険な神と判断されて封印されることになってしまう。

 最後は数多の彼女を愛する帝国の者たちに見守られながら元気になった妹を抱き締めて光となって消えていった。


 その最後にファンたちは再び涙を流して感動した。

 俺もティッシュ一箱使い切るくらい泣いた。


 そんな大人気の【タオスの冒険】を題材にしたソーシャルゲームが作られないはずがなく、2期の放送終了からしばらくして【タオスの冒険】を題材にしたソーシャルゲームがリリースされることに。

 タイトルは【タオスの冒険-異世界からの手-】通称【タオ手】。

 当然のようにファンたちは飛びついたが、俺は手を出すことはしなかった……。

 昔、ソシャゲに苦い思いをしたから控えているのだ。


 ……嘘だ。

 本当はめちゃくちゃやりたい。

 しかし、俺は過去にソシャゲに1000万円以上課金してしまい、親父にソシャゲを禁止されているのだ。

 親父に養ってもらっている以上、ソシャゲに手は出さない……というより出せない。

 IT関係でしかもスマートフォンに関わる仕事をしている親父によって、俺のスマホは強制的にソシャゲがインストール出来ないようにされている。

 解除の仕方は分からない。


 そんな理由で俺はタオ手を諦めた。

 俺が好きなのは原作であって、番外編のようなストーリーのソシャゲではない。

 それになによりウルオメアが実装されてないし。

 そう自分に言い聞かせて。






『タオスの冒険-異世界からの手-が2周年ですってよ?』


『おー! めでたい!』


『2周年を記念して【ウルオメア】ピックアップガチャを開催します! 期間は明日から6月10日まで!』


『他にもイベント盛りだくさんだから、よろしくねー!』


 平日の真昼間にリビングのテレビでそのCMを見た俺は思わず咥えていた棒アイスを床に落とした。


「は?」


 ウルオメアピックアップガチャ?


「え? マジで?」


 俺はすぐさまスマホを手に取って【タオ手】の公式サイトを検索してアクセスする。

 すると公式サイトにはデカデカとウルオメアピックアップガチャと書いていった。


「おいおい……マジかよ」


 まさかウルオメアが実装されるとは……いや、ウルオメアは人気キャラだし、何時かは実装されることは分かっていた。

 分かっていたが、正直嫌だ。


「だって俺、タオ手やってないし」


 そこでネットの反応が気になって、ツブヤイターを開く。

 トレンドがすべてタオ手とウルオメアのことで埋まっていた。


「流石だな」


 主な呟きは『ウルオメアキタ!』『絶対手に入れる』『もう課金しました^q^』など。

 やっぱり他のイベント関連よりウルオメアの実装についての呟きが多い。

 俺もこの流れに乗りたい。

 心の底からそう思った。

 しかし、俺はソシャゲが出来ない。


「くそぉぉぉぉ!! ウルオメアぁぁぁぁぁ!!」


 そう叫びながら床に落ちた棒アイスの片付けをした。


「ピンポーン!」


「んあ?」


 雑巾を絞っていると、家のインターホンが鳴った。

 家に来客なんてほぼないので、多分宅配便だろう。

 そう思って玄関に行く。


「どなたですか?」


「宅配便でーす」


 やっぱり宅配便だ。

 でも、俺はなにも注文してないぞ?

 不思議に思いつつ玄関の扉を開けると宅配便の人が立っていた。


「諏訪 葵さん宛ですねー」


「あ、俺です」


 荷物は普通のダンボール箱だ。


「サインお願いしまーす」


 俺はサラサラっとサインする。

 自分の書いた文字だが、汚い文字だ。


「ありがとうございまーす」


 荷物を受け取ると、宅配便の人はそう言って帰っていった。


「一体、誰からの荷物だ?」


 玄関の扉を閉めてから荷物の発送元を見る。

 そこには【諏訪 豪太】と書いてあった。


「親父からかよ」


 わざわざアメリカからなにを送ってきたんだ?

 疑問に思いながらリビングのソファーに座ってダンボール箱を開けようとする。


「このっ!」


 ガッチリと貼られていたテープを手で剥がそうと頑張る。

 こういうのってハサミかカッターを持ってくれば早いのは分かっているのだが、ついつい手で開けたくなってしまう。

 なんとかダンボール箱を開けると、中には1枚のコピー用紙と白い箱が入っていた。


「なんだこれ?」


 不思議に思いながら、とりあえずコピー用紙を手に取る。

 コピー用紙にはなにやら文字が書いてあった。


「えっと……『葵へ 俺が開発に携わった最新のスマートフォンを送るから使ってくれ。この荷物が届く頃には前のスマートフォンは使えなくしとくから、はっはっは』……は?」


 いやいやいや……。


「待て。待ってくれ」


 最新のスマホをくれるのはいい。

 正直嬉しいし。

 でも、前のスマホを使えなくしとく?


「ッ!?」


 俺はポケットから何時も使っているスマホを取り出すが……。


「電源が入らないだと……」


 無情にも俺のスマホはうんともすんとも言わなかった。


「あんのクソ親父ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 引き継ぎとかなにもしてないのにぃぃぃぃぃぃ!!


「俺のウルオメアお宝画像と二次小説がぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺はソファーに崩れ落ちて涙を流した。


「くそっくそっ」


 しばらく泣いて落ち着いた俺は再びコピー用紙を手に取る。

 まだ続きが書いてあったからだ。

 どうせ、くだらないことが書いてあるんだろうなと思いながら目をやる。


『PS お前の大好きなソーシャルゲームをひとつだけダウンロード出来るようにしておいてやったから』


「フォオオオオオオオオオオオオ!!」


 内容を理解した瞬間、俺は雄叫びを上げていた。

 ソシャゲが出来る!

 つまり、タオ手がプレイ出来る!

 そして、ウルオメアが手に入るということ!


「フォオオオオオオオオオオオオ!!! 親父最高ォォォォォォォォォォ!!」


 さっきとは打って変わって親父を崇める勢いだ。

 しかし、コピー用紙の最後の一文を読んで俺は再びソファーに崩れ落ちた。


「『ただし、課金はダメだぞ♡』じゃねえよ……」


 なにが『課金はダメだぞ♡』だよ……良い歳したおっさんがハートなんて使うんじゃねえ……。

 ウルオメアへの道が遠ざかった。


「だが、希望はある!」


 課金出来なくとも、ゲーム内で貰えるガチャを回す為の無料の石を出来るだけ集めるんだ。

 タオ手をやってなくても、ツブヤイターの情報でそういうのがあるのは知っていた。

 それで明日のウルオメアピックアップガチャを回してウルオメアを手に入れる!


「やるしかねぇ!」


 俺にはこの道しかない。

 そう決意した俺はダンボール箱から白い箱を取り出して開ける。

 中には傷ひとつない綺麗なスマホが入っていた。

 それを説明書を読みながら起動する。


「確かに最新式って感じだな」


 画面が前のスマホとは違うと分かるくらい綺麗だし、動作もスムーズだ。

 でも、こんな機種テレビで見たことないし、俺に送ってきてよかったのか?


「まぁあの親父だし大丈夫か」


 そう思いながらスマホの設定を終えた俺は早速タオ手をダウンロードする。

 ダウンロードの際に間違ってないか何度も確認して震える指でダウンロードをした。

 なんてったって数年ぶりのソシャゲだし、もし間違えたら終わりだからな。


「よし、インストール出来たぞ」


 スマホの画面に映っているタオ手のアプリ。

 それをタップすると、すぐにタオ手が始まった。


「やるぞ! 悪いがシナリオは全部スキップだ」


 ウルオメアピックアップガチャは明日。

 シナリオを全部読んでいる時間はない。

 今は一刻も早く石を集めるのだ!


 そこからは無心で石を集め続けた。

 だが、段々とゲームの難易度が上がっていき、クリア出来なくなってくる。

 やはり無課金でゲームを始めたばかりだと限界があった。


 そして集まった石の数310個。

 10連ガチャ10回分である。

 これに賭けるしかない。

 俺はそこで疲れて眠りについた。



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